習近平国家主席「3期目」政権に突入 “一強”態勢の確立
2022年10月16日 BS朝日
●「7回も台湾と連呼…台湾問題を重視」
【上山千穂】
きょう(10月16日)、中国共産党の党大会が開幕しました。
この党大会を経て、習近平国家主席の3期目の続投が確実と見られています。この続投を読み解くカギは、“父の仇(かたき)”を取りたいという習近平国家主席の執念にあると、中国問題グローバル研究所所長、遠藤誉は指摘しています。新型コロナウイルスの感染対策のため、きょうは別室からのご出演です。遠藤さん、どうぞ宜しくお願いいたします。
【遠藤誉】
よろしくお願いいたします。
https://www.bs-asahi.co.jp/sunday_scoop/interview/122/
習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン
【目次】
序に代えて――歴史の分岐点となった第20回党大会
第1章 江沢民の死と白紙革命
第2章 習近平「平和外交」の正体
第3章 コロナ政策転換でも光が見えない「新時代」経済政策
第4章 全人代から始まる新たな粛清
最終章 習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウンのボタン
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最終章 習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウンのボタン より
独裁の強化は国力の強化にあらず
経済の市場化と国際化が進むことで、やがて共産党は、資本と権力が癒着する「権貴族」が幅を利かせるようになり「株式会社共産党」と呼ばれる利権集団に変質していく。そして中国社会で共産党の権威と癒着した富裕層が誕生し、貧富の格差が誕生し、これが社会の不安定要因となっていった。この権貴族は、ロシアのオリガルヒや米国のディープ・ステートと呼ばれる金融・軍産企業につながる汚職政治家ともよく似ている。
共産党が資本主義に染まる汚職集団、利権集団になり、人民を搾取する「敵」となってくるにつれ、民主集中制を掲げる唯一の執政党としての共産党としての共産党のレジティマシー(正統性)が揺らぎはじめた。ここで三度目に、共産党体制は崩壊のリスクにさらされる。このリスクを回避するために、胡錦濤政権は科学的発展観と和諧社会を掲げて、微調整しながら、少しずつ党内民主拡大のほうに政治改革を進めようとする。おそらくは日本の「成功した社会主義」と評される「自民党独裁」を真似しようとしていたが、その自民党が野党に下っている間、胡錦濤政権は尖閣諸島周辺の漁船衝突事件をきっかけに、その日本重視政策が党内で批判され、挫折する。胡錦濤は結局どうすることもできず、矛盾をはらんだままの体制を習近平に禅譲した。胡錦濤は、おそらく習仲勲という開明派の政治家の息子である習近平に自分ができなかった政治改革を託したのかもしれない。だから胡錦濤は習近平を守るために、薄熙来失脚に協力したのだろう。
だが、習近平は権力を掌握したとたん、党内民主を進めるどころか、鄧小平から続く改革開放路線、集団指導体制から毛沢東式個人独裁の方向に逆走する。習近平の狙いは、至ってシンプルだ。今の共産党が直面する崩壊リスクの原因は、改革開放と集団指導体制によってもたらされた、と考えたのだ。だったら、それ以前の共産党の原点に立ち戻ればよい、ということだ。共産党の原点とは毛沢東である。それを「党の全面的指導と党中央の「集中統一指導の堅持」という言葉で表現した。そして「4つの意識」「4つの自信」「2つの擁護」というスローガンとして打ち出した。
4つの意識とは、政治意識・大局意識・核心意識・一致意識を指し、党の思想面の統一、政治面の団結、行動面の一致の必須を訴えるものだ。4つの自信は道、制度、理論、文化に対する自信で、社会主義が方向性としても制度としても理論としても文化としても絶対的に優れているという自信、信念を持たなければならない、ということ。2つの擁護とは習近平総書記の党中央、全党の核心としての地位を断固擁護することと、党中央の権威と集中的統一的な領導を断固として擁護するということで、習近平独裁を維持すること。これらは第20回党大会で党規約に盛り込まれ、党員が従わねばならない義務となった。
つまり、中国共産党は社会主義以外の信念や価値観は認めないし、党内に異論、異見をいうものは認めない。全員、習近平を確信とする党中央、つまり習近平個人に従え、ということが党規約に盛り込まれたわけだ。
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そもそも習近平は、素晴らしくて知性が高くて人望のあるスーパーマンタイプではない。名門清華大学卒業だが、習近平は通常の大学受験を経て入学したわけではない。文革時代に大学受験はなかった。習近平の学力は文革で下放されたために、中二当たりで止まっており、古典の名言の漢字が読めなかったりしたときなど、しばしばその無知がネット民から揶揄だれた。
学力のみならず、人格的にも決して優れてはいない。コンプレックスが強く、他者からの批判や忠告を受け入れられない。政策の失敗を認められず、反省したりフィードバックしたりできない。助言や批判をすぐに敵意ととり、粛清という形で暴力的に自分の異なる意見を排除し、恐怖政治を行った。党内にも政敵は多く、人民、特に都市の知識層や富裕層からも支持されていない。
だから私は当初、習近平政権は短命であろうと思っていた。だがその予測は外れ、習近平は通常の2期10年で反習近平派を徹底的に排除し、自分の手下で固めた最高指導部をつくり上げて第3期目5年の任期をスタートさせた。
この予測を外してしまった言い訳をすると、疑心の強い独裁者の権力への執着、異見者を徹底的に排除するシステムの強固さというものを、見誤ったということだ。さらに言えば、中国人はもともと被支配民族の長い歴史を持っており、支配されることに慣れていて、意外に抵抗しないのだ。時に自ら独裁者に支配されることを望むことさえある、その民族性を理解しきれていなかった。さらには現代のハイテク、デジタル、AI技術は14億人人口の反発を抑え込み、コントロールしようとする独裁者の大いなる助けとなった。加えて新型コロナ肺炎のパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などの厄災などが、民主主義の欠点や脆弱さ、そして米国のレームダックぶりがあぶり出し、それは習近平独裁新時代の追い風になった。
考えてみれば毛沢東も、あれほど国家を混乱させ、膨大な犠牲を人民に出したにもかかわらず、寿命を全うするまで最高権力の座に君臨していた。毛沢東の寿命が尽きるまで、誰も文革を終わらせることができなかった。
北朝鮮は金正恩体制についても、当初は多くの北朝鮮専門家が短命政権だと予測したが、苛烈な粛清によって延命し、今も元気にミサイルや衛星を打ち上げている。いったん、独裁体制のトップに就くと、それを倒すことは極めて難しい。
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ただ、習近平独裁が続くことが、中国が安定して発展し続けることになるかというと、それはイコールではない。独裁体制で発展する可能性があるのは、シンガポールのように開発独裁に舵を切った場合だ。
鄧小平時代の改革開放は開発独裁に近い路線で、経済発展を何より優先したから中国の奇跡の高度成長を生んだ。だが習近平独裁は、経済よりも政治・イデオロギーを優先し、西側民主主義陣営との政治的イデオロギー対立のために経済を犠牲にすることも厭(いと)わない。
習近平独裁が、今のスタイルの独裁を維持する限り、中国経済が再び高度成長期を迎えることはないだろう。民営企業の活力がこのまま奪われ、経済規模がじわじわ縮小し、人民の暮らしぶりは悪くなる。一度、バブル時代を経験した世代は、中国のこの長い低迷時代に不満を募らせる。この不満の矛先を、習近平のデジタル・レーニン主義でどこまでコントロールできるかは分からない。矛先は、地方政府に向かうのか、自分より少し豊かな隣人に向かうのか、あるいは外国の特定の国に向かうのか、いずれにしろ社会の不安定化が進むだろう。
習近平個人独裁が強化され、党内の反習近平派は徹底排除されたとしても、党内はむしろ団結に亀裂が入る。恐怖政治を前に、疑心暗鬼が蔓延(はびこ)り、密告合戦が起き、良心的で優秀な官僚ほど失脚させられ、やる気が失われる。能力がなく習近平への忠誠を誓うだけで出世してきた官僚たちが政治を運営すれば、党の求心力も落ち、統治の綻びが末端で生まれるだろう。
経済的に魅力が褪(あ)せていく中国は、習近平の米国への対抗心や国際社会を牛耳ろうとする野心ばかりが目立ち、西側先進国を中心とする国際社会から警戒され排除される。一方、チャイナマネーに群がってきた途上国も、そのチャイナマネーが尽きてくれば、むしろ資源が搾取され、地政学的に一方的に利用されることを嫌がるようになるだろう。