じじぃの「科学・地球_129_重力波とは何か・宇宙誕生の瞬間・インフレーション」

名古屋大学 OpenCampus2016 情報学部 模擬授業

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=lcPLcewK5Yc

A toy scenario for the dynamics of the scalar field during inflation

INFLATIONARY BASICS

A toy scenario for the dynamics of the scalar field during inflation. During the flat part of potential, universe expand exponentially. When field reaches near the minima of the potential, the field oscillates and the radiation is generated.
https://www.researchgate.net/figure/A-toy-scenario-for-the-dynamics-of-the-scalar-field-during-inflation-During-the-flat_fig7_45921130

重力波で見える宇宙のはじまり―「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る

ピエール・ビネトリュイ【著】
重力――もっとも弱く、謎に包まれていた力が、この宇宙に大きな影響を与えている。
アインシュタイン重力波を予言してから100年。
アインシュタイン最後の宿題”と言われた重力波の観測が成功したことで、「重力波天文学」がついに幕を開けた。
それによって、我々の宇宙観はどのように変わるのだろうか?
インフレーション、ブラックホール、量子真空、ダークエネルギー、量子重力理論……。
宇宙を理解する上で欠かせない問題をやさしく解説しながら、宇宙誕生と進化の謎に迫る。
序章 変貌する宇宙
第1章 重力、この未知なるもの――ガリレイニュートンアインシュタインの見解
第2章 一般相対性理論――重力の理論から宇宙の理論まで
第3章 宇宙を観察する
第4章 2つの無限――両者は共存できるか?
第5章 宇宙誕生の瞬間――インフレーションから最初の光が現れるまで
第6章 ダークエネルギーと量子真空
第7章 闇を学ぶ――ブラックホール
第8章 重力のさざ波――重力波とは何か
第9章 重力波の直接探知に成功――We did it!
第10章 宇宙の未来

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重力波で見える宇宙のはじまり 「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る』

ピエール・ビネトリュイ/著、安東正樹、岡田好惠、安東正樹/訳 ブルーバックス 2017年発行

第5章 宇宙誕生の瞬間――インフレーションから最初の光が現れるまで より

インフレーション・シナリオとは

この章では3、4章の内容を振り返りつつ、ビックバン直後の宇宙、すなわち宇宙の膨張(インフレーション)についてお話しします。
ビッグバンの直後の宇宙は、急速な膨張をとげました。この爆発的な膨張段階はしばしばビッグバンと混同されますが、ビッグバンはこれまで見てきたとおり、必ずしも爆発とは関係ありません。本書では、ビッグバンは宇宙の誕生、私たちの物理の進化の段階を表す一般的な用語として用います。
それに対してインフレーションは、私たちが理解している物理法則にのっとっています。インフレーションは、プランク期の直後に始まったと考えられています。したがってこの章では、たとえ量子論と重力理論を同時に使わなければならないとしても、量子重力理論は必要ありません。

インフレーション期

ここまで論じてきた宇宙の地平線問題と平坦性問題を深く突き詰めていくことで、少なくとも宇宙のある一時期には、その膨張が加速していた、というシナリオが有望そうだと考えられるようになりました。そのようなシナリオは「(宇宙の)インフレーション」と呼ばれます。1980年代の初頭、アラン・グースによって名づけられました。
インフレーションは、特定の理論モデル(たとえばグースの場合は大統一理論)に依存しない比較的一般的な考え方です。そこでは、量子真空が需要な役割を担います。
相転移の際、量子真空のふるまいは変化します。相転移の前後で真空のゆらぎのふるまいは異なっているため、真空のエネルギーも変化します。そのとき、必然的に相転移後のほうがエネルギーは低くなります(そうでないと、エネルギー保存則から、相転移は起きないはずです)。
もし相転移がゆっくりであれば、移行期間があることになり、宇宙の一部はしばらくの間エネルギーの高い状態に留まるということが起こりえます。この真空エネルギーの「保管庫」が宇宙の膨張に寄付するのです。そのふるまいは、ド・ジッターが1917年初めに導いたものとまさに同じ、すなわち宇宙の指数関数的な膨張なのです。
これは決して偶然ではありません。なぜなら真空のエネルギーは、アインシュタイン方程式において宇宙定数と同様にふるまうからです。
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それでも、根本的な問題は残ります。物質はどうなったのでしょうか?
インフレーション期にはすさまじい膨張が起き、粒子がスープ状に混ざった状態だった宇宙は、大幅に薄められてしまいます。その結果、宇宙の地平線内には数個の粒子しか残らないはずです。これでは、私たちの地平線の中で観測される数十億とも見積もられる膨大な数の銀河を作り上げることができません。
じつはインフレーションの終わりには、再加熱期と呼ばれる時期があると考えられています。その時期に物質が再生成され、それらの新しい物質が、現在の私たちの宇宙を構成したのです。こうした時期が存在したことが力学からの類推として理解するために、第1章でお話しした、ガリレイの傾斜した板の思考実験と同様のことを考えてみましょう。
図(画像参照)を見てください。板が水平からわずかに傾いた状態から鉢のようなくぼみの底に向かって傾斜しています。点A(左側の転がる前の球)から、ちいさな初速度でビー玉を転がします。板との間には少しだけ摩擦があるものとします。されどうなるでしょう?
ビー玉は最初、板に沿ってごくゆっくりと動き(この部分が、真空1に貯められたエネルギーによって引き起こされる膨張段階です)、次にこの動きが加速されます。やがて膨張は終了し、ビー玉は鉢の底B(右側の底に落ちた球)へ落下します。落ちた直後は点Bのまわりで少し振動しますが、摩擦があるため、それも次第に収まっていきます。
エネルギーの観点から説明すれば、最初の位置でビー玉が持っていたおまけのエネルギー(位置エネルギー)が移動するときに摩擦の影響で熱に変わるのです。最初の位置Aは、相転移まえの量子真空に相当し、鉢の底Bは最終的な真空状態に相当します。
そして、この類例で熱として放出されるエネルギーは、再加熱時期に粒子を生成するために必要となるエネルギーに対応します。インフレーションが終わった後の宇宙の温度は、このときに生み出されるエネルギーによって決まります。その後のシナリオは、従来のビッグバンモデルと同じです。宇宙は次第に冷えていき、密度は下がっていくのです。
このような標準的なインフレーション・シナリオには、ヒッグス場のようなスカラー場を含めることもできます。そのようなスカラー場の真空での値は、宇宙の歴史の中で変化していたかもしれないのです(ヒッグス場の値がごく初期の宇宙ではゼロで、それが現在ではゼロでない値を持つように変化した、ということはすでに見てきました)。つまり、量子真空のエネルギーが変化し、それが宇宙の進化に大きな影響を与えてきたかもしれないのです。
ここで挙げたのは、相転移に基づくインフレーションのシナリオです。理論物理学者は、想像力を駆使して、他にもさまざまな理論モデルを考案しています。しかし、インフレーションの基本的な考え方は同じです。
ここで紹介したインフレーションのシナリオは、宇宙の標準模型が抱える多くの問題を解明するのに、大いに約立っています。ビッグバンの直後にインフレーション期があったとすることで、その後の宇宙の標準模型を統一的に説明することができるのです。
しかし、そのような理論予想を検証することは可能でしょうか。そのうちの1つの理論予想では、現在の宇宙は空間的に平坦、すなわち平均エネルギー密度は10-26kg/m3であると予言しました。1990年代までの観測は、この予想とは一致していませんでした。これは、あとでお話ししますが、宇宙を構成するエネルギーのうち一部の重要な要素が、当時は無視されていたからです。
もう1つの理論的予測は、(ペンジアスとウィルソンが1994年に発見した)宇宙マイクロ波背景放射に非等方性があるというものです。2人が発見した信号は、等方性が非常に高く(どの方向からもまったく同じような信号がやってくる)、それが、このマイクロ波が宇宙的な起源のものだという裏付けにもなっていました。
そしてインフレーション理論は、このような放射が全天でまったく同じ特徴を持つ理由を高い精度で説明しています。しかし、これから見ていくように、インフレーション理論によると、宇宙マイクロ波背景放射にごくわずかな非等方性が現れることも予想しているのです。