じじぃの「科学・地球_539_なぜ宇宙は存在するのか・初期の宇宙とは」

【知って楽しむ科学】4つの力①~もとは1つだったというこの世界の4つの力ってどんな力?~

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=IrSbDjr8T2Q

相互作用の起源

4つの相互作用は宇宙誕生から時間とともに分岐し、できたと考えられている。

基本相互作用 ‐ 通信用語の基礎知識

宇宙に存在する、4つの基本的な相互作用のこと。物理学において、素粒子間に相互に働く。
宇宙には4つの相互作用があり、物質や天体の運動を支配している。

強い相互作用原子核で陽子と中性子を結びつける核力
・電磁相互作用 ‐ 原子核と電子を引き合わせる電磁気力
弱い相互作用素粒子を別の素粒子に変化させる相互作用
・重力相互作用 ‐ 天体同士が引き合う重力、つまり万有引力
これらの相互作用は、ゲージ粒子の交換により発生すると考えられている。
https://www.wdic.org/w/SCI/%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9B%B8%E4%BA%92%E4%BD%9C%E7%94%A8

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」

第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」 より

なぜごく初期の宇宙がわかるのか

私たちが持つ宇宙の歴史に関する観測データのなかで、ビッグバン原子核合成以前のものは、それ以降と比べると確実なものは少なくなります。しかしこの時期に何が起こったのかに関しても、現在私たちの知る物理法則を使って時間を遡ることにより、その大枠を知ることができるのです。

それによると、温度が約1兆度以上であった時代、年齢にすると1マイクロ秒(10-6秒)以前の宇宙には陽子、中性子はまだ存在していませんでした。また、湯川秀樹により最初に導入された、核力(原子核内で陽子や中性子を結合させる力)を媒介するパイ中間子などもまだ存在していませんでした。存在していたのは、それらの構成要素であるクォークや、電子などのレプトン、光子などです。クォークは、約1兆度以下の温度では陽子、中性子などの内部に「閉じ込められて」おり単体で取り出すことはできないのですが、それより高温の世界では通常の粒子として自由に振る舞っていたのです。

さらに時を遡って10-6秒よりもっと以前の、年齢にすると10-12秒ほど、温度が数百兆度程度の頃の宇宙では、よりドラマチックなでき事が起こったと考えられます。

現在物質間に働く基本的な力として私たちが知っているものは4つあります。

電磁気力、重力、それに弱い力、強い力と呼ばれるものです(弱い力、強い力は、それぞれ弱い相互作用強い相互作用と呼ばれることもあります)。
ちなみに摩擦力や原子・分子間に働くファンデルワールス力、原子核内の核力などは、これらの基本的力から派生した二次的な力にすぎません。弱い力はβ崩壊と呼ばれる原子核反応に関する力であり、強い力はクォークの閉じ込めに関係する力です。

これらの4つの力は、その強さから到達距離、それが働く素粒子の種類に至るまで全く違う性質をもっているのですが、宇宙の年齢が約10-12秒以前にはこれらのうち電磁気力と弱い力は電弱相互作用として「統一」された状態にあったと考えられるのです(図3-1、画像参照)。

そして、この電弱相互作用が支配する宇宙では、クォークレプトンの質量はゼロでなければならなかったことが理論的に示されています。つまり、宇宙が超初期の状態から膨脹して冷える過程で年齢が10-12秒ほどの頃に電磁気力と弱い力は私たちが知るように全く異なる力として分かれ、電子を含む素粒子クォークレプトン)は初めて質量を持ったのです。

この驚くべき構造の変化は、ヒッグス場と呼ばれる空間に満ちている「もの」が凝縮することによって起こったことがわかっています。ここで場に関して少し触れると、20世紀の素粒子物理学で新しく得られた知見の最も大きなことの1つに、「私たちが真空と呼んでいる状態でも様々な場と呼ばれるものが存在している」というものがあります。
この場の力学を記述する理論「場の量子論」は、現代物理学を学ぶ大学院にとって必修ともいえる分野になっています。場に関しては、また後にお話しすることになるでしょう。

素粒子物理学という強力な道具

ここまで述べてきたように、ごく初期の宇宙について私たちが知ることができるのは、素粒子物理学による計算で、超高温、高エネルギーの状態で何が起こるかがわかるからです。ここで使われる素粒子物理学標準模型と呼ばれる理論は、20世紀半ばから後半にかけて構築され、実験でも繰り返し確かめられてきました。

標準模型の重要な部分を成す電弱統一の理論は、シェルドン・グラショウ、スティーブン・ワインバーグ、アブドゥス・サラムらにより、1960年代に完成されました。3人はこの業績により、1979年にノーベル物理学賞を受賞しています。

また電弱統一理論の重要な構成要素となるヒッグス粒子の理論は、1964年にロベール・ブロウト、フランソワ・アングレール、ピーター・ヒッグスらにより提唱されました。その理論もさまざまな点で実験結果との一致が見られ、確かなものであると認識されていましたが、それが決定的になったのは2012年のことです。LHCというヨーロッパにある大型加速器を使った観測により、理論の決定的な帰結であるヒッグス粒子が発見されたことで、最終的な確認ができたのです。そして、このことで2013年のノーベル物理学賞を、そのとき亡くなっていたブロウトを除く、アングレールとヒッグスの2人が受賞しました。

理論と実験の整合性は理論値と実験値とどれだけ一致するかの程度で測ることができますが、電弱統一理論の場合、その一致の精度は数千分の1を超えます。電磁気力の部分に至っては最高10桁以上一致しています。これがいかに脅威的なことかを感じるため、世の中に完全な円というものがあったとして、その円周と直径お測定したことを考えてみてください。測定した円周と直径の比が、円周率の理論値3. 1415926535……と10桁以上の精度で一致するのを確認するのが、いかに困難なことかが想像できるでしょう。

このように、宇宙のごく初期を探索するためには素粒子物理学が強力な道具となります。これは一見すると不思議なことです。素粒子物理学とは極微の世界を研究する分野です。それがどうして宇宙の解明に不可欠なのでしょうか?

もうおわかりの読者もいるかもしれませんが、大事な点なのではっきり述べておこうと思います。大雑把に言って、より小さいスケールで起こることを調べるには対象をより粉々にしなければならないので、より大きなエネルギーが必要です。実際、量子力学を用いると距離というのはある意味でエネルギーの逆数と「等価」であることが示されます。これが、素粒子物理学の研究において、大きな衝突エネルギーを生み出すことのできる巨大加速器が必要な理由です。素粒子物理学とは、高エネルギーの状態で何が起こるかを調べる学問なのです。