じじぃの「カオス・地球_70_デンジャー・ゾーン・歴史を正す・今こそチャンス」

異例 米中外交トップ“非難”応酬、わざわざ経由地アラスカで

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China could overtake the United States by 2030 ?


デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突

【目次】
序章

第1章 中国の夢

第2章 ピークを迎えた中国
第3章 閉じつつある包囲網
第4章 衰退する国の危険性
第5章 迫る嵐
第6章 前の冷戦が教えること
第7章 デンジャー・ゾーンへ
第8章 その後の状況

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『デンジャー・ゾーン――迫る中国との衝突』

ハル・ブランズ、マイケル・ベックリー/著、奥山真司 /訳 飛鳥新社 2023年発行

第1章 中国の夢 より

中国対外行動の源泉

歴代の中華帝国は「天下」を使命として周辺の小国に恭順(きょうじゅん)を示すよう求めてきた。アジアウォッチャーのベテランであるマイケル・シューマンは「このような歴史が、中国人の中に、自分たちや自国が現在の世界で果たすべき役割、さらには遠い将来にわたって果たすべき役割に対する、確固たる信念を育ててきた」と書いている。

北京の考えでは、中国が二級レベルの大国にとどまる「アメリカ主導の世界」は、歴史においていつも見られる「規範」ではなく、非常に残念な「例外」的状態なのだ。この秩序は第二次世界大戦後、つまり分裂した中国が、強欲な外国勢力に略奪された「屈辱の百年」の末期に作られたものだという。

したがって中国共産党の使命は、中国を頂点に戻し、その歴史を正すこととなる。習近平は2014年に「1840年代のアヘン戦争以来、中国刻印は長い間、偉大な国家の復興を表現するという夢を抱いてきた」と述べた。中国共産党支配下で、中国は「いかなる国からもいじめられることを二度と許さない」というのだ。習近平中国共産党主導の「運命共同体」という考えを持ち出したり、北京が適切な敬意を受ける世界を再創造すると語るとき、彼は「中国の優位は自然の摂理である」という、深く根付たこの信念を主張しようとしている。
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こうした動きは、ある意味当然のものと言える。たとえばアメリカが世界大国となった際、彼らは民主的な価値観を受け入れる世界を築いた。ソ連が東欧を支配した際には、共産主義体制を押し付けている。古代からある大国間の対立では、イデオロギー面での対立が、地政学的な対立を悪化させてきた。政府の国民に対する視点の違いは、その政府の世界に対する視点に、大きな違いを生むのである。

中国は典型的な修正主義国家で、世界における重要な地位を取り戻そうとする帝国であり、終りのない不安を抱えながら自己主張しようとする独裁国家である。これは実に強力で不安定な組み合わせた。

今こそチャンス

これらのことは、中国の対外行動の源泉が1人の指導者に縛(しば)られていないことを意味する。
アメリカは「習近平の問題」を抱えているのではなく「中国の問題」を抱えているのだ。中国共産党の修正主義的なプロジェクトは習近平が就任する前から始まっているのであり、これは国際政治の本質と中国の体制の本質に深く根ざしたものである。ところが中国が国際的に突きつけてくる挑戦が、時間の経過とともに鋭くなってきたことも間違いない。

1980年代後半から1990年代初頭にかけての中国共産党の指導者たちは、自分たちの中国に関する計画が、世界におけるアメリカの優越的な地位といずれ対立することになると早くも理解していた。ところが鄧小平は、中国が落ち着いた国際環境と世界経済へのアクセスを切実に必要としているときに世界唯一の超大国との関係を悪化させることは、自殺行為ではないにしても愚かなことであると考えていた。鄧小平は「われわれはいかなる扉も閉ざさない。過去からのわれわれの最大の教訓は、世界から自らを孤立させないことだ」と述べている。

これこそが、中国は「能力を隠して時を待つ」必要があり、より公然と自己主張できるほど十分に強くなるまで対立を避け、アメリカの力を鈍(にぶ)らせるしたたかな方法を見出さなければならないという、鄧小平の格言(韜光養晦 とうこうようかい)の始まりだった。中国が「先進国レベル」に到達すれば「中国の強さと世界におけるその役割は全く違ったものになるだろう」と鄧小平は説明していた。
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北京は「韜光養晦」戦略を捨て、習近平のモットーである「達成への努力」を優先させた。閣学通は「以前は、他国が強く自分たちは弱かったため、目立たないようにしなければならなかった。今は……周辺国に対して、われわれは強く、あなた方は弱いと示しつつある」と発言している。

2016年以降、変化は再び加速した。まず2016年のドナルド・トランプの当選、イギリスがEUからの離脱を決めた後のEUの危機、そしてその他の混乱が、既存の秩序の中に大きな混沌(カオス)を作り出したからだ。

この頃から中国の高官たちは、アメリカのリーダーシップからの歴史的な転換の可能性について公然と語り始めた。北京は一帯一路やデジタルシルクロードの推進、アメリカと同盟国の間にくさびを打ち込むこと、さらには不快な国々を罰するなど、国際制度機関において攻勢に転じ始めた。また中国はアメリカを追い越すために、次第にあからさまな意見表明をするようになった。

習近平は2019年に「いかなる力も偉大な祖国の地位を揺るがすことはできない。いかなる力も中国人民と中華民族の前進を止めることはできない」と述べている。

これらはすべて新型コロナウイルスパンデミックの前哨戦であった。世界的な危機が発生した当初のアメリカは大きなショックを受けたように見えたが、中国は比較的早く回復し、これによって北京は多方面で全身する機会を得たのである。まず台湾に軍事面で圧力を強め、香港の政治的な自律性の最後の痕跡を破壊し、複数の近隣諸国との紛争を一気に(時には暴力的に)エスカレートさせ、中国共産党の行動に疑問を表明する国々に対して超攻撃的な「戦狼」外交を仕掛けたのだ。

2020年末から2021年初にかけてアメリカ政治の混乱が深まり、大統領選の争いと連邦議会堂への暴徒の襲撃によって、中国の政策面での侮辱的な態度は目に見えるものとなっていった。2021年3月に米中の政府高官たちが会談した際、楊潔チ(ようけつち)は、ワシントンが「強者の立場」から北京と交渉できるとする考えを公然とあざ笑った。アメリカの情報機関は、中国の指導者たちが「画期的な地政学的変化」が進行中であると確信していた、と評価している。

これはまさに彼のボスが表明していた見解そのものであった。習近平は同年1月に「東洋が台頭し、西洋が衰退している」と宣言している。

現在のアメリカ、そして世界が直面しつつあるのは、まさにこのような中国である。彼らは上昇志向が強く、この上なく自信があり、ほとんどあらゆる場所で、圧倒的な影響力を主張することを決意している。

アメリカが混乱し、挫折するさなかに、中国は前進を続けている。しかし習近平とその側近たちが果たしてそこまで楽観的でよいのか、われわれは疑わざるを得ない。

中国の政治を注意深く分析すると、政府の報告書や表明に微妙な不安感を見て取ることができる。楽観的なテーマの中にも「警戒心や深い不安」が混在しているのだ。

習近平は北京の力を誇示しながらも「西洋が強く東洋が弱い」点が多々あることを認めている。彼は新型コロナウイルスを発生した直後でも「迫り来るリスクと試練」について警告していた。そして「誰もわれわれを打ち負かしたり窒息死させたりすることができない」ように、中国自身が「無敵」にならなければならないと宣言したのだ。そして自分の幹部たちに、これから始まる過酷な闘争に備えるよう忠告している。

習近平の懸念は間違っていない。たしかに詳しく見てみると、それとは別の中国の姿も見えてくる。国内では問題が山積し、国外では敵を増やしている中国だ。そのプロパガンダがどうであれ、この中国が長期的にアメリカを超えるのは至難の業であろう。だからこそ、近い将来にはさらに危険な存在になるかもしれないのである。