じじぃの「科学・地球_131_重力波とは何か・闇を学ぶ・ブラックホール」

【ホーキング放射】ブラックホールは蒸発する

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7llfEuSv3x4

銀河の中心にあるNGC4261


ノーベル物理学賞ペンローズ氏ら ブラックホール研究

2020年10月6日 朝日新聞デジタル
スウェーデン王立科学アカデミーは6日、今年のノーベル物理学賞を、ブラックホールの存在を理論的に証明した英オックスフォード大のロジャー・ペンローズ教授(89)と、星の観測から銀河系の中心に超巨大ブラックホールがあることを突き止めた独マックスプランク地球外物理学研究所のラインハルト・ゲンツェル所長(68)、米カリフォルニア大ロサンゼルス校のアンドレア・ゲズ教授(55)の3氏に贈ると発表した。
https://www.asahi.com/articles/ASNB66HHMNB6ULBJ00T.html

銀河中心のブラックホール発電

山口大学理学部
我々の太陽系は天の川銀河に属しています。天の川銀河はすぐ近くのアンドロメダ銀河と同様に、渦巻き状の腕を持った渦状銀河です。
宇宙にはこのほかに、腕のような構造を持たない楕円銀河も存在します。最近の研究により、これらの典型的な銀河の中心部には太陽の百万倍から十億倍もの質量を持った超巨大ブラックホール(質量が巨大)が存在することがわかってきました。以前から、銀河のうちのごく少数はその中心部が異常に活発で、電磁放射の広い周波数域にわたって大量のエネルギーを放出していることが知られており、それらは活動銀河中心核(AGN)と呼ばれています。その中でも電波銀河と呼ばれるタイプのものでは、ジェットと呼ばれる細く絞られた高速プラズマ流の対が、しばしば銀河自身の規模を超えるスケールで観測されます(図1参照)。
https://www.sci.yamaguchi-u.ac.jp/ja/sci/research/science/kaburagi.html

重力波で見える宇宙のはじまり―「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る

ピエール・ビネトリュイ【著】
重力――もっとも弱く、謎に包まれていた力が、この宇宙に大きな影響を与えている。
アインシュタイン重力波を予言してから100年。
アインシュタイン最後の宿題”と言われた重力波の観測が成功したことで、「重力波天文学」がついに幕を開けた。
それによって、我々の宇宙観はどのように変わるのだろうか?
インフレーション、ブラックホール、量子真空、ダークエネルギー、量子重力理論……。
宇宙を理解する上で欠かせない問題をやさしく解説しながら、宇宙誕生と進化の謎に迫る。
序章 変貌する宇宙
第1章 重力、この未知なるもの――ガリレイニュートンアインシュタインの見解
第2章 一般相対性理論――重力の理論から宇宙の理論まで
第3章 宇宙を観察する
第4章 2つの無限――両者は共存できるか?
第5章 宇宙誕生の瞬間――インフレーションから最初の光が現れるまで
第6章 ダークエネルギーと量子真空
第7章 闇を学ぶ――ブラックホール
第8章 重力のさざ波――重力波とは何か
第9章 重力波の直接探知に成功――We did it!
第10章 宇宙の未来

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重力波で見える宇宙のはじまり 「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る』

ピエール・ビネトリュイ/著、安東正樹、岡田好惠、安東正樹/訳 ブルーバックス 2017年発行

第7章 闇を学ぶ――ブラックホール より

ブラックホールと銀河

1970年代には、ブラックホールの候補となる天体が次々と増え、説得力のある証拠も多く出てきました。しかし、ブラックホールが仮想的なものではなく、実在のものであると本気で考えられるようになったきっかけは、私たちの天の川銀河ブラックホールが発見されたことでした。
私たちの銀河の中心は、この地球から2万5000光年の距離の、複数の電磁波帯(とくにガンマ線、赤外線、電波)で活動的な領域にあります。そしてその中心には、いて座Aという電波源が存在します。多くの銀河の中心には巨大なブラックホールが存在するとみられることから、いて座Aから放射される電波は、中心に潜むブラックホールにガスが落ち込むことで放射されていると予想されました。
2003年、この予想がみごとに確認されます。いて座Aの近隣にある複数の恒星の動きが赤外線によって観測されたのです。
たとえば恒星S2は、10年かけて銀河の中心の回りを軌道運動しています。補償光学という光学技術の進歩のおかげで、これらの位置が正確かつ連続的に捕えられるようになりました。その結果、これらの恒星の軌道は、太陽の400万倍の質量を持つごく小さな物体に引きつけられて、その周囲を運動しているということが判明したのです。
これらの恒星のうちのいくつかは、中心の天体に1天文単位まで接近しており、この物体は極端にコンパクトだと感がられます。1天文単位とは、すなわち地球と太陽の距離です。
このコンパクトな領域にこれほど大きな質量があるというのは、私たちの銀河の中心に巨大なブラックホールが存在すると考えざるを得ません。

面倒なブラックホール

ブラックホールとは、すべてを飲みこみ、まわりには何もない天体だと思っているなら、その想像は真実からかけ離れています。
実際宇宙物理学が予想するブラックホールは、そのまわりに非常にはっきりした物質の構造を持っています。
たとえば、地球から約10億光年離れた銀河NGC4261の中心構造を見て見ましょう(画像参照)。中心には太陽の40億倍の質量をもつ、カー・ブラックホールがあると考えられています。
ブラックホールは回転しているため、その回転軸の方向が特別な方向になります。この方向に、高エネルギー粒子による2本のジェットが放射されているのが見てとれます。
ブラックホールの近くを軌道運動している物質は、降着円盤というディスク状の構造を形成し、その周りにはダストの環(トーラス)があります。降着円盤は回転軸と垂直な平面に存在しており、ブラックホールの地平線は、この円盤の中心にあります。肉眼では見えず、発光せず、そこを越えて内側に入った光は二度と戻ってきません。
このような、質量のとても大きなブラックホールの近傍(ただし、地平線の外観)での構造は、他のさまざまな状況でも見られる一般的なものです。
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1967年にアメリカが、米ソをはじめとする「部分的核実験禁止条約」に基づいて、ソ連の核実験を監視するために打ち上げた衛星ヴェラ(Vela)が、偶然にもガンマ線バースト(太陽が数十億年もかけて放射する以上の莫大なエネルギーがわずか数秒から数分程度の間に放出される巨大な爆発現象)を発見しました。この発見が1973年まで公表されなかったのは、おそらくこれがソ連の核実験ではないということを見極めるために時間がかかったためでしょう。
銀河の中心にブラックホールがあることがわかったのも、この高エネルギーのジェットのおかげでした。このようなジェットの存在が、いくつおの銀河の中心で観測されたのです。ジェットの源は、天文学者たちによって「活動銀河核」と呼ばれました。今では、これら活動銀河核と呼ばれていたものは、じつは巨大なブラックホールだと考えられています。
私たちの銀河の中心に存在するブラックホールは、比較的活動が鈍く、そのためジェットが観測されません。とはいえ銀河の中心を取り巻く分子の雲では、ブラックホールが過去に活動的であった痕跡が捕らえられています。
銀河の中心を占めるブラックホールは、銀河の活動に関して重要な役割を担っていたと思われます。ブラックホールの質量は、銀河全体の質量と大きさに関係しています。初期の構造が不安定な銀河は、太陽の質量の1万倍から10万倍という、今よりずっと軽いブラックホールを持っていたと考えられています。
銀河が、時間をかけて合体を繰り返すことで形成されたことは、すでにお話ししました。このときに、それぞれの銀河の中心にブラックホールも融合し、より大きなブラックホールを生み出したのです。この際に非常に面白い事が起きるのですが、それは第9章で説明します。
銀河の中心を占めるブラックホールは、宇宙の歴史の中で、互いに融合し、物質を吸い込むことで成長してきたのです。ブラックホールの歴史は、その銀河の歴史と言っても過言ではないでしょう。たとえば最近の研究では、銀河内に含まれる物質が足りないという観測結果がありますが、それはジェットによって、銀河の外へ放出されたのかもしれないと言われています。

重力の実験の場として

スティーブン・ホーキングは、ブラックホールの情報量は、地平線の表面積と正比例することを示しました。この量は「エントロピー」と呼ばれ、ひたすら増加します。質量Mのブラックホールに、質量mの物質が落ちたとします。ブラックホールの質量は<M+m>に増加し、シュヴァルツシルト半径もそれに応じて増大します。同時に、地平線の表面積も、そのエントロピーも増大するのです。
逆のプロセス(ブラックホールが質量mの物質を放出するプロセス)は存在しませんので、エントロピーは減少しないはずです。こうして、ブラックホールに関する熱力学の第二法則が得られます。
弦理論の成果の1つは、数多くのミクロの状態数についての計算から、ブラックホールエントロピーと地平線の表面積を結びつける式を導くことに成功したことです。
スティーブン・ホーキングはまた、ブラックホールの蒸発という現象も示しました。本書で今までしてきた話とはまったく逆になりますが、ブラックホールはエネルギーを失い、放射を行い、消える可能性があるというのです。
この現象の背後には量子論があります。ここで量子物理学と重力が交わることになります。ブラックホールのすぐ近くで、真空の量子ゆらぎから発生した、仮想の粒子と反粒子のペアを想像してみてください。
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ブラックホールの外側にいる観察者には、ブラックホールが粒子を1つ放出し、その粒子のエネルギーに相当するエネルギー(E=mc2)を失ったように見えるはずです。一方、反粒子は負のエネルギー(E=-mc2)を持っているとみなすことができます。反粒子を吸収したブラックホールは、その分、全体のエネルギーを失います。これを「ホーキング放射」と呼びます。
長期的には孤立したブラックホール(周囲に飲み込む物質のないブラックホール)は、ホーキング放射によって、エネルギーを失い続け、エネルギーがゼロになると消滅します。これがブラックホールの蒸発です。ちょうど、水の雫(しずく)が蒸発してなくなるのと似たようなものです。
太陽質量程度よりも重たいブラックホールでは、質量が大きいためこの現象を実際に観測するのは困難です。しかしブラックホールの蒸発は、たとえば、初期宇宙のブラックホール(ビッグバン直後のプランク期に生成されたブラックホール)が観測されていない理由を説明できる可能性があります。
CERNが建設した大型衝突型加速器LHCでは、(時空の余剰次元があるとう理論の下では)マイクロブラックホールを作り出せるという話題がありました。それによって心配した人もいたようです。しかし実際は、マイクロブラックホールができたとしても、さまざまな素粒子を放射して、ごく短時間で消滅します。この実験が世界に終わりをもたらすようなことはなく、逆にホーキング放射を実験室で計測する、絶好のチャンスにはなるでしょう。