じじぃの「カオス・地球_39_時間の終わりまで・ビッグバン・物質の起源」

Nuclear Fusion Explained

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Hy8fB32GZoc

宇宙物理学  インフレーションの終了

星空が好き、猫も好き
インフレーションの一般的なモデルでは、何らかのスカラー場によって一時的に現れたポテンシャルエネルギー(真空エネルギー)が宇宙膨張を実現すると考える。
このスカラー場のことを「インフラトン場」と呼び、インフラトン場に関連する粒子を「インフラトン」と呼ぶ。
●インフレーションの終了
スローロール・インフレーション・モデルでは、
インフラトン場がポテンシャルのなだらかな丘をゆっくりと転がりながら動いていく時に、インフレーションを引き起こす。
そして、ポテンシャルの崖に到達しすると、インフレーション膨張が終了する。
インフラトン場は、そこから急激にポテンシャルエネルギーが最小値の谷底へと落ち込む。
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=2583

講談社 『時間の終わりまで』

【目次】
はじめに
第1章 永遠の魅惑――始まり、終わり、そしてその先にあるもの
第2章 時間を語る言葉――過去、未来、そして変化

第3章 宇宙の始まりとエントロピー――宇宙創造から構造形成へ

第4章 情報と生命力――構造から生命へ
第5章 粒子と意識――生命から心へ
第6章 言語と物語――心から想像力へ
第7章 脳と信念――想像力から聖なるものへ
第8章 本能と創造性――聖なるものから崇高なるものへ
第9章 生命と心の終焉――宇宙の時間スケール
第10章 時間の黄昏――量子、確率、永遠
第11章 存在の尊さ――心、物質、意味

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『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』

ブライアン・グリーン/著、青木薫/訳 講談社 2023年発行

著者は理論物理学者だが、一般向けのベストセラー解説書も数多く手がけている。
本書はその中の最新の1冊だが、特異なのは理論物理学と生命の歴史、人類の文明・文化も組み入れて、宇宙の通史を語ろうとしていることだ。
中心となっているのはエントロピー・ツーステップと進化の概念である。

本書によれば宇宙全体でエントロピーが増加していれば、局所的に低エントロピー状態が生まれ得るのである。
これが、恒星系や生命誕生が熱力学第二法則と矛盾しないというエントロピック・ツーステップという考え方である。

第3章 宇宙の始まりとエントロピー――宇宙創造から構造形成へ より

ビッグバンとは何だったのか

1920年代の半ば、イエズス会の司祭ジョルジュ・ルメールは、、アインシュタインが新たに作った重力理論――一般相対性理論――を使って、宇宙は何か爆発のようなもので始まり、それ以来ずっと膨脹を続けてきたという過激な考えを発展させた。ルメールは、司祭としての仕事の余暇に物理学をたしなむというタイプの物理学者ではなかった。彼はマサチューセッツ工科大学が博士号を取得し、ごく早い時期に一般相対性理論を宇宙全体に応用した物理学者のひとりだったのだ。アインシュタインは、宇宙に含まれるものには始まりと途中と終わりがあるが、宇宙そのものはつねに存在していたし、永遠に存在し続けるはずだと直観的に考えており、彼がそれまでの10年間に、空間、時間、物質の本性について次々と新しい発見をすることができたのは、その直観の導きのおかげだった。ルメールアインシュタインの方程式を分析して、その直観に反する結果を得ると、アインシュタインはひしゃりと彼をはねつえ、この若き研究者に向かってこう言った。「あなたの数学は正しいが、あなたの物理学はおぞましい」。
アインシュタインが言わんとしたのは、ルメールは方程式をいじくりまわすのは上手かもしれないが、そうして導かれた結果のうち、どれが現実の宇宙を反映しているか判断するために必要な、科学的センスに欠けているということだった。

それから数年後、アインシュタインは、科学史上もっとも有名な転向のひとつをやってのけた。ウィルソン山天文台で研究していた天文学者エドウィン・ハッブルの詳細な観測から、遠くの銀河はどれも動いている、それも猛烈な勢いでわれわれから遠ざかっていることが明らかになった。そしてその運動パターン(遠い銀河ほど大きな速度で遠ざかっている)が、一般相対性理論の方程式から数学的に得られた結果と一致したのである。こうしてルメールのおぞましい物理学を裏づけるデータが得られると、アインシュタインは、宇宙には始まりがあるという考えを心の底から受け入れた。

物質の起源と恒星の誕生

ビッグバンから、10億分の1の10億分の1のさらに10億分の1秒後には、斥力的重力は空間の小領域を大きく引き伸ばし、最先端の望遠鏡で見えるもっとも遠くよりもさらに先まで広がった。空間はまだインフラトン場に満たされていたが、同じぐらい短い時間がさらに経過すると、状況が変わった。インフラトン場に満たされた膨脹する空間領域のエネルギーは、膨らみつつある石鹸の泡の表面エネルギーと同じく、非常に不安定だ。石鹸の泡はいずれ破裂し、表面のエネルギーは石鹸水の霧になる。それと同じくインフラトン場もまた、おずれ「破裂」し、場のエネルギーは粒子たちの霧になる。

その粒子たちが正確には何だったのかはわかっていないが、高校の物理で習った、普通の物質を構成する粒子ではないのは確かだ。しかし、さらに数分ほど経過すると、空間のいたるところで急速な粒子たちのカスケード反応が起こる――重い粒子は崩壊して、より軽い粒子をたくさん生み出し、結合しやすい粒子同士はしっかりと結合する。こうして原初の粒子の混合物は、陽子と中性子と電子、そしてお馴染みの物質の混合物になった(それに加えて、長い天文観測の歴史が存在を証言している暗黒物質などのエキゾチックな粒子も、その原初の物質の混合物に含まれることになりそうだ)。
ビッグバンからさして時間が経たないうちに、宇宙はこうして、「高温でほぼ均一な粒子の霧に満たされた。膨脹する空間に浮かぶ粒子たちの中には、よく知られたものもあれば、そうでないものもあった。
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問題は次のことだ。重力が恒星を形成するプロセス、すなわち無秩序でほぼ均一な粒子の混合物を秩序立った天体物理学的な構造にするプロセスは、無秩序に向かうべしという熱力学第二法則(熱現象の不可逆性)の命令と、いかにして両立するのだろうか? この問いに答えるためには、エントロピー増大へ向かう道のりを、もっとていねいに見ていかなければならない。

核融合、秩序、熱力学第二法則

ここまでの話を整理しておこう。

重力の影響が小さいとき、熱力学第二法則は、系を均一な状態に向かわせる。構成要素は拡散し、エネルギーは散逸し、エントロピーは増大する。そして、もしもそれが話のすべてなら、宇宙の歴史には何も起こらなかっただろう。しかし、重力の影響が無視できなくなるぐらい物質が存在すると、熱力学第二法則はヘアピンカーブを切って方向転換し、系を均一な状態から遠ざける。物質は一方で塊を作り、他方では拡散する。エネルギーも一方に集中し、他方では乏しくなる。エントロピーもまた、一方で増大し、他方で減少する。重力が十分に強ければ――に寄り集まって塊になった物質が、充分にたくさん存在するなら――秩序の高い構造が形成される。その場合、宇宙の歴史ははるかに豊かになる。

すでに見たように、このプロセスで主役を演じるのは重力である。重力に比べれば、核融合を引き起こす核力は、せいぜい脇役にしか見えない。核力は核融合を引き起こすことで重力崩壊を食い止めるという、副次的な仕事しかしていないように見えるのだ。実際、科学者たちがよくやってしまいがちな大雑把な説明では、宇宙のあらゆる構造形成の究極の原因は重力だとされ、核力の役割にはひとことも触れない場合が多い。だが、核力の貢献をもっと寛大に認めるなら、重力と核力は、熱力学第二法則の物語を先に進めるために力を合わせて働いているのだから、対等なパートナーともいえるだろう。

重要なのは、核力もまたエントロピック・ツーステップを踊るということだ。
原子核核融合を起こすと、いっそう複雑で組織化され、エントロピーの低い原子ができる(太陽の中心部では、水素原子核核融合を起こしてヘリウム原子核になる反応が、毎秒10億回の10億倍も起こっている)。その反応の過程で、もとの原子核の質量の一部がエネルギーに転換され(質量がエネルギーに転換されるときの処方箋が、E=mc2だ)、そのエネルギーの大半は光子になる。その光子が恒星内部の温度を上げて、恒星の表面から光を放出させる。燃えさかる恒星は、外向きに流れ出す光子によって、膨大なエントロピーを環境へと移行させる。蒸気機関や収縮するガス雲と同じく、環境エントロピーの増加分は、悪融合を起こした原子核エントロピーの減少分を埋め合わせて余りあるため、正味のエントロピーは増大することになり、熱力学第二法則はここでもやはり成り立っていることが示される。
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以上の話をまとめておこう。宇宙は重力と核力を巧みに利用することで、手つかずのまま物質の内部に閉じ込められていたエントロピーの倉庫に手を伸ばす。重力がなければ、粒子たちは均一に散らばることでエントロピー最大の配置になるだろう――それはちょうど、焼けたパンの匂いが家中に広がるのと同じだ。しかし、重力があれば、粒子たちは巨大で高密度の球状に圧縮され、核融合によって崩壊をくい止められながら、エントロピーをさらなる増大へと駆り立てるのである。

重力が触媒となり、核力に遂行するこのバージョンのエントロピック・ツーステップこそは、物質が宇宙のいたるところで踏んでいるステップだ。ビッグバンの直後から、宇宙のダンスは主にこれだった。それにより膨大な数の恒星が生まれ、秩序立ったその天文学的構造から発せられる熱と光のおかげで、少なくともひとつの惑星に生命が宿った。次章で見ていくように、その展開に関与しているのが、エントロピーと並び立つもうひとつの柱であり、宇宙でもっとも洗練された構造を作る仕組み、進化である。