じじぃの「科学・地球_130_重力波とは何か・ダークエネルギーと量子真空」

【物理学70の不思議35】暗黒エネルギーの正体は?宇宙の加速膨張の謎【固体量子】【VRアカデミア】

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=cI19UH_Pw3Q

図2:138億年前に始まった宇宙の膨張と、

暗黒物質と暗黒エネルギーの力比べの歴史


暗黒エネルギー 宇宙の二大ミステリー

2014年10月16日 カブリ数物連携宇宙研究機構
暗黒エネルギーが理論研究に初めて登場したのは、宇宙が膨張していることすら誰も知らなかった20世紀初頭のことです。
アルバート・アインシュタインの重力理論の一般相対性理論では、『宇宙の大きさの進化』は『宇宙にどれだけの物質とエネルギーがあるか』に等しいという方程式(図1)が登場します。宇宙は静的なもの、つまり宇宙の大きさは過去、現在、未来永劫変わらないと考えたアインシュタインは、重力の引力に対抗する斥力を生む宇宙定数という項を加え、静的な宇宙になるよう方程式を変更してしまいました。この項はアインシュタインの宇宙定数と呼ばれ、理論の数学的な美しさを損なうものであり、1929年にエドウィン・ハッブルが宇宙膨張を発見すると、アインシュタインはすぐに宇宙定数を撤回しました。
皮肉なことに、アインシュタインが後に「生涯最大の過ち」と呼んだ宇宙定数が、加速膨張を起こす斥力の源として21世紀に復活しました。この宇宙定数を一般化したものが暗黒エネルギーです。方程式が示すその性質は、宇宙膨張とともに宇宙の空間が広がるほど、その全エネルギーがどんどん増大するという、これまでの物理学の常識では説明のつかないものでした。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00060.html

重力波で見える宇宙のはじまり―「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る

ピエール・ビネトリュイ【著】
重力――もっとも弱く、謎に包まれていた力が、この宇宙に大きな影響を与えている。
アインシュタイン重力波を予言してから100年。
アインシュタイン最後の宿題”と言われた重力波の観測が成功したことで、「重力波天文学」がついに幕を開けた。
それによって、我々の宇宙観はどのように変わるのだろうか?
インフレーション、ブラックホール、量子真空、ダークエネルギー、量子重力理論……。
宇宙を理解する上で欠かせない問題をやさしく解説しながら、宇宙誕生と進化の謎に迫る。
序章 変貌する宇宙
第1章 重力、この未知なるもの――ガリレイニュートンアインシュタインの見解
第2章 一般相対性理論――重力の理論から宇宙の理論まで
第3章 宇宙を観察する
第4章 2つの無限――両者は共存できるか?
第5章 宇宙誕生の瞬間――インフレーションから最初の光が現れるまで
第6章 ダークエネルギーと量子真空
第7章 闇を学ぶ――ブラックホール
第8章 重力のさざ波――重力波とは何か
第9章 重力波の直接探知に成功――We did it!
第10章 宇宙の未来

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重力波で見える宇宙のはじまり 「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る』

ピエール・ビネトリュイ/著、安東正樹、岡田好惠、安東正樹/訳 ブルーバックス 2017年発行

第6章 ダークエネルギーと量子真空 より

超新星観測からの重大な発見

1990年代、宇宙論の分野では、活発な議論が延々と続いていました。一方では素粒子物理学の理論家たちが、インフレーションによる宇宙膨張論のシナリオ利点を列挙し、このシナリオで、標準宇宙論モデルにおける、地平線問題や平坦性問題といった根本的な問題のいくつかを解決できると主張しました。しかも、このシナリオでは、ヒッグス場のようなスカラー場を用いることによって、比較的自然な形で素粒子理論に結び付けることもできるのです。
一方、宇宙物理観測の専門家たちからは、インフレーション理論で予想される平坦な宇宙の臨界密度(10-26kg/m3)を実現するのは十分な物質がなかった、という声が上がりました。もちろん、光で観測されるようなバリオンとともにダークマターが存在しています。それに加えて、電磁放射、ニュートリノをはじめとするさまざまな形のエネルギーを総動員しても、せいぜい臨界密度の30%に及ばないというのです。
しかし、議論は決して膠着していたわけではありませんでした。次々と新しいインフレーション理論を生み出す理論物理学者たちは、平坦な宇宙でなくても良いようなインフレーション理論の一種を提案することもありました。
ところが決定的な動きは、宇宙物理観測者のほうからなされました。1999年、独立した2つのグループが、超新星の観測結果から「宇宙の膨張速度は加速している」という、予想外で重大な発表を行ったのです。

超新星爆発からわかること

赤方偏移については、第2章で触れたドップラー効果を思い出してください。ドップラー効果では、音や光の発生源が観察者に近づくと、波の振動の間隔が縮められて周波数が高くなり、遠ざかる場合には振動の間隔が伸ばされて、周波数が低くなります。そしてハッブルの法則によれば、私たちの銀河の外にある物体が遠いほど、遠ざかるスピードは速くなるのです。超新星が遠くにあるほど、赤方偏移は大きくなります。
もし、超新星がすべて同じ絶対光度を持っているとすれば、地球から見たみかけの光度は、ビッグバン・モデルによる宇宙の膨張速度を用いて、地球からの距離をもとに予測できます。ところが観測チームは、遠くの超新星が予想より暗いという結果を得たのです。
その理由として、2つの説が考えられました。1つ目の仮説は、Ia型の超新星を標準光源としたのが間違いであり、非常に遠方で起こった超新星爆発では、異なった物理過程が含まれているためIa型の超新星の光度が下がって見えたというものです。
それに対して2つ目の仮説は、Ia型の超新星がビッグバン標準模型で予想されるよりもっと遠くにある、つまり爆発以来、宇宙膨張のスピードが加速したのではないか、というものです。
この2つ目の仮説は、それまでの理解とは大きく異なったものでした。それまでに知られていた宇宙のエネルギーの構成要素は物質と放射で、それらはともに宇宙の膨張を減速させるように働きます。放射(宇宙を飛び回っている電磁波など)もまた、宇宙の膨張を減速させるように働きます。もし宇宙膨張が加速しているなら、宇宙には物質とも放射よも違う未知の構成要素が存在することになります。
この仮説に対して、科学界の最初の反応はさまざまでした。インフレーション理論を研究する者たちは、諸手を挙げて歓迎しました。その未知の要素こそ、宇宙の空間が平坦であることを説明するのに欠けていた構成要素だったからです。一方、宇宙物理学者たちは概して懐疑的でした。標準光源として用いられるような天体からの明るさが、その発生状況、つまり宇宙の歴史によって異なってくる、ということは、一度や二度ではなかったからです。

答えはあるのか?

現時点におけるダークエネルギー(暗黒エネルギー)のもっとも有力な候補は、真空エネルギーです。もしダークエネルギーが真空エネルギーと確認されれば、その後は、真空エネルギーの解明と正確な計算が主要な問題となるでしょう。
しかしその計算のためには、一般相対性理論と量子理論を同時に扱うことが必要です。すでに強調してきたとおり、これは容易ではありません。重力以外の物理学では、エネルギーの差しか測定することができないからです。
たとえばカシミール効果の実験では、力を測定する必要があります。これは2枚の金属板の距離を変えたときのエネルギーの差の結果として測定されます。真空エネルギーの絶対値を測定しているわけではありません。
それに対して重力理論では、アインシュタイン相対性理論に従ってあらゆる形状のエネルギーが宇宙膨張に関わっており、それらは原理的には測定可能です。真空エネルギーの場合はとくにそうです。もし真空エネルギーがダークエネルギーであれば、エネルギー密度は臨界密度の70%で、その量は0.7x10-26kg/m3という量になります。
この値を理論計算から求めることができるでしょうか? そのためには、量子重力理論が有効なはずです。ちょうどガレリオ・ガリレイが、古典的な重力の法則を見つけた場合と同様のことを行うのです。物理学者たちは、ガリレイにならって次元解析を行っています。真空エネルギーの密度は、重力のエネルギー・スケール(プランク・スケール)に基づいて求められるはずです。
得られた値は、1094kg/m3。10-26kg/m3よりも120桁大きな値です! これが、一般相対性理論と量子物理学の間に現在ある大きな隔たりなのです。現在の理論では、どこかで120桁ほど間違えているのです。
ダークエネルギーが真空エネルギーであることを確かめるためには、この隔たりは埋めなければなりません。この問題は非常に大きいものです。いつか、2つの理論、重力理論と量子理論を統合する理論ができたならば、その答えはすぐにわかるでしょう。
実際に研究されている理論はどんなものでしょう? これは、あまり触れたくない本質的な問いに行きあたるような質問です。
とくに、第4章末のFocusⅣでビッグバンとともに紹介した超弦理論は、この問題を解決するための「人間原理」にも関わっています。この原理に従えば、光速度万有引力定数、プランク定数などの「自然定義」は、それを計測できる観測者が存在できるような値になっています。
これは、平行に進化する多元宇宙、もしくは「マルチバース」の考えからも理解できます。私たちが存在して空を観測できるようになる値を持たない宇宙がもしあったとしても、そうした値が観測されることはないという考え方です。
話はだいたい、次のように続きます。
もし真空エネルギーがもっと大きかったなら、加速膨張期はもっと早く始まることになる。そうすると、ダークマターが集まり、銀河が誕生することはなかったはずだ。また銀河が存在できるようなたくさんの宇宙の中で、真空のエネルギーがもっと小さく、それが支配的ではない宇宙よりも、我々宇宙は膨張によって大きな体積を占めている。だから、加速膨張期が始まった宇宙に私たちが住んでいる確率は、他の場合よりも高いのではないか。つまり真空エネルギーは、我々が観測するよりもずっと大きかったり、ずっと小さかったりすることはできない――と。
言うまでもなく、議論は、これまで科学界でされてきたようなものから、新しい科学的な予想をするもの、致命的な間違いのあるものまで、広い範囲にわたっています。