じじぃの「科学・地球_545_なぜ宇宙は存在するのか・初期宇宙の謎(インフレーション)」

物理学者野村さんに聞く宇宙とか物理の話

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-uHSxwELTvU

スローロールインフレーション・モデル


宇宙物理学  インフレーションの終了

2021.07.26 星空が好き、猫も好き
●インフレーションの終了
スローロールインフレーション・モデルでは、インフラトン場がポテンシャルのなだらかな丘をゆっくりと転がりながら動いていく時に、インフレーションを引き起こす。
そして、ポテンシャルの崖に到達しすると、インフレーション膨張が終了する。
インフラトン場は、そこから急激にポテンシャルエネルギーが最小値の谷底へと落ち込む。
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=2583

『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈

われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第4章では、1980年代に開花したインフレーション理論を紹介する。
宇宙誕生後10-38秒から10-36秒くらいの間に指数関数的に宇宙が膨張するインフレーションが起こり、宇宙は一様になり、曲率がきわめて平坦になった。そして、インフレーションの膨張が熱エネルギーになり、ビッグバンを引き起こす。野村さんは、宇宙の始まりとビッグバンの間にインフレーションがあったということを平易に説明してくれる。
インフレーションが起きたにしても、この宇宙の標準模型はよくできすぎている。たとえば、真空のエネルギー密度と物質のエネルギー密度がほぼ同じ大きさであるタイミングで生命が誕生したのは偶然なのか―
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論

第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第4章 インフレーション理論 より

4-2 ビッグバン宇宙に残された謎を解く

指数関数的な膨脹

前節で紹介したビッグバン宇宙に残された謎、それを解く鍵として出てきたのがインフレーション理論です。1980年、アラン・グース(現マサチューセッツ工科大学)により提唱されました。

これは、宇宙は高温高密のビッグバンの時代に突入する前に、インフレーションと呼ばれる凄まじい加速膨張の時期を経たとされる理論です。この急激な膨張によって、宇宙はほぼ完全に平坦かつ一様になってしまうのです。

ちなみに、1980年以前やほぼ同じ時期にも、旧ソ連やヨーロッパのグループをはじめとする複数の科学者が、この理論のアイデアを部分的に含む理論を発表していました。日本の佐藤勝彦もその1人です。

このインフレーションによる爆発的宇宙膨張は、通常のビッグバン宇宙の膨脹とは質的に異なります。
ビッグバン宇宙では、宇宙の2点間の距離は宇宙年齢の「べき乗」で大きくなっていきます。つまりある宇宙年齢、たとえば1秒で測った2点間の距離が100倍まで伸びるためには、宇宙年齢が数百秒になるまで「待たなければなりません。同様に、元の距離が1万倍まで伸びるためには、数万秒、すなわち数時間ほどかかります。

ところがインフレーションでの宇宙膨張は指数関数的に起こり、宇宙の2点間の距離は単位時間の間に倍増していくのです。この場合の単位時間は、インフレーションが始まったときの宇宙年齢で、たとえば、インフレーションが宇宙年齢1秒の時点で始まったとしましょう(実際ははるかに前ですが)。その場合、2点間の距離は1秒後には約2倍、そのまま1秒後には4倍、そしてそのまた1秒後には初めの8倍になるのです。ということは、元の距離が1万倍まで伸びるためには約13秒。べき乗で大きくなるのと比較にならないくらい速いのです。

指数関数的な膨張がどれほど凄まじいかを実感するために、厚さ0.1mmの紙を折っていくことを考えましょう。1回折ると厚さは0.2mm、2回折ると0.4mm、3回折ると0.8mmとなっていくとして、何回折れば世界最高峰の山であるエレベストの高さ(標高8849m)を超えるかを考えてみましょう。たった27回です。

インフレーションによる急膨張が起こった時期は正確にはわかっていませんが、宇宙誕生後10-38秒から10-26秒くらいの間のどこかだったと考えられています。宇宙の距離のスケールは、インフレーション開始時の宇宙年齢程度の時間で倍になります。このことが意味することを考えてみましょう。

原子核のサイズは原子の10万分の1ほどですが、その大きさ程度の領域が、現在観測可能な宇宙全体である約138億光年後年の大きさに広がるまでに要する時間は、インフレーションが宇宙誕生から10-38秒程度ではじまったとした場合、たった10-26秒程だったということになります。

インフレーションが始まった時期を、それより後の、宇宙年齢が10-26秒程度だという仮定にした場合でも、原子核の大きさ程の領域が減殺私たちが認識できる全宇宙の大きさにまで広がるのに要した時間は、わずか10-24秒ほどとなります。極めて急激な膨脹だったということがおわかりでしょう。

したがって、現在私たちが見ている全宇宙(約138億年光年の範囲)に対応する領域は。インフレーションの時代やそれ以前には極微の領域にすぎなかったということになります。そして、私たちはこれ以上の領域を見ることは原理的にできません。なぜなら、宇宙が誕生して138億年しか経っていないため、138億年より遠くを見ることは不可能だからです。ということじは、もしインフレーションが起こったのであれば、現在私たちが原理的に観測できる「全宇宙」は、「本当の」宇宙全体のごく一部でしかありません。

そして、このように小さな領域しか見ていないのであれば、もし宇宙全体が曲がっていたとしても、つまり曲率を持っていたとしても、それを認識することは難しく、宇宙は平坦に見えることになります。これは、私たちが自分のまわりを見回したところで、地球が球状であることを認識することはなかなかできないのと同様です。

また同じような理由で、小さな領域では宇宙全体の構造がどうであれ、その領域はほぼ一様に見えることになります。これはたとえば、雑誌に載った写真の1mm四方の領域だけを拡大して見ていることを想像してみても理解できるかと思います。

謎を解く鍵の1つ、スローロールインフレーション

宇宙にインフレーションを引き起こすメカニズムに関しては、1980年代に大きな理論的発展がありました。その成果の1つとそて、「スローロールインフレーション」(slow-roll inflation:「ゆっくり転がるインフレーション」と訳されることもあります)と呼ばれる枠組みが確立されたことが挙げられます。

現在では、このスローロールインフレーションが、私たちの宇宙の超初期に起こった爆発的膨脹の正体だと考えられています。

ではこのスローロールインフレーションは、どのようにして起こるのでしょうか? ここで大事になってくるのは、宇宙に存在することができる粒子の中には、ヒッグス粒子アクシオンのように、空間に一様に凝縮できる種類のもの(専門的には、スカラー粒子と呼ばれます)が存在するということです。このような「粒子」は、凝縮した跡は粒というよりもある種の「流体」として振る舞います。そして、物理学ではこの「流体」を「場」(より正確には「古典的な場」)と呼びます。

この場という描像によれば、凝縮した粒子はもはや通常の粒子ではありません。実際、もし私たちが凝縮した一様な場だけが存在する空間を観測したとしたら、そこに粒子のようなものを認識することはできません。通常の粒子のようなものを観測するのは、場を「攪乱」することにより、一様に凝縮していた粒子(のいくつか)を背景となる場から取り出す必要があります。これが、LHC実験がヒッグス場に対して行ったことです。

しかし、このような通常の粒子が存在しない場合でも、凝縮した場の存在には物理的な意味があります。
その1つの現れとして、場はエネルギー密度を持つことができるという事実が挙げられます。このエネルギー密度は、凝縮が一様であることを反映して空間的に一様であり、またその大きさは場の凝縮の大きさによります。つまり、通常の粒子が全く存在しない空間でも、その「からっぽ」の空間のエネルギー密度は場の大きさに依存することになるのです。

これは、空間のエネルギー密度が場の大きさの関数となることを意味します。このような関数は、ポテンシャルエネルギー密度、または単にポテンシャルと呼ばれ、たとえば図4-3(画像参照)のようになります。

一般に、場の大きさは時間とともにポテンシャルエネルギー密度を小さくするように働き、最終的にはそれが最小な状態に落ち着くことになります。これをイメージするには、ポテンシャルを通常の坂とみなし、そこにパチンコ玉のような小さな玉を置いたと考えるとよいでしょう。