じじぃの「科学・地球_541_なぜ宇宙は存在するのか・ダークマター候補1(WIMP)」

空を見てダークマターを探しているMAGICさん

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=YvPDT7YwUWg

Thermal freeze-out of dark matter for different annihilation cross-sections c.


   

Neutrinos Rising from the Floor


Neutrinos Rising from the Floor

June 29, 2021 Physics
A neutrino background that could confound dark matter searches is now becoming an opportunity for probing new physics.

The “neutrino floor” has been looming under dark matter searches for years. This neutrino background is still below the sensitivity of dark matter detectors, but as such detectors continue to become more sensitive, it’s only a matter of time before neutrino events will begin to dominate the signal. Reaching this floor might sound like bad news, but some researchers see it as an opportunity for gaining new information about neutrinos, as well as for potentially uncovering particles and interactions beyond the standard model of particle physics.
https://physics.aps.org/articles/v14/96

『なぜ宇宙は存在するのか』――人間原理の正しい解釈

われわれの宇宙はどこから来て、どこへ向かうのか――ダークマター、インフレーション理論、超弦理論といった基礎知識をご存じの方におすすめ。宇宙論の最先端の話題/用語を合理的に整理できる。
第3章では、素粒子物理学を応用し、宇宙誕生の直後にまで遡る。
ダークマターの正体は不明だが、観測等の状況証拠から、他の粒子と相互作用をせず、晴れ上がり前から〈揺らぎ〉が増幅されていると考えられる。ダークマターの最有力候補はウィンプ(WIMP)だ。宇宙誕生直後は、粒子と反粒子は同数だったが、CP対象性の破れにより、わずかな粒子が残ったと考えられている。
https://www.pahoo.org/e-soul/gadget/2022/WhyTheUniverseExists.shtm

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」 より

熱的ウィンプのシナリオ

長らくダークマターの筆頭候補として君臨し、いまでも最有力候補の1つであるのが、ウィンプ(WIMP:Weakly Interacting Massive Particles)です。

このウィンプという言葉は、特定の粒子を指すものではありません。大雑把に言うと、それは私たちの知る粒子に働く弱い力(β崩壊を司る力)と同程度の強さの相互作用をする、安定な粒子の総称です。

歴史的には、このような粒子への興味は、それが種々の動機から提案される様々な(標準模型を超える)理論にたびたび登場することにより生じました。しかし、ウィンプ、特に「熱的ウィンプ(thermal WIMP)」と呼ばれるダークマターのシナリオには、それ自体いくつかの長所が存在します。なので、ここではこの熱的ウィンプについて、特に背後の理論に拘泥(こうでい)することなく解説していくことにします。

熱的ウィンプのシナリオの基本的な仮定は、初期の宇宙ではダークマター標準模型素粒子と熱的な平衡状態にあったということです。これは、もっともらしい仮説といえます。一般にウィンプの質量は、その相互作用の強さが弱い力と同程度であることから、その基となる電弱相互作用のスケールである100GeVから1TeVほど、つまり陽子の質量の100倍から1000倍ほどと考えられます。

宇宙の超初期の、温度がウィンプの質量に相当する温度(約1015~1016度)より高かった時期にはウィンプの質量はその運動エネルギーに比べて無視できました。したがって、その時代にはウィンプは質量のない光子や、質量がウィンプより小さい他の標準模型の粒子と同じように振る舞っていたと考えられます。

もし、この時代にウィンプ標準模型の粒子と十分な強さで相互作用していたとすると、これら全ての粒子が熱的平衡状態にあったと考えられるでしょう。この平衡を達成するためには弱い力程度の相互作用で十分です。

ウィンプが他の粒子と熱的平衡にあったということは、宇宙が超高温であったときのウィンプの数密度は、光子および他の標準模型の粒子の数密度と同程度だったということを意味します。
なぜなら、たとえば光子同士の衝突によりウィンプと反ウィンプ(もしウィンプが質量以外の性質を持たなければ、反ウィンプウィンプ自身であり得ます)が対生成されるプロセスと、その逆にウィンプと反ウィンプ対消滅して光子等の他の粒子に変換されるプロセスとが、ちょうど釣り合っていたからです。

しかし、宇宙の温度がウィンプ質量に対応する温度より下がってくると、状況は変わってきます。このような温度では、光子等の運動量が十分でないためウィンプ・反ウィンプの対生成は起こりません。一方で、ウィンプ・反ウィンプ対消滅は起こり続けるため、ウィンプ(および反ウィンプ:以後この2つを区別しない)の数密度は光子等のそれに比べて急速に減っていくことになります。そして、もしこの状況がそのまま続くならば、ウィンプの量は宇宙論的に完全に無視できるまでに減っていってしまうことになります、

ところが、ここで宇宙が膨脹しているという事実が効いてきます。ウィンプの数密度が減ってくると、それにつれてウィンプ対消滅の相手を見つけづらくなりますが、さらに宇宙が膨張していると、ある時点で相手を「全く」見つけられなくなってしまうのです(もし宇宙が膨脹していなければ、見つけづらくてもいつかは見つけて対消滅します)。

つまり、ある時点でのウィンプはそれ以上の対消滅ができない「フリーズアウト」の状態になる。それ以降のウィンプの数密度は通常の宇宙膨張による体積に反比例した減少にのみ従うことになるのです。

この様子を示したのが図3-2(画像参照)です。

横軸のxはウィンプの質量を時間で割ったもので、時間に対応する量です。なぜなら、時間が経つほど温度は下がっていくためです。
縦軸は、ウィンプの数密度から単純な宇宙膨張の影響を除いたもの、つまり数密度に宇宙膨張とともに変わる長さのスケールの3乗を掛けたものです。

実線は温度がウィンプの質量より下がるにつれ(xが1より大きくなるにつれ)、ウィンプの数密度が小さくなっていく効果を示しています。
しかし、この減少は永遠には続きません。点線で示したように、ある時点でフリーズアウトが起こり、その後の(スケールの3乗で補正した)数密度は一定に保たれます。ここで点線が3本描いてあるのは、フリーズアウトが起こる時期がウィンプ対消滅する強さによるためです。図には例として3つの異なる強さの場合が示してあります。

ウィンプの証拠をつかむ

ダークマターの直接検出実験は1980年代半ば以降の本格的し、その精度は、過去数十年の間に飛躍的に向上してきました。にもかかわらず、ダークマターの証拠はいまだ得られていません。これは、これらの実験によってダークマターとターゲットの物質の間に働く相互作用の強さに上限が与えられたことを意味します。

この上限をダークマター原子核を構成する陽子との相互作用の強さの上限に換算して示したのが図3-5(画像参照)です。
上限はダークマターの質量に依存するので、横軸にはダークマターの質量、縦軸には散乱断面積と呼ばれる量で表したときの陽子との相互作用の強さを取っています。実験ごとに示した線より上の領域が棄却された領域です。

一般にウィンプの質量は100GeVから1TeV程度、陽子との散乱断面積は10-50cm2から10-40cm2程度の範囲にあると考えられるので、図からは現在までの直接検出実験がすでにこの領域を探索し始めていること、しかしそれでもまだ探索しつくしてはおらず、ダークマターウィンプである可能性が残っていること等がわかります。
また最近ではウィンプがこの範囲から外れている可能性も指摘されており、そう考えるとダークマターウィンプである可能性はまだ大いに残っているといえるでしょう。

図にはまたニュートリノの床」とも呼ばれる領域が網賭けで示してあります。これは、もしダークマターと陽子の散乱断面積がこの領域にあるほど小さいと、太陽や大気上空で作られたニュートリノが検出器と相互作用することで引き起こされるノイズにより、ダークマターのシグナルが埋もれてしまうということを表しています。ですから、もしダークマターが、直接検出実験の精度がここに達するまでに見つからなかったならば、ダークマターを直接検出することは(不可能ではないにしても)非常に難しくなってしまうでしょう。
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このような実験は、一般に「ダークマターの間接検出」実験と呼ばれており、例としては銀河中心や矮小銀河からくる高エネルギーの光子(ガンマ線)、太陽中心からくる高エネルギーのニュートリノ、銀河系全体を散乱しながら伝わってくる陽電子を捉える実験などが行なわれています。

これらの実験のなかには、もしかしたらウィンプ対消滅のサインかもしれない徴候を捉えたものもありますが、それらは天体現象によって生じた可能性もあり、まだウィンプの確たる証拠は得られていません。