じじぃの「科学・地球_542_なぜ宇宙は存在するのか・ダークマター候補2(axion)」

ブルーバックス『宇宙になぜ我々が存在するのか』村山先生の最新作!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=QjmRgXWGbdI&t=9s

XENON実験(液体キセノン検出器)


ダークマターの正体はアクシオンか? 東北大と東大が提唱

2020/10/15  TECH+
東北大学東京大学は10月13日、日米欧の国際共同によるダークマター探索実験「XENON1T」によって、2020年6月に得られたシグナルは、ダークマター候補のひとつである未発見の素粒子アクシオン」が電子に吸収されることによって生じた可能性を指摘した。
また同時に、アクシオンが、冷却異常を起こしている白色矮星などの一部の恒星における進化をよりよく説明できることも示したことも発表した。
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20201015-1415863/

『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈

われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第3章では、素粒子物理学を応用し、宇宙誕生の直後にまで遡る。
ダークマターの正体は不明だが、観測等の状況証拠から、他の粒子と相互作用をせず、晴れ上がり前から〈揺らぎ〉が増幅されていると考えられる。ダークマターの最有力候補はウィンプ(WIMP)だ。宇宙誕生直後は、粒子と反粒子は同数だったが、CP対象性の破れにより、わずかな粒子が残ったと考えられている。
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」 より

標準模型に都合のいいアクシオン

ダークマターの候補としてウィンプと並ぶ有力候補として挙げられるのが、アクシオン(axion)と呼ばれる、理論的に提案されたものの未発見の粒子です。
このアクシオンは、その性質から生成メカニズムにいたるまでウィンプとは似ても似つかないものであるため、ウィンプという総称のなかに含めることはできません。ただ、その量が宇宙初期の歴史の結果として決まったであろうという点はウィンプと共通しています。

では、アクシオンとはどういった粒子なのでしょうか?
この粒子は1977年、ロベルト・ベッチャイ、ヘレン・クィン、ワインバーグ、フランク・ウィルチェックにより、標準模型の「強い相互作用のCP問題」と呼ばれる理論的問題を解決するために導入された粒子です。

この問題は、標準模型が理論的にうまくいかないという問題ではありません。標準模型はそれ自体で理論的に無矛盾の枠組みです。しかし、この模型には理論的な不自然な特徴があります。アクシオンを導入する動機は、アクシオンがあればこの一見不自然に見える特徴が自動的に出てくることになり、うまく説明できるという点にあります。

アクシオンの理論には1977年に初めて提案されて以降いくつかの発展がありましたが、現在受け入れられている枠組みによればアクシオンの質量は非常に軽く、10-10eVから10-2eV程度の範囲にあると考えられます。これは、電子の質量の約1億から1京分の1にあたり(1京は1兆の1万倍)、ニュートリノよりも軽くなります。ただし、3つのニュートリノのうち1番軽いものは、これより軽い可能性もあります。

また、アクシオン標準模型の粒子の相互作用は非常に弱く、特に散乱のエネルギーが低い極限では相互作用は事実上なくなってしまいます。

このような粒子がダークマターだとすると、その現存する量はウィンプのときのフリーズアウトとは全く異なるメカニズムで決まることになります。詳細は省いて重要なことだけを記述すれば(一般の読者の方々にとってはすでに十分詳細かもしれませんが)、アクシオンにはヒッグス粒子の場合と同じように、アクシオン場として空間に凝縮することができるという性質があります。そして、このような粒子は熱的な効果とは関係なく、簡単にしかも大量に作られる可能性があるのです。

これはアクシオンダークマターとなるのに非常に都合がよいことです。アクシオンの質量が極めて小さいことを思い出してみましょう。私たちのダークマターのエネルギー密度は観測でわかっているので、そして熱的ウィンプの場合でちょうどよい程度なので、アクシオンダークマターであるためにはアクシオンの数密度は膨大でなければなりません。ちなみにエネルギー密度は、質量と数密度の積になります。しかしこの膨大な数密度は、凝縮による生成メカニズムを考えることにより、ごく自然に生じ得るのです。

しかも、このように凝縮により作られたアクシオンは、一般に極めて「冷たい」のです。すなわち、アクシオンの質量は非常に小さいにもかかわらず、生成されたアクシオンの運動エネルギーはそれよりさらに小さいのです。第2章で述べたように、ダークマターが冷たいということは構造形成がうまくいくための条件でした。つまり、アクシオンダークマターとして、観測と合致するように正しく振る舞うのです。

では、アクシオンを直接検出することはできるでしょうか? アクシオンは非常に弱いながらも標準模型の粒子と相互作用をするので、それを用いて検出することが可能です。実際、現在までに様々な実験が提案され、そのうちのいくつかは、ダークマターアクシオンを検出できる可能性のある精度に達しつつあります。また、比較的新しいテクノロジーに基づいたいくつかの実験も提案されており、近い将来にはこれらがダークマターアクシオンを見つけることになるかもしれません。

これらアクシオン検出実験のよいところは、ウィンプの場合に比べて必要とされるリソースが小さいという点です。これは多分に近年までのダークマター検出の試みが、歴史的、社会的理由等により、ウィンプの場合に集中されてきたということによるところが大きいです。しかし、現在ではアクシオンダークマターである可能性は大きく見直されており、新しい実験にかかる期待も大きいものがあります。