じじぃの「科学・地球_194_宇宙の終わりとは・未来の未来」

CMB | Dark Matter, Dark Energy, Dark Gravity

The Planck satellite, launched by the European Space Agency, made observations of the cosmic microwave background (CMB) for a little over 4 years, beginning in August, 2009 until October, 2013.
https://darkmatterdarkenergy.com/tag/cmb/

標準理論を超えて | 素粒子とは?

ICEPP 素粒子物理国際研究センター
●標準理論が直面するいくつかの限界
標準理論は、早くからその限界も指摘されていた。そのひとつが「重力」を扱えないことだ。
現代の物理学では、「重力」、「電磁気力」、「強い力」と「弱い力」の4つの力を統一的に説明する究極の理論の構築を目指している。138億年前の原初宇宙では、ただ1つの力が存在し、時間とともに4つの力に分岐したのではないかと考えられている。その謎を解く鍵を素粒子が握っているとされるが、「重力」は標準理論の射程外とされているだけでなく、「重力」以外の3つの力の統一(大統一理論)もまだ完成していない。
もうひとつの限界は、宇宙に存在すると考えられる物質やエネルギーのうち、標準理論で説明可能なのはわずか5%にすぎないことだ。天文観測技術の発達により、宇宙には目に見えない(光を発しない)大量の謎の物質「暗黒物質ダークマター)」が存在することが1960年代半ばに明らかになった。さらに1998年には、宇宙が現在、加速膨張していることが突き止められたが、その理由が解明されておらず、正体不明のエネルギー「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」の存在が指摘されている。それぞれ、宇宙の27%と68%を占めるとされる。
https://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/elementaryparticle/beyond.html

宇宙の終わりに何が起こるのか

ケイティ・マック (著)
この宇宙は必ず終わる。―いつ、どうやって!?「万物が究極的に破壊される」瞬間を描く5つのシナリオ。19ヵ国で翻訳!話題の最新宇宙論に待望の邦訳登場!
第1章 宇宙について大まかに
第2章 ビッグバンから現在まで
第3章 ビッグクランチ―終末シナリオその1 急激な収縮を起こし、つぶれて終わる
第4章 熱的死―終末シナリオその2 膨張の末に、あらゆる活動が停止する
第5章 ビッグリップ―終末シナリオその3 ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる
第6章 真空崩壊―終末シナリオその4 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死
第7章 ビッグバウンス―終末シナリオその5 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す
第8 未来の未来
第9章 エピローグ

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『宇宙の終わりに何が起こるのか』

ケイティ・マック/著、吉田三知世/訳 講談社 2021年発行

未来の未来 より

私たちは、それら「ダークなものたち」が宇宙にどれくらいあって、どのようにふるまっているかを知っている。一方で、両者を合わせれば宇宙の95パーセントを占めるダークエネルギーダークマターが、どのように基礎物理学に結びついているのか、私たちにはわからない。「したがってその意味では、私たちは全然理解していないのです」と彼(ダークマターの研究者)はいう。

標準模型が欠く重要なピース

一方、素粒子物理学から見えるものも、イライラするほどこれとそっくりだ。1970年代、物理学者たちは、知られている自然界のすべての素粒子を記述するために、素粒子物理学標準模型をつくった。陽子と中性子をつくっている「クォーク」、ニュートリノと電子とそのいとこたちからなる「レプトン」、そして、粒子と粒子のあいだで基本的な力(電磁力、強い核力、弱い核力)を運んで行き来する仲介者としてふるまう「ゲージ粒子」──。これらが標準模型に含まれる粒子たちだ。
厳密に質量はゼロとされていたニュートリノに、ごくごく軽い質量があるとしたりする小さな調整はあったものの、標準模型は素晴らしい成功を収めており、課せられたすべての実験による検証に合格している。標準模型のパズルの最後のピースとなったヒッグス粒子も、標準模型が自ら予測していたものだ。その後の歳月のあいだ、粒子実験において、標準模型があらかじめ予測していなかったものは、何も見つかっていない。
これは「勝利として称賛すべきだ」と思われるかもしれない。この理論はうまくはたらく! すべては私たちが予測したとおりだ! という具合に。
私たちはなぜ、くつろいで、自分たちの頭の良さと成功を満喫していないのだろう?
なぜなら、これはある意味で最悪のシナリオだからだ。標準模型は、実験結果と合致するという点では素晴らしいが、標準宇宙論模型と同様に、きわめて重要ないくつかのピースが欠けているに違いないということが、わかっているのだ。
ダークマターダークエネルギーについて何もいえないことに加え、いくつか大きな「調整課題」が存在するのである。パラメータがきっちり正しい値になっていなければ、すべてが台無しになってしまうような箇所が、標準模型にはいくつかあるのだ。
理想的には、パラメータがある値になっている理由を説明してくれるような、なんらかの理論的な枠組みがあってほしいところだ。パラメータをその値にしなければならない理由が、「さもないと、私たちに良くないことが起こるから」とか、あるいはもっと困る、「観測値がこうだといっているから」でしかないと気づくとき、なんとも当惑してしまう。

「虚空」に触れる

宇宙の未来について何か知りたいことがあるのなら、誰もが知っているのに誰も触れたがらない、ひたすら膨張を続け、やがて破滅をもたらす、目には見えない巨大な存在について取り込むべきだろう。ダークエネルギーだ。
1998年に宇宙の膨張が加速していることが発見されると、私たちはこの新しいパラダイムによって、ダークエネルギーが支配する未来へとつづく道をきっちりと歩まされることになった。それは、宇宙が次第に空虚になり、冷たくなり、そして暗くなり、やがて、最終的にはすべての構造が崩壊して「究極の熱的死」にいたる未来だ。
だがこれは、1つの外挿にすぎない。「ダークエネルギーは不変の宇宙定数である」という仮定に基づいて導き出された予測である。すでに本書でも本書でも見たように、宇宙のの膨張の加速を引き起こしているものがファントムエネルギー(ファントムとは[幽霊]を意味する)の範疇に含まれるものか、それとも、何か時の経過にしたがって変化するものかによって、宇宙にとってそれがもつ意味も大きく変わってくる。
残念ながら、観測に関するかぎり、ダークエネルギーはわれわれの手でつかめるような「取っかかり」的なものはあまり提供してきれない。私たちが知るかぎり、それは目二見えず、実験室内の実験でも検出されず、宇宙空間に完全に均一に分布しており、わずかでも検出できるとすれば、天の川銀河よりもはるかに大きな尺度にわたってそれが及ぼす間接的な影響を探すしかない。
大まかな話をすると、測定できるものが2つある。1つは、これまでの宇宙膨張の歴史だ。現時点で私たちはこれを、きわめて遠方にある超新星を観測して、それらがいかに速く後退しているかを突き止めるという方法で、おもに研究している。
もう1つは、構造形成の歴史である。ここで「構造」とは、銀河や銀河団のことを指す。というのも、恒星や惑星などの小さなものは、宇宙論研究者にとっては、中位を逸(そ)らす細かいものにすぎないからだ。構造形成の歴史の観測は、ダークエネルギーの解明に直接的にそれほど関係なさそうだが、大量のデータを利用する独創的な方法をたくさん活用できる。
コツは、できるかぎり多数の銀河の画像とスペクトルを広大な空間にわたって(つまり、宇宙の歴史の長い範囲にわたって)収集し、統計学的手法を使って、それらの物質が時間の経過のなかでどのように集まったかを推測することである。この2種類の観測を合わせて使えば、ダークエネルギーがもつ「空間を引き延ばす性質」が、これまでに宇宙全体にどのような影響を及ぼしてきたか、そして、物質が集合して銀河や銀河団や人間のようなものを形成しようとするのを、いかに阻んできたかを、明らかにできそうだ。

期待される次世代観測装置たち

ワクワクするような新しい観測プログラムはVRO(ヴェラ・C・ルービン天文台)だけではない。他にもたくさんの新たな望遠鏡やサーベイが計画されており、それぞれがこれまでにない方法で宇宙の姿を見せてくれることになっている。
最も熱い期待が寄せられているものには、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡JWST:James Webb Space Telescope)、ユークリッド衛星、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(旧名称は広視野赤外線望遠鏡[WFIRST:Wide Field Infrared Survey Telescope])などの、新しい宇宙望遠鏡がある。
これらの望遠鏡は、遠方の暗い天空領域(ディープ・フィールド)の画像とスペクトルを赤外線でとらえる。そのため、非常に遠方にあるせいで、放出された光が引き伸ばされてスペクトルの可視光領域の外に出てしまった銀河でも、見えるようになるはずだ。
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測施設までもが、「ダークエネルギーの主体暴き競争」に参戦してきた。CMBの研究によって、初期宇宙のようすと宇宙構造の起源が明らかにできることは、第2章で見たとおりだ。
CMBの光が放出された当時、物質とエネルギーの双方が途方もなく高密度だったために、ダークエネルギーの効果はこれに圧倒され、宇宙の中でまったく取るに足らない存在だった。それを考えると、CMBの観測から、ダークエネルギーの現在のふるまいについて洞察が得られることに、驚かれるかもしれない。
タネを明かせば、私たちが研究したい宇宙の構造のすべて──すべての銀河と銀河団──は、私たちとCMBのあいだにあり、これらの対象物のどれもが、自らが存在している空間を自らの重力で、ほんの少しゆがませている、ということなのだ。
透き通った池の水底にある小石を、上から覗き込んでスナップ写真が1枚あるとしよう。1つひとつの小石がどこに置かれていたか、それぞれの小石の形はどのようなものか、正確なことは知らなくとも、水がとても静かだったときと、水が細かく波立っていたときの違いは、小石の画像のゆがみを見分けることで、おそらくあなたにもわかるだろう。それは、「一般的に小石はどう見えるべきか」という感覚をあなたがもっているからだ。
これと同様に、私たちは宇宙マイクロ波背景放射をとてもよく理解しているので、少なくとも統計学的な意味において、CMBと私たちとのあいだにあるさまざまなものによって光が小さなゆがみを受けているのを見分けることができるのだ。これは「CMBレンズ効果」とよばれ、宇宙構造の成長を研究する素晴らしいツールの1つとなっている。
新しいCMB観測望遠鏡は、この手法の高度化に貢献してくれるだろうが、じつはすでに、CMBレンズレンズ効果を使った「観測可能宇宙内の全ダークマター」のマップが作成されている。このマップは非常に解像度が低く、ぼやけていて、まるで記憶だけを頼りに指で描いた世界地図のようだ。しかし、それでもやはり、私たちにこんなことができるのは素晴らしい。
トロント大学宇宙論研究者ルネ―・フロジェックは、ダークエネルギーと宇宙の最終的な運命に特に注目して、既存の宇宙論模型をよりよく理解するために、CMBと銀河サーベイを利用している。彼女はVROのようなものがもたらすデータと、新しいCMB観測望遠鏡データとを連活することが、それぞれのデータセットが向上しつつあるいま、特に有効だと指摘する。
「相互相関」という手法を使うことで、銀河カタログからわかる個々の対象物の位置の情報と、CMBレンズ効果から得られる最大尺度の物質分布の情報とを比較することができる。これにより、より正確な結果を得ることができ、ひいては、標準宇宙論模型からのズレを見逃しにくくなるというわけだ。重力の変化によってダークエネルギーの効果を摸倣する代替理論は、このような連結データの中では、まったく違って見えるだろうとフロジェックはいう。
「つまり、隠れる場所がなくなっていくと思うんです」