じじぃの「カオス・地球_51_時間の終わりまで・巨大ブラックホール」

How did they actually take this picture? (Very Long Baseline Interferometry)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Q1bSDnuIPbo

天の川銀河中心のブラックホール画像ができるまで


天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功

2022年5月12日  国立天文台(NAOJ)
今回撮影された画像によって、私たちが住む天の川銀河のまさに中心に存在する大質量天体の姿が明らかになりました。
これは多くの研究者が待ち望んでいた成果です。これまで天の川銀河の中心領域において、非常に重く、コンパクトで目に見えない何らかの天体の周りを星たちが回っていることが観測されていました。この天体は「いて座A*(エースター)」として知られており、これらの間接的な証拠からブラックホールであることが強く示唆されていました。
本日公開された画像により、いて座A*がブラックホールであることを示す初めての視覚的かつ直接的な証拠が得られました。

ブラックホールは光を放たない完全に漆黒の天体であり、そのものを見ることはできません。しかし周囲で光り輝くガスによって、明るいリング状の構造に縁取られた中心の暗い領域(「シャドウ」と呼ばれます)としてその存在がはっきりと映しだされます。
今回新たに取得された画像は、太陽の400万倍の質量を持つブラックホールが作り出す強力な重力によって曲げられた光を捉えたものです。
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220512-eht.html

講談社 『時間の終わりまで』

【目次】
はじめに
第1章 永遠の魅惑――始まり、終わり、そしてその先にあるもの
第2章 時間を語る言葉――過去、未来、そして変化
第3章 宇宙の始まりとエントロピー――宇宙創造から構造形成へ
第4章 情報と生命力――構造から生命へ
第5章 粒子と意識――生命から心へ
第6章 言語と物語――心から想像力へ
第7章 脳と信念――想像力から聖なるものへ
第8章 本能と創造性――聖なるものから崇高なるものへ
第9章 生命と心の終焉――宇宙の時間スケール

第10章 時間の黄昏――量子、確率、永遠

第11章 存在の尊さ――心、物質、意味

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『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』

ブライアン・グリーン/著、青木薫/訳 講談社 2023年発行

第10章 時間の黄昏――量子、確率、永遠 より

超大質量ブラックホールが消えていく

すべての銀河とはいわないまでも、ほとんどの銀河の中心部に棲んでいると考えられているブラックホールは、巨大な質量を持つ。
詳しい天文学的調査が進むにつれ、大質量の記録は次々と塗り替えられ、現在、王者の質量は太陽質量の1000億倍に迫ろうとしている。それほど大きな質量を持つブラックホールの地平面は、太陽から海王星の軌道の距離を超え、オールトの雲に迫るほどの半径を持つ。もしもあなたが、オールトという天文学者のことや、彼の名を冠したはるか遠くの雲のことは忘れかけているとしても、太陽の光がそこに届くまでには、100時間以上もかかることは覚えておこう。われわれが今話しているブラックホールは、とてつもなく大きな広がりを持つのだ。これから説明するように、そんなブラックホールは、その巨体に似合わない穏やかな振る舞いをする。

一般相対性理論によると、ブラックホールを作るレシピはいたって簡単だ。「適当に質量を集めて、十分に小さな球にしましょう」。こんなふうに言われれば、ブラックホールにあまり詳しくない人でも、「十分に小さな」というのは、正真正銘、とてつもなく小さいのだろうと予想するだろう。実際、その予想は当たることもある。果物のグレープフルーツからブラックホールを作るためには、直径10-25センチメートルにまで圧縮する必要があるし、地球からブラックホールをためには直径2センチメートル、太陽からブラックホールを作るためには直径6センチメートルにまで圧縮する必要がある。それほど小さく圧縮するには莫大な力が必要で、ブラックホールを作るためには「超」のつく高密度が必要になると広く信じられているのはそのためだ。しかし、太陽のさらに先へとリストを続け、次々と大きなブラックホールを作ろうとするうちに、驚くべきパターンに出会うだろう。

ブラックホールを作るための物質量が増えるにつれ、それを圧縮して達成しなければならない密度の値は小さくなるのだ。数学っぽい次の1文、いや2文をじっくり読んでもらえば、なぜそうなるかはすぐにわかるだろう。ブラックホールの事象の地平面の半径は質量に比例するから、ブラックホールの体積は質量の3乗に比例する。したがって、ブラックホールの平均密度(質量/体積)は、質量の2乗に反比例して小さくなる。つまり、質量が2倍になれば、密度は4分の1になり、質量が1000倍になれば、密度は100万分の1になる。数学は脇に置いて定性的なことをいえば、ブラックホールを作るときには、質量が大きければ大きいほど、あまり圧縮しなくてもよくなるということだ。
天の川銀河の中心にある、太陽質量の400万倍ほどの質量を持つブラックホールを作るためには、鉛の密度の100倍ほどの密度にする必要があるから、集めた物質をかなりの力で圧縮しなければならない。しかし、太陽質量の1億倍ほどの質量を持つブラックホールを作るのであれば、水と同程度の密度にすればよい。太陽質量の40億倍ほどのブラックホールを作るのであれば、あなたが今呼吸している空気と同程度の密度にするだけでよい。つまり、太陽質量のの40億倍の空気を集めることができたら、グレープフルーツの場合とも、地球や太陽の場合とも異なり、あなたはそれをいっさい圧縮する必要がない。その空気に作用する重力だけで、ブラックホールができるだろう。

私はなにも、空気を袋詰めしたものが、巨大ブラックホールの現実的な素材になると言いたいわけではないが、太陽の40億倍の質量を持つブラックホールの平均密度は、空気の密度と同程度だというのは注目すべきことだし、この例は、ブラックホールの特性は、一般的なイメージとは大きくかけ離れている場合もあることを鮮やかに教えてくれる。質量とサイズは巨大でも、平均密度ではかそけき存在のブラックホールは、間違いなく心優しい巨人だ。大きなブラックホールは小さなブラックホールほど過激ではないというのは、その意味においてなのだ。そしてそれを理解することが、ブラックホールが大きくなればなるほど温度は低く、放射は穏やかになるという、ホーキングの発見への直観的な説明にもなる。

したがって、大きなブラックホールが長生きなのは、互いに関係するふたつの要因のためである。ひとつは、大きなブラックホールは放出すべき質量が大きいこと。もうひとつは、大きなブラックホールは温度がより低いため、よりゆっくりと質量を放出することだ。方程式にいくつか数値を入れてみると、太陽質量の1000倍億の質量を持つブラックホールはごくゆっくりとしかしぼまないので、最後の放射を出して正真正銘のブラックになるのは、われわれがエンパイアステートビル(宇宙年表.階は対数目盛り)の最上階、102階に到達する頃となる。