じじぃの「科学・地球_540_なぜ宇宙は存在するのか・反物質と物質」

美しきサイエンス。スーパーカミオカンデのタンク内を満たす5トンの水と、11,000本の光電子増倍管


反物質はどこへ…? 日本の実験が示した重要な道しるべ

2020.04.22 GIZMODE
●宇宙の成分表
わたしたちの身の回りにあるモノはすべて物質でできており、クォークレプトンと呼ばれる素粒子で構成されています。そして、それらの素粒子には電荷の正負が逆である以外はまったく同じ性質を持つ反粒子が存在している…はず。
ところが、宇宙が始まった時には素粒子反粒子も同じ数だけ作られたはずなのに、現在の宇宙は粒子だらけ、物質だらけです。
もしいま、反粒子が粒子と同じぐらい存在していたら、そしてもしどちらもまったく同じ性質を持ち、まったく同じように物理の法則に従っているとしたら、反粒子と粒子が合わさったとたんに光子となって消滅してしまうため、それはそれでたいへんなことになってしまうのですが。
https://www.gizmodo.jp/2020/04/tokai-to-kamioka-experiment-dark-matter-lepton-symmetry-violation.html

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

                  • -

『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」 より

ダークマター反物質

ここまで述べてきたようにして宇宙の「熱史」が遡れるのは、一体いつまでなのでしょうか。
多くの科学者は、温度にして1021度以上、年齢にして10-25秒以前くらいのごく初期の状態まで遡れるのではないかと考えています。なぜなら超初期の宇宙ではほぼ確実に起きたであろう2つのことがあり、そのことを説明するためには、これくらいの超高温の状態を考えないとうまく説明がつかないからです。

2つのこととは何でしょうか?
1つは、現存するダークマターの量が、この時期の歴史で決まったであろうということです。ダークマターの正体はまだわかっていませんが、現在までに提案されている理論のほぼ全てにおいて、ダークマターの量は宇宙年齢にして10-12秒かそれ以前のでき事によって決定されたと考えられています。それ以外の可能性も完全には排除できないのですが、前章で述べた宇宙誕生0.1秒後以降の歴史に観測と矛盾する影響を与えることなしにそのような考えを実現するのは、理論的にはかなり困難です。

もう1つは、私たちの知る通常の物質に関してです。実は世の中に存在する全ての物質には、全く反対の性質を持つ「反物質」と呼ばれるものが存在します。
より正確には、もしある粒子が世の中に存在したとすれば、反粒子(質量が同じでその他全ての性質、たとえば電荷が正反対な粒子)も存在しなければなりません。具体的には、電荷マイナス1を持つ電子に対しては、質量が全く同じ(約9.109x10-31kg)で電荷プラス1を持つ「反電子」(通常、陽電子と呼ばれる)が存在し、同様に陽子、中性子反粒子も存在します。

反粒子に関しては、最初に理論的に予言したポール・ディラック(1933年にノーベル賞受賞)、陽電子を実際に発見したカール・アンダーソン(1936年にノーベル賞受賞)、最初に反陽子を実験的に見つけたエミリオ・セグレとオーウェンチェンバレン(1959年のノーベル賞受賞)という歴史があります。

なぜこの世界は物質が優勢なのか

現在では、反粒子は先にも述べた場の量子論の一般的な帰結であることがわかっています。これはつまり、世の中に存在する(ダークマターも含む)全ての物質に、対応する反物質が存在しなければならないことを意味します。なお、光の粒子である光子のように、電荷等の性質を持たない粒子に関しては、反粒子が元の粒子そのものである可能性があります。実際に光子の場合、反粒子は光子自身です。

反物質は「マイナス」の物質のようなものなので、反物質が対応する物質と出会うと、対消滅(ついしょうめつ)という現象を起こしてともに消え去ってしまいます。消え去るときに元の物質と反物質は、その質量に対してアインシュタインの式 E=mc2 で与えられる量の、大量のエネルギーに変換されます。

この反応で解放されるエネルギーは莫大で、約200gの物質と反物質対消滅で生じるエネルギーは平均的原子力発電所の1基あたりの年間全発電量に相当します。逆に、空間のある領域に大きなエネルギーを集中させれば、そこから物質と反物質をペアで生み出す、対生成という現象を起こすことができます。

対称的な性質を持っていると思われる物質と反物質ですか、ここで疑問が生じます。
宇宙には主に物質ばかりが存在し、反物質はほとんどないように見えます。少なくとも私たちが知る通常の粒子に関しては、そのように見えます。しかし、もし宇宙初期に物質と反物質が同じ量で存在したとしたら、そこからいくら対消滅や対生成を繰り返したところで物質と反物質の量は同じままなはずです。後にも解説しますが、実際に宇宙超初期の物質と反物質の量は、少なくとも実際上同じであったと考えられます。

ということは、宇宙の進化の過程で、私たちが見ている現在の物質優勢の世界が形作られたと考えるべきなのですが、どのような過程を経て、このような「非対称」な世界となったのでしょうか。つまり、物質と反物質の量の違いを生み出すメカニズムとはどのようなものなのでしょうか。これに関する研究はよくされており、いくつもの具体的なメカニズムが考えられています。そしてそのほぼ全てで、宇宙初期が非常に高温であったことを必要としているのです。

これらの考察から多くの科学者は、宇宙は現在観測的に確定している約3x1010度よりもはるかに高温の時期を経てきたのだろうと考えています。この章の残りでは、この超初期の宇宙で起こったであろうダークマターの量の確定、および物質・反物質の量の非対称性の生成のメカニズムについて、現在有力な候補のいくつかを紹介していこうと思います。