【宇宙を支配する6つの数】膨張宇宙(宇宙の密度)
宇宙の加速膨張について
2021年10月25日 スクラップブック
アインシュタインの方程式(1916年)は、重力の正体が時空のゆがみによるものであることを示す方程式である。
それによれば時空のゆがみ(幾何学的要素)は、質量の分布として示されるという一元的な関係性であった。
重力場の方程式
しかし後にアインシュタインは、時空の静的な変化を示すために、上記の方程式に新たに宇宙項を追加した。(1917年)
https://blog.goo.ne.jp/watanabeeiichi/e/707e1a4cef18160d2668e0f3abea00cb
『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』
矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行
パート3 宇宙の始まり――宇宙膨張を加速させる謎のエネルギー より
●始まりは一般相対性理論の予言
太陽系宇宙は、われわれが容易に想像できないほど広大な空間である。だがこれも、銀河系(天の川銀河)の中ではきわめてちっぽけな片隅でしかない。さらにその銀河系でさえ、宇宙に存在する1000億以上の銀河のひとつでしかない。人間は、おのれが生きている太陽系さえろくに知らないにもかかわらず、無謀にも全宇宙を理解しようとしている。身のほどを知らぬ試みではある。
宇宙を理解しようとする現代科学の試みは、ただひとつの方程式から始まった。それは「重力方程式」、別名「アインシュタインの場の方程式」である。
この方程式は、1915年にアルベルト・アインシュタインが提出した「一般相対性理論」の中核をなしている。その後世界一有名になったこの物理理論は、物質と時空(時間と空間)の関係を、誰もが聞いたことのない新しい見方で表していた。その核心は「重力は時空のひずみである(=物質はそれ自身の重力によって周囲の時空をゆがませる)」というものである。重力方程式はこれを数式化したものだ。
この方程式を宇宙全体にあてはめたらどうなるか? これを考えたときのアインシュタインは、宇宙のどこにいっても星々が静止して存在する空間、まったくの静穏の世界を思い描いていた。だが、結果は彼を困惑させるものだった。というのも、そのような宇宙では散りばめられた無数の星々が互いの重力で引き合って収縮し、たちまち中心へと落ち込んでつぶれてしまうからだ。
アインシュタインは方程式に間違いがあると考え、確証のないままに手を加えた。収縮せず静止状態を保つように、”収縮に対抗する力”を仮定して方程式に加えたのだ。彼はその力を「宇宙項」と呼んだ。宇宙項とは、重力とは逆の力、つまり反発力(斥力)である。
●数千億の銀河を閉じこめた”火の玉”
1925年、そこに一石が投じられた。後に20世紀最大の天文学者と呼ばれるアメリカのエドウィン・ハッブルが、当時世界最大の望遠鏡を用いて、われわれの銀河系の外の宇宙にも多数の銀河が存在することを見いだした。
彼の観測では、はるか遠方のそれらの銀河はわれわれから遠ざかりつつあった。しかも銀河はばらばらに動いてはおらず、遠い銀河ほどより速く遠ざかっていた。そのため、それらを含む宇宙全体は風船がふくらむように膨張していると推測された。銀河までの距離とそれが遠ざかる速度は比例しており、その関係は後に「ハッブルの法則(ハッブル=ルメールの法則)」と呼ばれることになる。
こうして宇宙は膨脹していることになり、科学者たちはこれが事実として受け入れた。アインシュタインは、自らがつくった重力方程式に余分な力(宇宙項)を付け足したことを後悔し、後に「わが生涯最大の過ち」とまで口にしたとされている。
他方、第二次世界大戦終結からまもない1947年、ソ連(現ロシア)生まれでアメリカに亡命したジャージ・ガモフが、宇宙の姿の考察に新たな進展をもたらした。それまで考えられていた宇宙の姿にまったく新しい視点を加えたのだ。それは、「宇宙の全物質は極小の”火の玉”から誕生した」という革命的な見方だった。
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ガモフは自説の中で、爆発的膨張を始めた瞬間の宇宙を描いた。それは、目に見えないほど小さな空間に、いまの宇宙をつくっている全物質――1000億以上の銀河!――が閉じ込められていたところから始まる。原子より小さいその宇宙は密度がとてつもなく高く、圧力と温度もきわめて高い。この宇宙がいっきに膨張しはじめると、密度が下がるにつれて温度も下がり、最初の物質である中性子や陽子などが生まれ、さらにそれらが結合して元素が誕生した。ガモフのこの見方は、現在の宇宙の見方の主流である「ビッグバン宇宙論」そのものだ。
その後、天文学の観測や物理実験を通して、多くの研究者がビッグバン宇宙論に修正を加えてきた。21世紀前半のいま、世界の宇宙論学者たちはどのような宇宙誕生のシナリオを描いているのか?
●始まりは「真空エネルギー」?
まず140億年ほど前、”宇宙のタネ”があった。1個の電子より小さなこのタネは、一瞬で途方もない大きさにふくれあがった。1026~1030倍、つまり10兆X10兆X1倍~1万倍にも成長(膨張)したのだ。その時の膨張速度は光速をはるかに超えていた。
この急速膨張は「インフレーション」と呼ばれる。これは1980年代はじめに東京大学の佐藤勝彦やアメリカのアラン・グースが提案したものだ。
このアイディア(インフレーション理論)は、ビッグバン宇宙論が説明できない複数の問題を解決した。そこで現在の宇宙論は、インフレーション理論とビッグバン理論を合体させたものになっている。
だが問題は残されている。それは、ではそもそも最初のインフレーションはなぜ起こったのか? これがわからなければ、宇宙論全体は絵に描いたモチである。
インフレーションを起こしたしくみについて物理学者たちが考えた仮説は”負の圧力”をもつ「真空エネルギー」が、点のような原初の宇宙を一瞬で引き伸ばしたというものだ。この奇怪なシナリオは、相対性理論とはまったく相容れない「量子力学(量子論)」から導かれたものだ。ともあれ、このインフレーションが終了したとき、宇宙は超高圧・超高温の”火の玉”へと加熱された。ビッグバンの始まりである。
誕生直後の”火の玉宇宙”は巨大なエネルギーのかたまりであり、そこに物質は存在せず、内部では素粒子が生まれては消えていた。宇宙が膨張して温度がいくらか下がると、素粒子どうしは結合して、陽子や中性子、電子などを生み出した。宇宙誕生から90秒ほど後にはいまの宇宙に存在するすべての陽子や中性子がつくられ、ついでそれらが結合してヘリウムなどの原子核が姿を現した。現在の宇宙の”原材料”がそろったのだ。
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その後宇宙はますます膨張しかつ冷えていった。すると宇宙全域に広がっていた物質は重力に引き寄せられていたるところに集まり、無数の星々や銀河を生み出した……これが誕生後の宇宙についてのシナリオである。
●ダークエネルギーが宇宙を”引き裂く”のか?
だがこれで宇宙誕生の謎が解けたわけではない。というよりも、これらの観測は研究者たちを困惑させるより深い謎を次々にあぶり出したからだ。
そのひとつは宇宙の物質の量である。前記の宇宙背景放射から求めた物質(陽子や中性子、電子など身のまわりに存在する物質)の量は、宇宙の全エネルギーに比べてあまりに少なく、わずか5%ほどしかない。われわれが”普通の物質”と呼ぶにはまったく普通ではないのだ。
実際には宇宙の27%は正体不明の「ダークマター(暗黒物質)」であり、さらに最大の割合、じつに68%「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」だという。このダークエネルギーは身近に大量にあってもわれわれは気づかないようなのだ。
ダークエネルギーの存在は1990年代から予言されていた。超新星の観測から宇宙の”膨張が加速”していることがわかり、それを駆動する力がダークエネルギーと呼ばれた。