じじぃの「科学・地球_556_なぜ宇宙は存在するのか・6次元の構造」

【宇宙は11次元構造?】各次元ごとに見る高次元の世界!【ゆっくり解説】

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=MgK1iRWOHlE

6 dimensions structure and potential energy density


『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈

われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第4章では、1980年代に開花したインフレーション理論を紹介する。
宇宙誕生後10-38秒から10-36秒くらいの間に指数関数的に宇宙が膨張するインフレーションが起こり、宇宙は一様になり、曲率がきわめて平坦になった。そして、インフレーションの膨張が熱エネルギーになり、ビッグバンを引き起こす。野村さんは、宇宙の始まりとビッグバンの間にインフレーションがあったということを平易に説明してくれる。
インフレーションが起きたにしても、この宇宙の標準模型はよくできすぎている。たとえば、真空のエネルギー密度と物質のエネルギー密度がほぼ同じ大きさであるタイミングで生命が誕生したのは偶然なのか―第5章で、そうした疑問を提示する。その答えは、第6章で語られるマルチバースだ。

電磁気力と弱い力を統合した物理学者のスティーヴン・ワインバーグは、1987年に人間原理に注目した論文を発表した。人間原理とは、「私たちが自らの周りで観測する世界よりも、実はもっと多様な世界がどこかに存在していると仮定する」(199ページ)ことにある。
それによれば、きわめて多くの宇宙が存在する中で、たまたま、真空のエネルギー密度がゼロに近い宇宙が、私たちが住む宇宙だという。
ワインバーグの予言の通り、1998年に宇宙の加速膨張が観測された。
ここに超弦理論を加えると、無数の異なる種類の宇宙が次々と作られていくというマルチバースとなる。
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース」 より

6-2 超弦理論余剰次元、そしてたくさんの宇宙

余剰な次元とは何だろう

では、余剰次元とはより具体的にはどのようなものなのでしょうか? 図6-2(空間の次元、遠くから見れば線でも実際は円筒である)の例は、「私たちという大きなサイズの存在」が知覚できる1次元の中間の各点に、小さな円状の余剰次元が付随していると見ることができます。同じように、現実の世界では、私たちの知覚できる4次元時空の各点に6次元の小さく丸まった余剰な次元が付随していると考えることができるのです。そのイメージを表したものが図6-3(4次元+6次元のイメージ)です。

図6-2の余剰次元が1次元の場合、その形として考えられるのは、円か線分くらいです。それに対して現実世界の余剰次元である6次元空間は様々な複雑な形を取ることができます。この違いは極めて重要です。たとえば、私たち自身の宇宙に付随していると考えられている空間の候補として、カラビーヤウ多様体と呼ばれるものがあります。図6-4(カラビーヤウ多様体)はそのスケッチの1例です。このカラビーヤウ多様体も、一般的に極めて複雑な構造を持っています。
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この6次元空間は、その小ささゆえ直接知覚することはできませんが、その存在には重要な意味があります。理論を詳しく解析してみるとわかるのですが、実は6次元空間をコンパクト化した後に得られる4次元時空に現れる素粒子の種類や質量、また真空のエネルギー密度の大きさといった性質は、この6次元空間の構造で決定されているのです。

これは、私たちは6次元空間を「平均化」した世界を感知しているため、必然的にその空間の影響を受けるからです。

では、これほど重要な6次元の構造はどのようにして決まるのでしょうか? それを次項で解説したいと思います。

6次元の構造

アインシュタインは、時空は歪んだり曲がったりできる動的なものだということを、一般相対性理論で明らかにしました。余剰次元においては、この曲がりが空間を丸めてしまっているのです。よってこの丸まった空間の形は、時空の力学で決まってきます。そして一般に複雑な系では、基本方程式は単純でも、それによって実現する世界は極めて大きな多様性を示します。

どういうことか、シュレディンガー方程式を例に考えてみましょう。シュレディンガー方程式は、とてもシンプルな量子力学の基本方程式です。しかし、その単純な方程式を炭素、窒素、酸素などの数種類の原子に当てはめたときの解としては、タンパク質などの有機物やDNAなどをも含む複雑で多様なバリエーションの分子があり得るわけです。

それと同様に6次元空間も、基本方程式であるアインシュタイン方程式はシンプルでも、驚くほどのバラエティに富んでいるのです。

6次元のコンパクトな空間は、十分に安定なもので10500かそれ以上あると見積もられています。ちなみにこの10500という数字はかなり大雑把なもので、実際には101000とか、もっとはるかに多い可能性もあるでしょう。

いずれにしても、ある程度以上の時間その形を保ったまま存在できるような6次元空間の種類は最低でも10500以上あるということになります。このような驚きべき多様性を生むメカニズムは、DNAのような場合に見られたものと基本的に同じものです。

このような多様な形のうち、どれが実際に選ばれるのかを決める力学は、図6-5(6次元空間の構造とポテンシャルエネルギー密度)のように模式的に表すことができます。この図で、水平方向は6次元空間の構造(つまり、水平方向に異なる点は異なる大きさや形の6次元空間)、縦軸はそれに対応するポテンシャルエネルギー密度(つまり、6次元空間がその構造を取るためにかかるコストの大きさ)を表しています。

余剰次元の形を決めるプロセスは、第4章で場の値の場合に見たように、この図で小さなパチンコ玉を転がしていくようなものとして理解できます(実際、余剰次元の大きさや形は4次元時空で見たときの場の値とみなすことができます)。そこでも述べた通り、この比喩はある程度正確であり、パチンコ玉と地面の間の摩擦に対応する効果も宇宙膨張によって引き起こされることがわかります。

より具体的には、玉はその最初の位置や速度に応じて様々な谷間、つまりポテンシャルエネルギー密度の極小点に行き着くでしょう。そしてこれらの異なる谷間は、それぞれ異なる安定な余剰次元の対応しています。つまり、余剰次元が極めてたくさんの種類の構造を持つ持つことができるということは、このようなポテンシャルエネルギー密度の極小点がそれだけ多く存在しているというように言い換えることができるのです。

この余剰な6次元の構造の種類が極めて多く存在し得るという事実は、超弦理論の枠内で多くの異なる種類の4次元宇宙が実現し得るということを意味します。これらの異なる宇宙では、素粒子の種類、真空のエネルギー密度の大きさ、その他様々なものが変わってきます(真空のエネルギー密度の値は、ポテンシャルエネルギー密度の極小点の高さに対応しています)。しかも、実はコンパクト化される次元の数はいつも6とは限らないので、知覚し得るほどに大きな空間次元の数も常に3とは限りません。

つまりこれら多くの宇宙では、私たちが基本的だと思っていた多くのこと――空間の次元、力の種類、素粒子の性質、真空のエネルギー等――が私たちの住む宇宙とは根本的に異なっていることになるのです。そしてこの性質の異なる様々な宇宙が存在するということは、先に述べた真空のエネルギー密度の問題を人間原理的に解決するためにまさに必要な条件なのです。