じじぃの「科学・芸術_868_数学的な宇宙・暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」

Dark Energy - 60 Second Adventures in Astronomy (9/14)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7Yc2iVxF_Ek

暗黒エネルギー

ウィキペディアWikipedia) より
ダークエネルギー(暗黒エネルギー、英: dark energy)とは、現代宇宙論および天文学において、宇宙全体に浸透し、宇宙の拡張を加速していると考えられる仮説上のエネルギーである。
2013年までに発表されたプランクの観測結果からは、宇宙の質量とエネルギーに占める割合は、原子等の通常の物質が4.9%、暗黒物質(ダークマター)が26.8%、ダークエネルギーが68.3%と算定されている。
宇宙定数は、1917年にアルベルト・アインシュタインによって、静的な宇宙を表すような重力場の方程式の定常解を得るための方法として最初に提案された。このとき、実質的にダークエネルギーにあたるエネルギーを重力と釣り合わせるために用いた。
しかし後に、アインシュタインの静的宇宙は、局所的な非一様性が存在すると最後には宇宙スケールで膨張または収縮が加速的に起こるため、実際には不安定であることが明らかになった。宇宙の平衡状態は不安定であり、もし宇宙がわずかに膨張すると、膨張は真空のエネルギーを放出し、これはさらなる膨張を引き起こす。同様に、わずかに収縮する宇宙は収縮を続ける。このような種類の擾乱は、宇宙に広がる物質の非一様な分布のために不可避である。また、より重要な点として、エドウィン・ハッブルの観測によって、宇宙は膨張しており、静的ではありえないことが明らかになった。この発見の後、宇宙定数は歴史上の奇妙な存在としてほぼ無視されることとなった。アインシュタインは静的宇宙とは対照的な動的宇宙のアイデアを予測できなかったことは人生最大の失敗だったと言及したことは有名である。

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『数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて』

マックス・テグマーク/著、谷本真幸/訳 講談社 2016年発行

数値で見た私たちの宇宙 より

私が初めて宇宙論に触れたのは大学院へ入学した1990年のことだった。その頃すでに、膨脹宇宙と構造形成に関するこの基礎的描像は完成してから数十年がたっていたが、詳細はできていなかった。当時、宇宙の現在の膨張速度さえ長年の論争テーマで、それに連動して、宇宙年齢は100億年か200億年か、ということが議論されていた。もっと難しい問題である過去の膨張速度については、まったく分かっていなかった。構造形式については、土台がさらに脆弱だった。というのも、理論と観測をもっと高精度で一致させようとした結果、なんと、私たちの宇宙はその95パーセントが何からできてきるのかまったく分からない、ということが分かってきたのだ。そのうえ、ビッグバンから40万年後の自転で宇宙にわずか0.002パーセントの密度ゆらぎしかなかったことがCOBE(コービー 観測衛星)実験から分かると、そんな小さなゆらぎから重力によって今日の大規模構造が作り出されるには、何らかの見えない物質が存在し、それが重力を強めたのでないかぎり、時間不足だった、ということさえ明確になってきたのだ。
この謎の見えない物質は「暗黒物質」として知られている。この名称は単に、私たちがそれについて何も知らない、ということを言っているだけで、それ以上の意味はない。実際、「見えない物質」のほうが、まだ適切だ。この物質は黒いのではなく透明で、気づかれることなく、あなたの手をスッと通り抜けることができるような物質だからだ。手だけでなく、地球さえ、ほとんどの場合、何事もなかったかのようにすり抜けていく。しかしそんな奇妙な物質もまだ序の口とばかり、第2の謎の存在、「暗黒エネルギー」が導入される。膨張速度と構造形成に関する観測事実を説明するために、これが必要になるのだ。暗黒エネルギーは宇宙の膨張速度に影響を及ぼすが、暗黒物質のように互いに寄り集まることはなく、時間がたっても完全に均一に分布する。
暗黒物質と暗黒エネルギーには、どちらも論争に満ちた長い歴史があった。暗黒エネルギーのいちばん単純な候補は、アインシュタインが自身の重力方程式につけ加え、後に人生最大の失敗と悔やんだ、あの宇宙定数だ。一方、暗黒物質は、フリッツ・ツビッキーによって1934年に、銀河団がバラバラにならないために必要な追加の重力源として初めて提唱される。1960年代にもベラ・ルービンが、渦巻き銀河は余分な重力を及ぼす見えない物質が含まれていない限り、回転が速すぎてバラバラになってしまうはずだ、ということを発見している。しかし、これらの考えには懐疑的な声が多かった。説明できない現象があったとき、それを私たちが見ることも感じることもできない存在のせいにしていいのだろうか。

暗黒エネルギー

これは宇宙の物質の内訳が非常に興味深い状況にあることを教える。というのも、背景放射パワースペクトルの第1頂点から宇宙エネルギー密度が明らかになったわけだが、一方で、ふつうの物質の密度も分かっているし、(構造形成に必要な重力の測定から)暗黒物質の密度も分かっている。しかしふつうの物質と暗黒物質を合わせても、宇宙に含まれる全エネルギーの約30パーセントしか説明できないのだ(図.画像参照)。これが意味するのは、約70パーセントは、普通の物質でも暗黒物質でもない物質――寄り集まって構造を作ることのない物質――が占めているということだ。これがいわゆる「暗黒エネルギー」である。
いま言及したことに関して非常に印象深いのは、これまで言及していなかった「超新星」に関する観測事実だ。この観測事実を使うと、宇宙の中味の70パーセントが暗黒エネルギーであることがクラスタリングではなく宇宙膨脹に基づいて、まったく独立に示唆されるのだ。以下ではこのことについて説明しよう。
以前、セファイド型変光星が標準光源として使えることを説明した。セファイド型変光星は脈動周期から絶対光度が分かるので、あとは見かけの光度を測定すれば距離を知ることができるのだった。実は現在では、これとは別の標準光源も知られている、セファイド型変光星よりずっと明るく、数百万光年どころか数十億光年離れていても観測できる。Ia型超新星と呼ばれるものだ。これは宇宙の巨大な爆発現象で、これが起こると数秒間に太陽の10京(けい)倍を超えるエネルギーが放出される。
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もちろん爆発の威力は完全に同じというわけではない。しかしその小さなばらつきについても、「爆発(超新星)のスペクトル」と「明るさの変化の速度(明るくなってから暗くなるまでの時間)」という2つの観測可能な要素を用いて補正できることが分かり、天文学者は、Ia型超新星を正確な標準光源として使えるようになったのだ。
ソール・パールマッター、アダム・リース、ブライアン・シュミット、ロバート・カーシュナーらは、この方法を用い、多数のIa型超新星について距離を正確に測定した。同時に、赤方偏移に基づいて後退速度も測定した。そしてそれらに基づいて、私たちの宇宙が様々な時点でどれだけの速さで膨脹していたかを、それまでで最も正確に描き出した。そして1998年、2011年にノーベル物理学賞を受賞することになる驚くべき発見を発表する。

私たちの宇宙は最初の70億年間は膨張が減速していたが、その後加速に転じ、以来ずっと加速し続けているというのだ。

地上で石を上に投げれば、石は重力に引っ張られ、高く上がるほど減速する。それと同じように、重力は通常、宇宙膨脹を減速させる。だから宇宙が加速膨脹しているというのは、引力ではなく反発力として働くような奇妙な重力的効果があることを意味している。次章で見るようにアインシュタイン一般相対性理論は、暗黒エネルギーがまさにこの反重力効果を持つことを教えている。そして超新星の観測チームは、暗黒エネルギーが宇宙の全エネルギーの70パーセントを占めると仮定すれば、自分たちの観測結果が見事に説明されることを示したのだった。