じじぃの「カオス・地球_41_時間の終わりまで・熱力学と生命」

How Entropy Powers The Earth (Big Picture Ep. 4/5)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=sAMlGyaUz4M

第2図 地球エンジンの条件


物質循環と持続可能性について

問題克服の処方箋
●2-2 地球は熱エントロピー(熱汚染)を宇宙に捨てる星
地球環境も同じくエンジンである。
地球上にいろいろな活動が数十億年も維持されたのは,第2図に示すように,地球の活動が①入力②出力③物質循環,というエンジンの3条件を満たしていたからである(10)。http://www.sukawa.jp/kankyou/furoku2.html

講談社 『時間の終わりまで』

【目次】
はじめに
第1章 永遠の魅惑――始まり、終わり、そしてその先にあるもの
第2章 時間を語る言葉――過去、未来、そして変化
第3章 宇宙の始まりとエントロピー――宇宙創造から構造形成へ

第4章 情報と生命力――構造から生命へ

第5章 粒子と意識――生命から心へ
第6章 言語と物語――心から想像力へ
第7章 脳と信念――想像力から聖なるものへ
第8章 本能と創造性――聖なるものから崇高なるものへ
第9章 生命と心の終焉――宇宙の時間スケール
第10章 時間の黄昏――量子、確率、永遠
第11章 存在の尊さ――心、物質、意味

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『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』

ブライアン・グリーン/著、青木薫/訳 講談社 2023年発行

著者は理論物理学者だが、一般向けのベストセラー解説書も数多く手がけている。
本書はその中の最新の1冊だが、特異なのは理論物理学と生命の歴史、人類の文明・文化も組み入れて、宇宙の通史を語ろうとしていることだ。
中心となっているのはエントロピー・ツーステップと進化の概念である。

本書によれば宇宙全体でエントロピーが増加していれば、局所的に低エントロピー状態が生まれ得るのである。
これが、恒星系や生命誕生が熱力学第二法則と矛盾しないというエントロピック・ツーステップという考え方である。

第4章 情報と生命力――構造から生命へ より

生命情報の統一性

ウサギが生きているかどうかを判断するためのひとつの方法は、それが動くところを見ることだ。
もちろん、石も動くことはある。強い川の流れが石を下流に押しやることもあるし、火山の爆発が石を空中に吹き飛ばすこともある。ウサギの場合との違いは、石の運動は、その石に作用する力から理解することができるし、さらには予測さえできるということだ。水の流れや火山の爆発について十分な情報を与えてくれれば、私はその後の石の動きをほぼ正確に予測してみせよう。一方、ウサギの動きを予測するのは難しい。シュレディンガーが「空間的な境界」と呼んだウサギの体の内側で起こることが、ウサギの動きを決める重要な要因になりうるからだ。ウサギは、鼻をぴくぴくさせたり、頭をくるりと回して背後を見たりするし、脚を地面にトントンと打ちつけたりもする。そんな振る舞いのため、ウサギは意志を持つように見える。ウサギであれ、他のどんな生物でもあれ(われわれを含めて)、実際に自発的な意志をもつかどうかは、何世紀ものあいだ議論の続けられてきた問題だが、それについては次章で取り上げることにしよう。

まとめ

細かいことは脇にのけて、ここでの話をまとめておこう。食物からもたらされたエネルギー豊富な電子(もしくは植物の中で、太陽のエネルギーを受け取った電子)が化学の階段をポンポンと下り、各段階で放出されたエネルギーを使って細胞内の生物学的電池が充電され、電池に貯め込まれたエネルギーは分子の合成に使われる。合成された分子は、宅配業者のトラックが荷物を運ぶように、動力を運ぶ。エネルギーが梱包された荷物を、細胞内でそれを必要としている場所に、高い信頼性をもって配達するのだ。これが、あらゆる生命が動力を得るために使っている普遍的なメカニズムである。この独特のエネルギー経路が、われわれが行うすべての行動、すべての思索を支えているのだ。

少し前に、DNAを見るために小旅行をしたときと同様、この場合もまた、重要なポイントは細部を超えている。一見すると複雑怪奇な細胞のエネルギー供給のプロセスを、すべての生命が使っているということが重要なのだ。この統一性と、細胞の取扱説明書としてのDNAコードの普遍性が、すべての生命は同じ共通祖先から生じたということを、圧倒的な説得力で証拠づけているのである。

アインシュタインが自然の力の統一理論を探し求めたように、そして今日の物理学者が、物質と、さらには空間と時間までも視野に入れた。いっそう大きな統一を夢見ているように、一見するとまったく異なるさまざまな現象の共通性を突き止めようとすることには絶大な魅力がある。
カーペットにのんびりと横たわっている我が家の2頭の犬から、私の部屋の窓地殻の外灯に引き寄せられて混沌と飛びまわっている昆虫や、近くの池で合唱している蛙、そして今私の耳に声が届いた、どこかで遠吠えをしているコヨーテまで、あらゆる生命の内的な仕組みが、まったく同じ分子レベルのプロセスに頼っているのは、圧巻と言うしかない。そこで、細かいことは脇にのけて、最後の話題に進む前に一息入れて、この驚くべき知識をしっかりと噛みしめてほしい。

熱力学と生命

ダーウィンによれば、進化は、分子から単細胞生物へ、そこからさらに複雑な多細胞生物へと、構造の発展を導く。ボルツマンによれば、エントロピーは、家の中に漂うパンが焼ける香りや、ガチャンガチャンとやかましい熱機関、さらには燃焼する恒星に至るまで、物理系の展開のおおまかな筋書きを決める。生命は、これらふたつの影響力の両方に従っている。生命は進化によって生まれ、改良されてきた。そしてあらゆる物理系がそうであるように、生命もまたエントロピーの命じるところに従う。シュレディンガーは、『生命とは何か』の最後の2章で、これらふたつの力の緊張関係のように見えるものを探究した。物質が寄り集まって生命になると、その生命は長期にわたり秩序を保つ。そして生命が生殖すれば、やはり秩序のある構造に配置された分子集団が新たに生じる。そんな生命の営みのいったいどこに、エントロピーや無秩序や熱力学第二法則の出る幕があるのだろう?

シュレディンガーは、この問いへの答えの中で、生物は「負のエントロピーを餌として取り入れる」ことで、エントロピーの増大に抵抗していると述べた。彼のその表現は、その後の何十年間、さして大きくない混乱と、重箱の隅をつつくような批判を招いてきた。
だが、表現は多少違うが、シュレディンガーのその答えは、われわれが本書の中で発展させてきたエントロピック・ツーステップと同じなのは明らかだろう。生物は環境から孤立しているわけではないから、熱力学第二法則に従う取引があれば、それを逐一周囲の環境に反映させなければならない。ここは私を信じてほしいが、私は過去半世紀以上にわたり、自分のエントロピーを急激に増大させずにいることができた。私はそのために、秩序ある構造(主として野菜や、木の実や、穀物)を摂取してゆっくり燃焼させることでエネルギーを解放し(私はそのエネルギーを、酸化還元反応で食物から抽出した電子にエネルギーの階段を下りさせ、最終的に私が吸い込んだ酸素と結合させることで得た)、そのエネルギーを使ってさまざまな代謝活動に動力を与え、その活動の老廃物と熱を介してエントロピーを環境に捨ててきた。
エントロピック・ツーステップのために、私のエントロピー熱力学第二法則に反しているかに見えるが、環境は私の味方になって、私の分までエントロピーを増大させてくれた。細胞機能に動力を与える燃焼、貯蔵、エネルギー放出のプロセスは、蒸気機関に動力を与えるプロセスよりも複雑だが、エントロピーの観点からすれば、本質的な物理的プロセスはまったく同じなのだ。

シュレディンガーの言葉の選び方は別にして、それほど些細ともいえない気がかりな点は、高品質でエントロピーの低い栄養は、どこから来るのかということだ。動物から食物連鎖を下っていくと、直接的に太陽光を取り入れる植物に出会う。植物のエネルギーサイクルは、エントロピック・ツーステップの、また別の1例である。太陽からやlってきた光子が植物に吸収される光子は植物の中の電子をより高いエネルギー状態に蹴り上げ、細胞内の機械装置はそれを利用して(電子にエネルギーの階段を下りされる一連の酸化還元反応を介して、エネルギーを取り出して利用する)、さまざまな細胞機能に動力を与える。つまり太陽からやって来た光子は、植物にとって低エントロピーで高品質の栄養であり、植物はそれを吸収して生命活動のプロセスに利用したのちに、品質の下がった高エントロピーの廃棄物として環境中に放出しているのである(太陽から飛んできて植物に吸収された光子1個につき、地球は、秩序が失われてエネルギーとしての質の劣化した散在する赤外線の光子を、数十個ほど宇宙空間に放出している)。

エントロピーの栄養源を探してさらに先まで進めば、太陽の起源を探ることになるが、その物語は、第3章で扱った重力の物語と重なる。重力は、ガス雲を収縮させて恒星を作ることでエントロピーを減少させる一方で、恒星に熱を放出させることで環境のエントロピーを増大させる。やがて原子核反応が始まって星に明かりが灯ると、恒星は流れるように光子を外に送り出す。もしもその恒星が太陽なら、地球に届く光子は植物の代謝に動力を与える低エントロピーのエネルギー源になる。研究者たちはしばしば、生命を維持しているのは重力だというが、その背景にはこういう事情があるのだ。たしかに、重力は生命を維持している。しかし、今ではあなたもご存知のように、私は重力に対するその評価を、より公正なものにしたいと思っている。物質を集合させて恒星という安定な環境を保証していることに対し、重力を讃えるとともに、何百万年、何十億年もの長きにわたって高品質の光子の流れを着実に生み出すことに対し、核融合にも同じだけの賞賛を送りたいと覆うのだ。

核力は、重力と力を合わせて、生命を生み出す低エントロピーの燃料をこんこんと湧き出させる泉なのである。