じじぃの「歴史・思想_590_福島香織・台湾に何が・習近平3期目と中台統一」

「台湾との武力衝突は有り得ますか?」中国・北京市民に聞いてみた

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2MPiW8fzisU

それでも「台湾人は中国人ではない」と主張するのは無理がある?


それでも「台湾人は中国人ではない」と主張するのは無理がある

2022.08.01 講談社
●台湾の先住民族
元々、台湾の先住民族はフィリピン、インドネシア、マレーシアの民族と同系のオーストロネシア語派に属する民族で、遺伝子上も近接していることが判明しています。

それぞれの部族が独自の言語を持っているため、部族間同士で意志疎通はできませんが、彼らにも義務教育が課され、公用語としての中華民国語を話すことができます。また、年配者は一般の台湾人と同様に、日本統治時代に日本語教育を受けたため、日本語を話すことができます。
https://gendai.media/articles/-/97080?page=3

『台湾に何が起きているのか』

福島香織/著 PHP新書 2022年発行

第2章 習近平3期目と中台統一 より

鄧小平を超え、毛沢東の再現者となる野望

ちなみに鄧小平は自分が没したのちに、江沢民が絶対権力者になるのを防ぐために江沢民の後継者も指名しておいた。実務能力は高く真面目だが、政治的野心の薄い、官僚気質の胡錦濤である。江沢民とその仲間たち上海閥と、胡錦濤官僚集団は一種の派閥間権力闘争を繰り広げ、それもそうとう激しいものであったが、ともに鄧小平の後継者という点で、党を分裂させるような戦いには発展しなかった。
そしてこの2人が選んだ後継者が、上海閥であり、かつ胡錦濤の慕う政治家・習仲勲の息子であった習近平だった。
だが習近平は官僚としての実務経験は低いのに、政治的野心が強く、猜疑心(さいぎしん)が強くて他者を信頼したり頼ることができないという厄介な個性の持ち主で、鄧小平路線を否定して毛沢東路線に回帰しようとした。共産党で本来否定されている個人崇拝キャンペーンを行い、ありとあらゆる権力を直接自分で掌握し、すべて自分が直接指導しようと考えるようになった。
鄧小平を超え、毛沢東の再現者となる、という野望を実現するために掲げた目標の1つが、鄧小平もなしえなかった台湾統一だ。
鄧小平の最大の功績は、改革開放路線により中国を経済大国にし、その国際的地位を向上させたこと。2度のベトナムとの戦争を経て解放軍を近代軍隊に作り替えたこと。もう1つが、英国の植民地であった香港を「一国二制度」というアイデアによって取り戻したこと。経済発展と領土拡張の2つをなし遂げたが、鄧小平に匹敵する成果を上げなければ、習近平は鄧小平を超えられない。
だから習近平は経済発展プランとして「一帯一路」戦略を打ち出した。鄧小平のように海外から資金と技術を呼び込み、中国を発展させるやり方とは正反対に、海外に中国の資金と技術を持ち出し、中国の戦略的影響力を拡大させようと考えた。この一帯一路が成功か失敗かは、まだわからない。だが、少なくとも現段階では暗礁に乗り上げている。
だから、習近平としてはさらにはっきりとした鄧小平を超える偉業をなさなければならない。

鄧小平が香港とベトナムに対して行い、その名声を高めた「戦争」と「領土奪還」を同時にできるアイデアが、習近平にとっての台湾統一ということになる。

「台湾分裂派」として敵視する理由

「92年コンセンサス」とは、中華人民共和国側の海峡両岸関係協会(海協会)と中華民国側の海峡交流基金会(海基会)が窓口となって1992年に合意に達した非公式の共通認識だ。両会ともに民間組織の形だが、両国の民間交流が本格化した1990年初頭に、実質の両国の交渉窓口として設置された。1992年に香港で両者が協議し、その後のやり取りを通じて非公式に「一つの中国」に関するコンセンサスを得た、とされる。
その合意内容は「両岸はともに『一つの中国』に属するが、事務的協議において『一つの中国』の政治的解釈には干渉しない」ということだが、中華民国側は「一つの中国」の解釈は各自が表明できる「一中各表」だと主張している一方で、中華人民共和国側は「双方とも『一つの中国』を堅持する」としており、若干のニュアンスの差がある。
このコンセンサスは長らく両国民とも知らず、国民党と共産党の民間の窓口機関で行われたものであり、正式の協定に署名されたものではなく、非公式の口頭の協議と電文の往来記録だけが存在していた。
のちに台湾に民進党陳水扁政権がスタートする直前、国民党政権の大陸委員会主任・蘇起がこのコンセンサスの存在を明らかにし、「九二共識」(92年コンセンサス)との呼び名が一般化した。
台湾問題を国共内戦の延長として捉える国民党政権としては、中国との交渉の前提にこの92年コンセンサスがあった、という立場であるが、陳水扁総裁ら民進党員、李登輝前総統、黄昆輝行政大陸委員会元主任、辜振甫海峡交流基金会理事長ら台湾本土派は、そのような合意はないという立場を主張した。
国民は92年コンセンサスを肯定し、2005年4月29日、当時野党だった国民党の連戦主席は、中国共産党胡錦濤総書記と北京で会談。これは国共内戦勃発以来、初めての国共トップによる歴史的な会談であり、ここであらためて両党の合意事項として92年コンセンサスの内容が明文化された。国民党の政治網領にも盛り込まれた。
だが民進党は、現蔡英文政権を含めて92年コンセンサスを認めていない。つまり「一つの中国」という考え方を受け入れておらず、このことが中国にとっては、台湾を中国と分裂させる思想を持つ「台湾分裂派」として敵視する大きな理由となっている。

蔡英文と台湾人を覚醒させた習近平の恫喝

「中国の夢」「中国民族の偉大な復興」に台湾人を参加させるという前提は、まさに自分の手柄として台湾統一を実現させるという個人的野心にほかならない。その手法の中に、武力行使を含むほか、金門島馬祖島のインフラ一体化といった具体的な政策を盛り込んでおり、海峡大橋や海底トンネルなど物理的に両岸をつなげる意欲を見せた。
習近平はこのとき「一国二制度」による中台統一を「必須」「必然」と言い切り、「中国人は中国人を攻撃しない」(『中国人不打中国人』)「武力行使の選択肢を放棄しない」といった江沢民の言い回しを繰り返すとともに、「中華民族の偉大なる復興に台湾同胞の存在は欠くことができない」(先に統一して、今世紀中葉の中華民族の偉大なる復興をともに目指す、というニュアンス)といった表現に、これまでの指導者にはない恫喝と焦りが滲(にじ)んでいた。
だが、この恫喝めいた呼びかけに台湾総統蔡英文はきっぱりと反論。はっきり「92年コンセンサス」を認めない立場を強調した。2018年の統一地方選の惨敗で、党内外から批判を受けていた蔡英文は、その対応により支持率が盛り返し、そして危ぶまれていた2020年1月の台湾総統選挙を見事に勝ち抜き、今に至る。やはり中国の恫喝によって、台湾人はいつも覚醒するのである。