【野村泰紀にきいた】宇宙はたくさん存在するのか
Lagrangian of the Standard Model of particle physics
Standard Model formula postcard
This formula is the mathematical representation of the Standard Model of particle physics, the theory that describes the elementary particles and the forces that bind them together.
The first line describes the forces: electricity, magnetism, the strong nuclear force and the weak nuclear force. The second line shows how these forces act on the elementary particles of matter. The last two lines describe the Higgs boson and the mechanism by which particles acquire their mass.
https://visit.cern/node/612
なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論
【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか より
5-3 素粒子、その不思議な構造
シンプルな数式に帰着される凄さ
第1章で触れた素粒子の標準模型は、私たちが直接、つまり重力以外の力を通して観測できる現象を極めてよく記述します。そこでも述べたように、この模型の内容は全て図1-4(画像参照)に描かれた粒子に関しての図1-5(画像参照)に書かれた数行の式に帰着します。
これは驚きの事実で、20世紀の素粒子物理学の輝かしい勝利とも呼べるものです。このシンプルな構造に重力を加えた枠組みが、素粒子物理学から、原子核物理学、物性物理学、化学、生物学、天体物理学にいたるまでの全ての現象を(原理的に)説明するという事実に、その凄さが感じられます。
・
これらの知見は、素粒子の標準模型として1960年代から1970年代にかけて1つの枠組みに収斂されました。そしてこの標準模型は、それまでに理論物理学者を悩ませていた素粒子物理学の様々な問題を、新たな仮説を導入することなく全て説明できることがわかったのです。
標準模型の階層と疑問
しかし、もし標準模型が究極の法則、もしくは究極の理論から必然的に得られる法則であるとすると、いくつもの不思議な点が存在します。
図1-4を参照していただきたいのですが、この模型には、3種類の力を媒介する粒子が存在します。電磁気力に対する光子γ、弱い力に対するウィークボゾンWとZ、強い力に対するグルーオンgです。これらの力の強さは大きく異なります。なぜこのような構造になっているのでしょうか?
また、私たちのまわりの物質を構成するクォークとレプトンはなぜか階層構造を成しています。
いちばん軽い第階層は、アップ(u)、ダウン(d)と呼ばれるクォーク、電子(e)、および3種類あるニュートリノの中の1つである電子ニュートリノ(νe)から成っています。これら4つの粒子の電荷はそれぞれプラス2/3、マイナス1/3、マイナス1、0です。
第2階層はチャーム・クォーク(c)、ストレンジ・クォーク(s)、ミュー粒子(μ)、およびミューニュートリノ(νμ)からなり、それらの電荷も同じようにプラス2/3、マイナス1/3、マイナス1、0です。
そしてさらにその上に同様の電荷プラス2/3、マイナス1/3、マイナス1、0を持つトップ・クォーク(t)、ボトムクォーク(b)、タウ粒子(τ)、タウニュートリノ(ντ)が第3の階層として存在します。
また第4階層は存在しないことが、実験的に明らかになっています。
これら各階層の構造は、含まれる粒子の質量が順に重くなっていくことを除けば完全に同じす。この不思議な繰り返しは一体何なのでしょうか? この「3」という数字には、何か特別な意味でもあるのでしょうか?
それに加えてヒッグス粒子(H)です。この粒子は、標準模型が私たちの知っている性質を持つために不可欠なものですが、その存在は明らかに他から「浮いて」います。なぜ、こんなものが存在するのでしょうか?
さらに、これらの構造に関する疑問に加えて、標準模型には理論自体では決めることのできないパラメータが数多く存在します。パラメータの数は数え方等にっもよりますが20~30ほどであり、その多くは模型に存在する粒子の質量に関するものです。
6つのクォークの質量(軽い順にu、d、s、c、b、t)はGeVの単位で、およそ0.002、0.005、0.094、1.67、4.78、173(GeVに関しては、第3章を参照)という値であることが、実際にわかっています。同様に電荷マイナス1を持つ3つのレプトンの質量(軽い順にe、μ、τ)は0.00054858、0.10566、1.7769です。また、ニュートリノの質量はなぜか3つとも無視できるほど小さいのです。
また、標準模型では同じ電荷を持つクォーク、レプトン同士(たとえばu、c、t)はお互いに「混ざる」こともできますが、この混ざり方を規定する混合角と呼ばれるパラメータは、理論から決めることはできません。実験でその値がわかっているだけです。
疑問を解く「統一」という鍵
これらの事実は、一体なにを意味するのでしょうか?
もし標準模型が自然界の唯一無二の理論ならば、その構造やパラメータの値には何か「根源的な」理由があると考えるのが自然です。たとえば、理論を突き詰めていった結果、数学的な整合性から自然界の法則は標準模型でなければならず、そのパラメータの値も私たちが実験で知った値でなければならないということがわかったとしたら、それは人間が真に自然を理解したことになるでしょう。
20世紀後半の素粒子物理学は、この大きな目標に向かって努力を続けてきました。その理念の1つとなったのが「統一」です。
基本的な考えは、全く関係ないと思われた3つの力が実は統一的な形式に基づいており、それを理解することによって様々な素粒子物理学の問題が解けたように、標準模型を構成する様々な要素(たとえばクォークとレプトン)さらに統一する理論を構築すれば、標準模型の構造やパラメータの値の起源がわかるのではないかというものです。
実際、この試みは部分的には成功しました。たとえば、3つの力を完全に1つに統一する大統一理論と呼ばれる理論が考案され、この理論は3つの力の強さがなぜ違っているのかをうまく説明することに成功しました(しかしこの理論は、まだ実験的に確かめられてはいません)。また、クォークやレプトンの質量がなぜこんなにも違っているのかを説明する理論も色々と考えられています。しかし懸命の努力にもかかわらず、全てのパラメータの詳細な値を説明できる理論はまだ見つかっていません。