じじぃの「科学・地球_548_なぜ宇宙は存在するのか・原始重力波」

重力波プロジェクトKAGRA坑内ツアー

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=amDGO2HTDYY

重力波観測のスケジュール

偏光には「Bモード偏光」と「Eモード偏光」がある


LIGO-Virgo-KAGRAの次期観測について

KAGRA 大型低温重力波望遠鏡
●観測スケジュール
重力波観測のスケジュールは、約1年間運転する観測運転、装置の構築とコミッショニングのための観測休止期間、コミッショニングと観測運転を繋ぐ試験運転に分けられます。
現在見込まれている長期的な観測スケジュールは以下の通りです。この図は各観測運転期間での連星中性子星合体からの重力波の観測可能距離を示しています。
https://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/archives/4505

宇宙物理学 原始重力波の痕跡を探す

星空が好き、猫も好き
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の中に、原始重力波起源の「Bモード偏光」という成分が観測されれば、決定的となるそうだ。
偏光には「Bモード偏光」と「Eモード偏光」がある。
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=2549

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論

第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第4章 インフレーション理論 より

4-2 ビッグバン宇宙に残された謎を解く

指数関数的な膨脹

前節で紹介したビッグバン宇宙に残された謎、それを解く鍵として出てきたのがインフレーション理論です。1980年、アラン・グース(現マサチューセッツ工科大学)により提唱されました。

これは、宇宙は高温高密のビッグバンの時代に突入する前に、インフレーションと呼ばれる凄まじい加速膨張の時期を経たとされる理論です。この急激な膨張によって、宇宙はほぼ完全に平坦かつ一様になってしまうのです。
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原子核のサイズは原子の10万分の1ほどですが、その大きさ程度の領域が、現在観測可能な宇宙全体である約138億光年後年の大きさに広がるまでに要する時間は、インフレーションが宇宙誕生から10-38秒程度ではじまったとした場合、たった10-36秒程だったということになります。

インフレーションが始まった時期を、それより後の、宇宙年齢が10-26秒程度だという仮定にした場合でも、原子核の大きさ程の領域が減殺私たちが認識できる全宇宙の大きさにまで広がるのに要した時間は、わずか10-24秒ほどとなります。極めて急激な膨脹だったということがおわかりでしょう。

4-4 原始重力波

話を私たちの宇宙の初期に起こったインフレーションに戻しましょう。スローロールインフレーションを起こす場の量子力学的な揺らぎは、原始の密度揺らぎを生じさせました。しかし、量子力学によって揺らぐのはインフラトン場(インフレーションを引き起こした場)だけではありません。時空そのものも揺らぐのです。

このインフレーション中に起こった時空の揺らぎは、インフレーションによる空間の急激な膨脹により、宇宙論的なスケールに引き伸ばされます。このような時空の揺らぎは重力波と呼ばれ、現在の宇宙でもブラックホール同士の合体などの大規模な天体現象で生じています。しかし、波長が現在観測可能な宇宙全体(約138億光年)に匹敵するような重力波はインフレーションがなければ作ることは難しいのです。

そのため、宇宙論的なスケールの原始重力波の検出は、インフレーション理論の決定的証拠になり得ます。現在までのところ、そのような重力波は検出されていないのですが、ブラックホール同士の合体で生じた重力波も、アインシュタインがこの現象を予言してから100年も後の2016年初めて直接検出されたことを考えると、今後見つかる可能性は十分にあります。

原始重力波を検出するうえで最も有効な手段は、宇宙背景放射を用いることです。先に、宇宙背景放射を構成する光子は一般に偏向しており、そのパターンはEモード、Bモードと呼ばれる2つのモードに分解することができると述べました(図4-7、宇宙背景放射を構成する光子の偏向パターン、画像参照)。

ここで重要なのは、原始の密度揺らぎはEモードしか生成することができないのに対して、原始の重力波はEモード、Bモードとともに生成できるという事実です。なので、もし宇宙背景放射の偏向にBモードを見つけることができれば、それは原始重力波の検出を意味します。

しかし、実際の話はもうちょっと複雑です。なぜなら、宇宙背景放射のEモード偏向が、光子が晴れ上がりの面から地球に伝搬してくる過程で、Bモードのパターンに変換されてしまう現象が存在するからです(そして、そのようなBモードはすでに見つかっています)。しかし、このような私たちの「近傍」で生成されたBモード偏向は、適切な補正により差し引くことができます。なので、宇宙背景放射に元から存在する重力波起源のBモード偏向を検出することは可能です。

実際にこのようにして原始重力波を見つけることができるかどうかは、原始重力波がどれだけ大きいかにかかっています。インフレーション中の時空の揺らぎである原始重力波の大きさは、インフレーション中の空間のエネルギー密度、つまり図4-5(4-3 原始揺らぎの生成、インフレーションによる揺らぎの性質を参照)のポテンシャルの高台の高さで決まります。

もし高台が十分に高ければ、宇宙背景放射に生成されるBモード偏向は十分大きく、将来の観測で検出できる可能性があります。しかし、もし高台がそんなに高くなかったとしたら、宇宙背景放射に生成されるBモード偏向は観測的に見つけることができないほど小さいこともあり得ます。

なので、もし将来の観測で原始重力波が見つかればインフレーションの強力な証拠となる一方、もしもそれが見つからなかったとしても、それ自体でインフレーション理論を棄却することができません。しかし、この原始重力波の大きさがインフラトン場のポテンシャルに大きく依存するという事実は、原始重力波の観測を通して、インフラトン場のポテンシャルについて大きな情報を得られるということを意味します。

このことは、インフレーションのメカニズムを探る上で非常に重要になります。たとえば、仮に原始重力波が見つからなかった倍でも、それが見つからなかった場合でも、それがそれが見つからなかったということ自体がインフラトン場のポテンシャルについて大きな制限を与えることになります。実際、現在までの観測で原始重力波由来のBモード偏向が見つかっていないという事実から、インフレーション理論の発展の初期に提案された主要な模型のいくつかは、すでに棄却されています。

インフレーションによって生成された原始重力波の検出に向けては、いくつもの実験グループが熾烈な競争を繰り広げており、日本が主導するLiteBIRD(ライトバード)実験もその1つです。宇宙背景放射のBモード偏向の検出精度は今後10~20年の間に飛躍的に向上しると期待されており、近い将来「インフレーション由来の原始重力波検出」のニュースが聞けるかもしれません。