じじぃの「科学・地球_558_なぜ宇宙は存在するのか・マルチバースと観測」

物理学者野村さんに聞くマルチバース宇宙論②宇宙がたくさんある(超弦理論と泡宇宙)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=GeEYKX-aVgU&t=1997s

正と負の曲率


宇宙の外には何があるのか


[私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか] 宇宙論の新書シリーズその4 - 『マルチバース宇宙論入門』(野村泰紀)

9/13/2021 モニオの部屋
8. マルチバースを裏付ける観測
将来、マルチバースを裏付ける観測とはなんでしょうか?
ひとつは、宇宙の曲率を高い精度で測ることです。
今後数10年の間に、宇宙の曲率の測定精度は最大2桁程度良くなるということなので、0.01度の角度の誤差まで測定できるようになるそうです。

負の曲率が測定されたら、マルチバースを支持する根拠になりますが、もし正の曲率が測定されたとしたら、マルチバース理論は完全に棄却されることになります。
宇宙の曲率の測定以外にも、我々の宇宙が他の宇宙と衝突した名残りが測定されれば、マルチバースを裏付けることになります。
https://www.monionoheya.com/2021/09/multiverse-cosmology.html

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース」 より

6-5 ユニバースからマルチバース

マルチバース理論に至る経緯

マルチバース理論が生まれた過程で興味深いのは、この描像の重要な要素である超弦理論余剰次元や加速膨脹の永続性などは1980年代から知られており、しかもそれらは理論の好ましくない性質だと考えられていたということです。

たとえば、超弦理論余剰次元を予言したのは望ましいことではありませんでした。当時の科学者は超弦理論が高次元ではなく4次元を予言したらどんなによかったかと考えたはずです。しかしまさにこの「余計な」次元が存在するおかげで、4次元時空は無数に近い様々な多様性を持つことができ、それが真空のエネルギー密度を小さくすること、ひいては生命が生じることを可能にしたのです。

また加速膨脹が一般に永続的であることも、宇宙は唯一無二であると考えていたために理論の好ましくない性質だと思われていました。なぜなら、私たちの宇宙では過去の加速膨脹であるインフレーションは、ビッグバンに至ることで一度終了したことが確かだからです。しかし、この加速膨脹が永久に続くという性質があるおけげで、超弦理論に現れる多くの異なる宇宙が実際に世の中に実現することができるのです。

このように多くのパズルのピースがうまくおさまっていくような感覚は、描像が正しいことの「証明」ではないものの、非常に示唆的ではあります。

現在では、マルチバース理論は、真空のエネルギー密度の大きさを含む私たちの宇宙の性質を理解するための有力な候補であると考えられています。

6-6 マルチバースと観測

マルチバース理論の重要な予言

最後に、マルチバースと観測との関係について簡単に触れておこうと思います。特に強調したことは、真空のエネルギー値は小さいけれどもゼロではないということはマルチバースの特徴的な予言だということです。

この章のはじめでも述べてように、多くの物理学者たちは真空のエネルギー密度が自然な値より120桁以上も小さいのは、それがゼロであるからだと思っていました。実際マルチ以外の考え方で、真空のエネルギー密度を人間が観測したときに物質のエネルギー密度と同程度にするメカニズムは知られていないし、そのようなものを想像するのも困難です。この意味で、マルチバースの予言の1つは1998年の宇宙の加速膨脹の発見により、すでに観測的に確かめられたと言うことができます。

では、これ以外に何がマルチバースによる将来の観測に対する予言はあるのでしょうか? よくある誤解は、人間はマルチバース理論の予言する別の宇宙に行くことはできないのだから、この理論は検証しようがないというものです。これは、いくつかの点で間違っています。

第1に、図6-16(宇宙の外には何があるのか、画像参照)でも見たように、ある領域に行くことができないということは、その領域からの情報を得ることができないということを意味しません。実際、遠くの銀河であれ、恐竜が生きていた時代であれ、人間が直接そこに行って確認してきたわけではないのです。しかし、これらを調べることは明らかに科学の範疇に属しています。

またもう1つ重要なのは、ある科学理論を検証するときに、私たちはその理念のすべての予言を直接観測する必要はない、ということです。実際、科学的に確立したと言ってよい量子力学や、その1つの具体例である素粒子標準模型でさえ、その予言の全てが実験的に検証されつくしたわけではないし、そのようなことは不可能でしょう。

マルチバースと曲率

マルチバース理論の場合の場合で言えば、観測的に重要なのは、この理論が私たちの宇宙の中で観測できることに対して何を何を予言するのか、ということです。その中の1つは、真空のエネルギー値は小さいけでど、ゼロではないということですが、これ以外にも1つ極めて重要な予言があります。それは、私たちの宇宙が負の曲率を持っているということです。

図4-1(曲率と三角形の内角の和)や図4-2(正と負の曲率、画像参照)でも見たように、一般に空間はそれ固有の曲率を持つことをできます。私たちの泡の中に住む観測者にとっては、空間とはある時刻とは時刻t'における時空の広がり、つまり図6-14の双曲線方向に他ばりません。そして、実はこのように決められる空間は、必ず負の曲率を持つということを数学的に示すことができるのです。つまり、マルチバース理論によれば、宇宙に描いた「大三角形」の内角の和は必ず180度より小さくなるのです!

しかし、マルチバース理論だけでは、内角の和がどれだけ180度より小さくなるのかを予言することはできません。第4章では、私たちの宇宙の曲率は観測的に非常に小さく、それは私たちの初期にインフレーション(スローロールインフレーション)が起こったからからであることを見ました。もしこのインフレーションが十分に長い間続いたのであれば、私たちの宇宙はほぼ完全に平らになってしまい、負の曲率を観測することはできないでしょう。たとえば、もし大三角形の内角の和が179.9999度であれば、それを観測的に180度と区別するのは、困難、というか不可能でしょう。しかし、もし私たちの泡宇宙内部で起こったインフレーションがそんなに長く続かなかったのであれば、大三角形の内側のマイ角の和は観測可能な程度に180度からずれるかもしれません。

今後数十年の間に、宇宙の曲率の測定精度は最大で2桁程度もよくなると見積もられています。つまり、観測可能な最大の三角形の内角の和が180度からのずれは0.01度のレベルまで探れるようになります。

もし、この過程で負の曲率が見つかったならば、それはマルチバース理論を支持する新たな証拠の1つになるでしょう。なぜなら、小さいけれどゼロではない真空のエネルギー値がマルチバース理論以外で説明するのが困難であるのと同様に、小さいけれどゼロではない曲率もマルチバース理論以外で説明するのは困難だからです。