物理学者野村さんに聞く宇宙とか物理の話
曲率と三角形の内角の和
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『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈
われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第4章では、1980年代に開花したインフレーション理論を紹介する。
宇宙誕生後10-38秒から10-36秒くらいの間に指数関数的に宇宙が膨張するインフレーションが起こり、宇宙は一様になり、曲率がきわめて平坦になった。そして、インフレーションの膨張が熱エネルギーになり、ビッグバンを引き起こす。野村さんは、宇宙の始まりとビッグバンの間にインフレーションがあったということを平易に説明してくれる。
インフレーションが起きたにしても、この宇宙の標準模型はよくできすぎている。たとえば、真空のエネルギー密度と物質のエネルギー密度がほぼ同じ大きさであるタイミングで生命が誕生したのは偶然なのか―
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm
[私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか] 宇宙論の新書シリーズその4 - 『マルチバース宇宙論入門』(野村泰紀)
9/13/2021 モニオの部屋
8. マルチバースを裏付ける観測
将来、マルチバースを裏付ける観測とはなんでしょうか?
ひとつは、宇宙の曲率を高い精度で測ることです。
今後数10年の間に、宇宙の曲率の測定精度は最大2桁程度良くなるということなので、0.01度の角度の誤差まで測定できるようになるそうです。
https://www.monionoheya.com/2021/09/multiverse-cosmology.html
なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論
【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論 より
4-1 初期宇宙に残る謎
なぜ「ほぼ」一様だったのか
第2章と第3章で、いわゆるビッグバン宇宙論と呼ばれるものの概要を述べてきました。この描像はおおむね約半世紀前までの確立され、20世紀後半のダークエネルギーの発見でさらに精密なものになりました。実際、現在までに行われた宇宙論的観測や素粒子論的実験は、本書で紹介していないものも含めて全てこのビッグバンを支持しています。
もちろんダークマターの正体やバリオン数生成の詳細など、まだわかっていないこともあります。しかし、現在ではビッグバン宇宙論の基本的な描像は、もはや疑いのないものだといえます。
それによれば、私たちのこの宇宙は、その初期にはほぼ完全に一様で超高温高密の世界でした。そして私たちやその周りの世界を構成する通常の物質は、反物質との対消滅を逃れたわずかな「残りカス」であり、現在の宇宙の全エネルギー密度の数%を占めるにすぎません。また銀河、星、ひいては生命等を含む宇宙の全ての構造の起源は、宇宙初期に存在していたたった10万分の1程度の密度揺らぎだったのです。
このビッグバン宇宙論が確かなものとなったことは画期的なことで、また私たちの世界観はそれによって大きく影響を受けたわけですが、それでもまだすべての宇宙の謎が解けたわけではありません。
解けない謎の1つに、ビッグバン宇宙論が明らかにした、初期の宇宙がほぼ一様だったものの、10万分の1程度の密度揺らぎが存在していたということがあります。
もし、この密度揺らぎが存在しなかったならば、銀河、星等を含む現在の全ての構造は存在していませんでした。先にも述べたように、これらの構造は、初期の揺らぎが重力により増幅されてできたものでした。もし初期の状態が「完全に」一様であったなら、そこには何も増幅されるものがないため、このような構造形成は起こり得ないことになります。
つまり、宇宙が現在の形を取るためもは、密度が完全に一様ではなかったことが需要なのです。ここで疑問となるのが、どうせ一様でないならば、なぜ「全然一様でない」うちゅうにはならず、「ほぼ一様な」宇宙になったのか、ということです。このような宇宙の状態はかなり特殊なものであり、それをビッグバンの初期に実現するためには、なんらかのメカニズムが働いたと考えるのが自然です。
つまり、宇宙の超初期には、ここまで述べてきたビッグバン宇宙論ではつかみきれていない何かが起こったと考えられるのです。
三角形の内角の和は180度とは限らない
ビッグバン宇宙論で説明できない謎は他にもあります。それは、宇宙が極めて「平坦」であることです。宇宙が平坦であるとは、宇宙の異なる3点を最短の線で結ぶ三角形を作ったとき、その内角の和がちょうど180度になる性質のことです。三角形の内角の和が180度であることは、皆さんも小学校の算数で習ったかと思います。しかし、実はこの性質は当たり前のことではないのです。
2次元の面を考えてみましょう。もしこの面が図4-1(画像参照)の左の図のように平面であれば、異なる3点を最短の線で結んでできた三角形の内角の和は、確かに180度になります。
しかし、図4-1の真ん中の図(地球の形)のように、もし面が球面であれば、同様に異なる3点の間を最短の線で結んだできた「三角形」の内角の和は180度よりも大きくなります。
このような空間(この場合は2次元空間、つまり面)は、正の曲率を持っているといわれます。また、図4-1の右の図(ウマのくらの形)のように、三角形の内角の和が180度より小さくなる空間、すなわち負の曲率をもった空間というのも考えられます。
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図4-1からも明らかなように、もし三角形を使って地球の表面の曲率を測ろうとしたら、その三角形は地球サイズの大きさでなければなりません。同様に、宇宙の空間の曲率を測ろうとしたら、私たちは138億光年サイズの三角形を用意しなければならないのです。もちろん、こんな大きな三角形を人間の手で用意することは不可能です。しかし、幸運にも宇宙はそのような大三角形をすでに提供してくれているのです。
それは、第2章で見た宇宙背景放射です。その原理を次項で簡単に解説しましょう。
宇宙は極めて平坦!?
前述のように、宇宙背景放射の温度は約2.73Kですが、この温度は放射がくる方向により10万分の1程度由来でいます。よって宇宙背景放射には、この揺らぎにより周囲より温度が高い領域がいくつも存在するのですが、この比較的温度が高い領域間の晴れ上がり時点(宇宙年齢38万歳の時点)での平均的距離は計算により求めることができます。
また私たちは、晴れ上がりが起こった時点(図2-3、内側の円)と地球の間の距離も知っています。それは、現在の宇宙年齢に対応する距離(138億光年)から晴れ上がり時点年齢に対応する距離(38万光年)を引いたもの、つまり約138億光年です。(ここで晴れ上がり時点の宇宙年齢が効いていないのは第2章で説明した対数の考え方の例です)。そしてこの2つの情報は、宇宙に大三角形を描くのは十分なのです。
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この2つの隣り合った温度の高い領域からくる光子の間の角度は、観測によって測ることができます。実際には周りより温度が高い領域はたくさんあるので、その間の距離といったときには統計的処理をすることになります。そして現在の観測によれば、このようにして測った宇宙の曲率はきわめて小さい、つまり宇宙は非常に平坦であることがわかっています。具体的には、このようにして作った内角の和の180度からのずれは、1度より小さくなっています。
この事実をビッグバン宇宙論は説明することができません。別の言葉で言えば、ビッグバン宇宙の枠組みは、曲率がゼロでなかったとしても理論的には何の問題もありません(なのに実際の曲率はほぼゼロです)。
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ここまで、宇宙が持つ一様性と平坦性にかかわる特徴的な性質を見てきました。ちなみに、一様性と平坦性は一見似ているように見えるかもしれませんが、独立な性質です。これは球面を考えてみればわかります。この2次元空間は完全に一様ですが、正の曲率を持っています。
ここで明らかになった宇宙が持つ一様性と平坦性に関する性質は、それが非常に特別なものであることからも、何か深遠な事実を示唆しているように思われます。そして、もしそうであるならば、ビッグバン宇宙がこれらの性質を説明することができない以上、その起源はここまで述べてきたビッグバン宇宙論を超えた枠組みにあるはずです。それは一体何なのでしょうか?