じじぃの「科学・地球_547_なぜ宇宙は存在するのか・原始揺らぎの生成」

宇宙の前の姿である「何もない状態」を作ったものとは?!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ktBarSkP6vU

スローロールインフレーション・モデルの例

宇宙の進化図(右に行くほど宇宙が膨張) インフラトンのポテンシャル

Fuminobu Takahashi's webpage

●インフレーション宇宙と素粒子論的宇宙論
http://www.tuhep.phys.tohoku.ac.jp/~fumi/styled-4/styled-3/index.html

『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈

われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第4章では、1980年代に開花したインフレーション理論を紹介する。
宇宙誕生後10-38秒から10-36秒くらいの間に指数関数的に宇宙が膨張するインフレーションが起こり、宇宙は一様になり、曲率がきわめて平坦になった。そして、インフレーションの膨張が熱エネルギーになり、ビッグバンを引き起こす。野村さんは、宇宙の始まりとビッグバンの間にインフレーションがあったということを平易に説明してくれる。
インフレーションが起きたにしても、この宇宙の標準模型はよくできすぎている。たとえば、真空のエネルギー密度と物質のエネルギー密度がほぼ同じ大きさであるタイミングで生命が誕生したのは偶然なのか―
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論

第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第4章 インフレーション理論 より

4-2 ビッグバン宇宙に残された謎を解く

指数関数的な膨脹

前節で紹介したビッグバン宇宙に残された謎、それを解く鍵として出てきたのがインフレーション理論です。1980年、アラン・グース(現マサチューセッツ工科大学)により提唱されました。

これは、宇宙は高温高密のビッグバンの時代に突入する前に、インフレーションと呼ばれる凄まじい加速膨張の時期を経たとされる理論です。この急激な膨張によって、宇宙はほぼ完全に平坦かつ一様になってしまうのです。

4-3 原始揺らぎの生成

インフレーションによる揺らぎの性質

量子力学の確率的な性質は、粒子の位置に関してだけではなく、より一般に当てはまります。それはインフレーションを引き起こしている場に対しても例外ではありません。つまり、インフラトン場(インフレーションを引き起こした場)の値も、ある程度の確率的な広がりを持っているのです。

この確率的な揺らぎは、インフラトン場を空間の各点で測った場合に、その値が場所によって確率的に変動するという効果として現れます。つまりインフレーションの最中にも、インフラトン場の値は完全に一様ではなく、量子力学の効果によって少しだけ揺らいでいるということになります。

これは、図4-5(画像参照)からもわかるように、インフラトン場のポテンシャルエネルギー密度が、場所によって確率的に変動するといことを意味します。また、インフレーションが終わるタイミングも、場所によって少しだけずれることになります。

これらの場所による変動は、インフレーションが終わった後には、場所による熱エネルギー(すなわち温度、密度)の変動に変換されます。つまり、インフレーション後に始まるビッグバン宇宙はほぼ一様であるものの、量子力学の効果を考慮に入れると、その温度、密度は僅かに変動していなければならないのです。宇宙の一様性を説明しようとして導入されたインフレーションですが、それは同時に一様性からの僅かな揺らぎの存在を予言するものでもあるのです。

この揺らぎの統計的な性質は、インフラトン場のポテンシャルが与えられれば、量子力学によって完全に計算できます。その中でもいくつかの性質をポテンシャルの詳細によらないため、インフレーション理論の一般的な予言と考えることができます。

これら、一般的な性質の1つ目として、インフレーションによって作られる揺らぎは、ほぼ「スケール不変」だが、そこからほんの少しだけずれているということが挙げられます。スケール不変とは、揺らぎの大きさがどのスケールに着目してみても同じだという性質のことです。

次に、揺らぎが「断熱的」だということが挙げられます。これは、宇宙の様々な構成要素(通常の物質、放射、ダークマター等)が同じように揺らいでいるということを意味します。

また、インフレーションによって生成される揺らぎは「ガウス的」であるという特徴を持ちます。これは、インフレーションによって生成される揺らぎが、ある特定の統計的性質を持っているということです。

そしてこれらの性質は、まさに宇宙の初期に存在していたはずの性質と完全に一致しているのです。つまり、星、銀河、銀河団など宇宙の構造の全ての元になった宇宙初期の10万分の1の揺らぎは、さらに、その元をたどれば、インフレーション中に量子力学の効果で極微の領域に生じたインフラトン場の揺らぎが、宇宙の爆発的膨脹によって引き伸ばされたものだと考えられるのです!

インフレーションは宇宙初期だけのものではない?

ここでまたしても、用語についての解説を加えなければなりません。それは「インフレーション」という用語に関してです。

この章ではインフレーションという言葉を、私たちの宇宙において、その誕生後10-38秒から10-26秒程度の間に起こった爆発的な加速膨張を指すものとして使いました。しかし、この同じ用語は一般に宇宙が加速的に膨脹する現象を指すものとしても使われるのです。

このことは、インフレーション理論が最初に提案されたときには問題ではありませんでした。なぜなら、加速膨脹という現象は私たちの超初期にのみ起こったと考えられていたため、現象としての加速膨張とその特定の現れである宇宙超初期の加速膨脹を区別する必要はなかったからです。

しかし現在では、加速膨脹は空間が時間変化していく上で極めて簡単に起こり得ることがわかっています。特にこの後の章で解説するマルチバース理論では、空間の加速膨脹であるインフレーションは、私たちの宇宙の「外側」やその誕生「以前」でも頻繁に起こっていると考えられています。そのため、現象としての加速膨脹と、その特定の現れである私たちの宇宙の超初期に起こった加速膨脹を混同しないことは、その文脈では極めて重要なになってきます。

残念ながら、この問題を解決する特効薬はありません。研究者でも「インフレーション」と言ったときに、この章で使ったように特定のインフレーションを指すのか、より一般の加速膨脹のことを意味しているのかは、文脈で判断するしかないのです。
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ちなみに、現象としてのインフレーションという意味では、現在の宇宙で起こっている加速膨脹も「インフレーション」です(この文脈でインフレーションという言葉を使うのは一般的ではありませんが)。また、私たちの宇宙の超初期に起こったインフレーションは、図4-5のようなポテンシャルによるスローロールインフレーションでしたが、一般のインフレーションは必ずしもそのようにして起こる必要はありません。実際、宇宙の外側やその始まる前のインフレーションは、図4-4(a)ような正の真空エネルギーによって引き起こされたと考えられています。