じじぃの「科学・地球_479_量子的世界像・ヒッグス粒子とは何ですか」

What is the Higgs boson?「ヒッグス粒子って何?」 ILC lecture Episode 5

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=xM_fkcb9w2g


ヒッグス粒子って何?

HiggsTan
●膨張する宇宙
そしてビッグバンから10^(-10)秒後、宇宙の温度が1000兆度に下がったとき、「相転移」という現象が起こります。この相転移によって宇宙の状態が大きく変わります。この「相転移」ですが、けっして難しい現象ではありません。毎日皆さんの家の台所、おもに冷蔵庫の中やポットの中で起こっていることなのです。

このように温度が下がった相転移後の宇宙では、ヒッグスにまとわりつかれた素粒子は運動しにくくなります。つまり、ヒッグスに絡まれた素粒子は光の速さより遅くしか運動できなくなります。このヒッグスにまとわりつかれやすさ、これが「質量」のはじまりなのです。
https://higgstan.com/what-is-higgs/

『量子的世界像 101の新知識』

ケネス・フォード/著、青木薫塩原通緒/訳 ブルーバックス 2014年発行

XV 量子物理学に残された謎 より

ヒッグス粒子はなぜ重要なのですか

サテイエンドラ・ナート・ボースとエンリコ・フェルミは、粒子の種類に自分の名を残すという特別な名誉を得ている(ボース粒子とフェルミ粒子)が、単独の基本粒子に自分の名をつけられているのは、エディバラ大学物理学名誉教授のピーター・ヒッグスただひとりだ。その粒子は、2012年7月4日(なんとアメリカの独立記念日に)、スイスのジュネーブにあるCERNの研究者たちによって、ついに発見が発表された(スイスでは祝日でもなんでもなかったが)。1960年初頭、素粒子物理学の理論研究者は結束して、もしも自分たちの理論が正しければ、電荷がゼロで、スピンもゼロで、質量もゼロのボース粒子が自然界に存在しているはずだと予測した。そのような粒子は、誰も見たことがなかった。もしそれが存在していて、理論で考えられているようにほかの物質と相互作用しているのであれば、いつまでも検出を逃れていられるはずがなかった。
1964年、この予想されていながら観測されたことのない基本粒子の謎に、ヒッグスが解決法を見いだした。相対論的な素粒子理論(場の理論)の数字のなかに、いわゆる抜け穴を発見したのである。この抜け穴が、現在でいうところの「ヒッグス機構」で、これによるとその粒子は質量がゼロでなくてよく、むしろ質量がかなり(素粒子基準で)大きくなくてはならなかった。こうして「ヒッグス粒子」(または「ヒッグス・ボソン」とも言う)が生まれた。あるいは親しげに「ヒッグス」とだけ呼ばれることもある。最初に想像されていた粒子のように、ヒッグス粒子電荷がゼロ、スピンもゼロのボース粒子だが、質量はゼロどころではない。125GeVもの質量(陽子の質量の130倍以上)を持つ。ヒッグス粒子は、知られているかぎりの全粒子のなかで、トップクォークに次いで2番目に重い粒子である。
すぐに、新しい務めがヒッグス粒子に課せられた。1970年代初頭には、ヒッグス粒子の基礎になっている場がヒッグス粒子そのものの質量だけでなく、多くの素粒子の質量を説明するのではないかという結論が理論研究者たちのあいだで固まっていた。ヒッグス場は空間のいたるところを埋めており、これが一種の粘性のようなものをもたらして、素粒子の運動を妨げ、総粒子に質量を与えているものと考えられている。
もちろん、質量が与えられるしくみはもっと複雑だ。というのも実際に質量を持っている基本粒子のどれを見ても、同じ質量を持っているものは2つとなく、粒子がどれだけの質量を持つべきかを予言している理論はひとつもないのである。だが、少なくともひとつ、とくに奇妙なことだが、ヒッグス粒子で説明できそうなのだ。それは、電磁相互作用を伝える粒子と、弱い相互作用を伝える粒子との、とてつもなく大きい質量差である。項目16(こんなに違う、4つの力が及ぶ範囲)でも述べたように、このまったく強さの異なる2つの相互作用は理論的に統一されて、電磁相互作用となったが、電磁力を伝える光子は質量がゼロで、弱い力を伝えるW粒子とZ粒子はとても大きな質量を持っている。理論家は、ヒッグス場がW粒子とZ粒子に質量を与えるための「粘性」を生んでいるだけでなく、これらの粒子と質量のない光子をひとまとめにするための「セメント」にもなっているのではないかと考えている。

加速器のなかで生まれたヒッグス粒子は、その後どうなるのだろうか。おそらく10-23秒にも満たないであろう一生のあいだに、小さな分子の直径ほどの距離だけ移動して、あとは崩壊し、別の粒子になる。崩壊のしかたはいろいろあるが、たとえば1個のヒッグス粒子は、ボトムクォーク1個と反ボトムクォーク1個に崩壊する。それらの粒子がまた別の粒子に崩壊し、その繰り返しのすえに、光子と電子などの最終生成物が十分な距離を飛んでいって、検出器に検出される。ヒッグス粒子を発見したCERNの2つのチームは、それぞれ大きな検出器を使った。そのひとつが前にも紹介したアトラスだ(項目79 どうやって高エネルギーを検出するのですかを参照)。最終生成物を生むにいたった数々の崩壊をさかのぼり、最初の粒子の質量をつきとめるのが彼らの仕事だが、そのたいへんさは気が遠くなるほどである。それはミシシッピ川下流の水の一滴が、ロッキー山脈のどの水源から発したのかをつきとめるようなものかもしれない。