じじぃの「カオス・地球_95_第3の大国インドの思考・宇宙大国・月探査機成功」

Indian Moon Mission Of Two Decades, India’s Tryst With The Moon

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=uBsfxSXLpzA

インド チャンドラヤーン3号着陸機


インドの月面着陸の意義と世界的な月探査競争について宇宙政策専門家が解説

2023年8月28日 TEXAL
インドは2023年8月23日、チャンドラヤーン3号着陸機で月の南極付近に着陸した最初の国として歴史を刻んだ。これはまた、2020年に中国が月面に着陸して以来のことでもある。
インドは、アルテミス計画を進めている米国を含む、月着陸を目指しているいくつかの国のひとつである。月の南極は、クレーターや海溝、太古の氷のポケットが特徴的な地表であるため、特に興味深い。
https://texal.jp/2023/08/28/space-policy-expert-on-the-significance-of-indias-moon-landing-and-the-global-race-to-explore-the-moon/

第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

【目次】
まえがき
序章 ウクライナ侵攻でインドが与えた衝撃
第1章 複雑な隣人 インドと中国
第2章 増殖する「一帯一路」――中国のユーラシア戦略
第3章 「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる日米印の合従連衡
第4章 南アジアでしのぎを削るインドと中国

第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策

第6章 ロシアをめぐる駆け引き――接近するインド、反発する米欧、静かに動く中国

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『第3の大国 インドの思考――激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』

笠井亮平/著 文春新書 2023年発行

第5章 海洋、ワクチン開発、そして半導体――日米豪印の対抗策 より

コラム⑤ 宇宙大国・インド

インドといえば「IT」という印象が強いが、科学技術分野で進んでいるのはそれだけにとどまらない。宇宙開発でもインドは注目すべき成果を挙げているのだ。

インドで宇宙開発を担当しているのは、「インド宇宙研究機関」(ISRO)だ。日本で言えばJAXAに相当する。1962年にネルー首相によって設立された「インド国立宇宙研究委員会」(INCOSPAR)が前身で、69年にISROとなり、宇宙庁の管轄下に置かれた。本部は南部のカルナータカ州ベンガルール(バンガロール)に置き、現在では1万7000人近いスタッフが勤務している。

ISROは1975年に初の国産人工衛星「アーリヤバタ」(5世紀に活躍した天文学者・数学者の名前に由来する)を開発し、打ち上げに成功した。ただしこのときはソ連のロケットを用いてソ連領内のカプースチン・ヤールから打ち上げられたものだった。

その後、ISROは打ち上げ機「SLV」の開発にも取り組んだ。1980年7月には人工衛星打ち上げロケット「SLV-Ⅲ」によっ、てインド国内のサティーシュ・ダワン宇宙センターから人工衛星が地球低軌道に投入された。

このときSLV開発プロジェクトの責任者をしていたのが、A・P・J・アブドウル・カラムという科学者だった。彼はその後、国防研究開発機構(DRDO)の所長として国産ミサイルの開発に取り組んだほか、98年のインド核実験の際には政府の首席科学顧問として重要な役割を担った。こうした科学技術面での功績が評価されて2002年の大統領選挙で、当時与党だったインド人民党(BJP)の候補になり、圧倒的多数で選出された(なお、インドでは大統領の役割は儀礼的なもので、行政府の長は首相である)。
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インドの宇宙開発が新たな段階に入ったのは、2008年のことだ。10月22日に無人月探査機(チャンドラヤーン1号)(月の乗り物」を意味する)の打ち上げが行われたのである。探査機は11月8日に月周回軌道に投入され、月表面の観測を開始した。
チャンドラヤーン1号」には、アメリカ航空宇宙局NASA)やヨーロッパ宇宙機関(ESA)などの観測機器も搭載されていた。筆者はちょうどこのときインドのデリーに駐在していたが、メディアは連日この話題で持ちきりで、チャンドラヤーン1号の状況に国民が熱狂していたのをいまでもよく覚えている。なお、このミッションは当初2年の予定だったが、機器の故障により09年8月で通信が途絶え、終了となった。

2019年7月22日には、「チャンドラヤーン2号」から打ち上げも行われた。このミッションは、チャンドラヤーン2号から着陸船「ヴィクラム」を切り離して月の南極付近に着陸させ、月面の水の状況を探査するものだった。成功すればソ連アメリカ、中国に次いで世界の4番目になれるだけに、インド国内の期待は高かった。ところが、9月7日にヴィクラムとの交信が途絶えてしまい、着陸には至らなかった。

このように失敗もあるが、2019年3月にはミサイルによる人工衛星の破壊に成功するなど、インドは着々と実績を積み重ねつつある。

目下の最大のプロジェクトは、有人宇宙飛行計画だ。3人乗りの軌道周回機「ガガンヤーン」(「宇宙の乗り物」の意味)をGSLV-Ⅲロケットで打ち上げ、2日間地球の軌道を周回してから帰還させるという。

有人宇宙飛行に成功したのは、これまでソ連アメリカ、中国(2003年の「神舟5号」)の3ヵ国だけだ。インドは2000年代後半に計画に着手し、09年に政府によって承認された。
だが、当初16年に打ち上げが予定されていたものの、巨額の予算を確保するメドが立たず、一時は計画中止も取り沙汰された。モディ政権になってから再度計画を推進することになり、実現に向けて関連実験が行なわれている。新型コロナウイルスの感染拡大でここでも計画に遅延を来しているが、23年後半から24年前半にかけて無人機のミッションを2回実施した上で、24年第44半期に有人ミッションを行うという。

アジアでは、中国が宇宙開発を積極的に推進しているだけに、インドとしても遅れを取ってはならないとの意識があるのだろう。こうした状況を踏まえ、宇宙開発でもインドと日米豪の協力が始まりつつある。2022年5月のクアッド東京会合では、地球観測衛星データの共有や宇宙関連のアプリケーションの開発に向けて取り組んでいくことが謳われた。平和利用が大前提だが、今後この分野でも主要国間の競争が活発になりそうだ。