じじぃの「科学・地球_466_量子的世界像・ファインマン図の重要な特徴は何ですか」

Feynman diagrams 2 - annihilation and pair production

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jgQbIjXlY9A

図26

1個の光子のやりとりをともなう電子と電子の散乱。

   

図27

2個の光子のやりとりをともなう電子と電子の散乱。

   

図28

電子と陽電子対消滅をあらわしたファインマン図。

quantum field theory - Electron Positron annihilation Feynman Diagram

Physics Stack Exchange
https://physics.stackexchange.com/questions/17521/electron-positron-annihilation-feynman-diagram

『量子的世界像 101の新知識』

ケネス・フォード/著、青木薫塩原通緒/訳 ブルーバックス 2014年発行

Ⅸ 相互作用 より

ファインマン図の重要な特徴は何ですか

図26と図27には、レプトンクォークの一方、またはその両方が関与するファインマン図――つまり、実験室での観測に直接的にかかわるあらゆる相互作用――に見られる2つの重要な特徴があらわれている。まず第1の特徴は、どの相互作用においても(AでもBでもCでもDでも)、2本のフェルミ粒子の線と1本のボース粒子の線が交わっていることだ。(A、B、C、Dは線のくびれた点を表している)
フェルミ粒子は基本粒子で(これまでの図ではレプトンだが、あとの図ではクォークも出てくる)、ボース粒子は2個のフェルミ粒子をつなぐ力の粒子である。図のなかで、相互作用の起こる点を「交点」という(「頂点」ともいう)。もっと特定していえば、「三叉交点」だ(「三点頂点」ともいう)。ここには驚くべき普遍性がある。この宇宙におけるクォークレプトンの相互作用はすべて、つきつめれば、2個のフェルミ粒子と1個のボース粒子の世界観が出会う三叉交点から生じているのである。今日では、現実はたしかにそうなっていると考えられている。
そして第2の顕著な特徴は、相互作用の交点から先に生き残れるものは何もない、ということだ。それぞれの交点で、粒子は生成されたり消滅したりしている。交点に入ってきた粒子はそこで消滅し、代わって新しい粒子が生成され、交点から出ていく。図26と図27では、交点に入ってきた電子が光子を放出して、そのまま進みつづけたように見えるかもしれない。しかし量子物理学の数学的記述からすると、たとえば交点Aでは、1個の電子が消滅して1個の電子が生成されている。電子はすべて区別できないのだから、それら2個の電子は同じものだと主張することもできない。

かくして理論はもうひとつ、驚きべき普遍性を教えてくれる。この宇宙におけるすべての相互作用は、粒子の生成と消滅をともなっているということだ(これには実験での裏づけもある)。

図26と図27で、粒子の世界線についている矢印は、時間の進む向きを示している。しかし量子論は、もうひとつ、わたしたちを驚かすことを内包している。時間を後ろにさかのぼる運動も粒子の世界では可能なのである。図28のファインマン図で考えてみよう。これは電子と陽電子対消滅して2個の光子を生成するところを図式化したものだ。反応式であらわせば、つぎのようになる。
   
  e- + e+ → 2ν
   
この図では、左側からやってきた電子と右側からやってきた陽電子が互いに近づいている。A点に入ってきた電子はそこで消滅し、1個の光子と1個の電子が生成されている。B点では、新しく生成された電子と陽電子が出会い、対消滅するとともに、もう1個の光子が生成されている。これを考えるとき、まずは線についている矢印を無視して、図の下のほうから定規を水平にゆっくり上にずらしていったところを想像してみよう。この定規の動きは時間の経過をあらわしている。定規は最初のうち、左から動いてくる電子の世界線と、右から動いてくる陽電子世界線にあてられる。粒子の相互作用のあと、定規は図の上のほうに近づき、こんどは相互作用点から飛び去った2個の光子の世界線にあてられる。要するに、前も後も、いま記した反応式に一致している。
だが、この図には別の解釈のしかたもある。1個の電子がA点で光子を1個放出し、そこからB点に向かい、B点から電子が時間を逆方向に進み、図の右下方に向かう――という見方である。3本のフェルミ粒子の線は、途中に2回の折れ曲がりを含んだ1本の線と見なすことができる。図の矢印は、この見方を示している。時間を順行する陽電子と時間を逆行する電子がじつのところは同じであるという考えは、ファインマンプリンストン大学での師であるジョン・ホイーラーが最初に提出したものだ。ホイーラーがこのひらめきを得たときの様子を語っている言葉を、彼の自伝から紹介しよう。
「(1940年か1941年の)ある晩、プリンストンの自宅で座っていたら、突然、陽電子は時間を逆行している電子だと解釈できるという考えが浮かんだ。わたしはそのアイデアに興奮するあまり、リチャード・ファインマンに電話をかけた。当時の彼はわたしが指導していた大学院生で、グラジュエート・カレッジというキャンパス内の寮に暮らしていた。『ディック』とわたしは呼びかけた。『なぜすべての電子とすべての陽電子が同じ質量、同じ電荷量を持っているのかわかったよ。同じ粒子だからだ!』」
ファインマンはその考えを気に入った。時間をどちら向きにも容易に進んでいく粒子の世界観は、ファインマンの名を冠した図のスタンダードな特徴だ。さらに、この見方は物質粒子が相互作用する交点に、もっと単純な定義を与えてもいる。その交点は、1本のフェルミ粒子の線の終点であり、もう1本のフェルミ粒子の線の始点であり、1本のボース粒子の線の始点もしくは終点であるのだ。