じじぃの「科学・芸術_867_数学的な宇宙・暗黒物質(ダークマター)」

The LHC, dark matter and extra dimensions.

https://www.youtube.com/watch?v=qXWWgZ-nnEs

暗黒物質

ウィキペディアWikipedia) より
暗黒物質(英: dark matter ダークマター)とは、天文学的現象を説明するために考えだされた「質量は持つが、光学的に直接観測できない」とされる、仮説上の物質である。
"銀河系内に遍く存在する"、"物質とはほとんど相互作用しない"などといった想定がされており、間接的にその存在を示唆する観測事実は増えているものの、その正体は未だ不明である。
1934年にフリッツ・ツビッキーは銀河団中の銀河の軌道速度における"欠損質量" (missing mass ミッシングマス) を説明するために仮定した。彼は、ビリアル定理をかみのけ座銀河団に適用し、未観測の質量の証拠を得た(と考えた)。ツビッキーは、銀河団の全質量をその周縁の銀河の運動に基づいて推定し、その結果を銀河の数および銀河団の全輝度に基づいて推定されたものと比較した。そして、彼は光学的に観測できるよりも400倍もの推定される質量が存在する、と判断した。銀河団中の可視的な銀河の重力はそのように高速な軌道に対して小さすぎるので、何らかの外部要因が必要であった。これは「質量欠損問題 (missing mass problem)」として知られている。これらの結論に基づき、ツビッキーは銀河団を互いに引き寄せる十分な質量や重力を及ぼす目に見えない物質が存在するはずであると推測した。
2013年3月、欧州宇宙機関プランクの観測結果に基づいて、ダークマターは26.8%、ダークエネルギーは68.3%、原子は4.9%と発表した。

                        • -

『数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて』

マックス・テグマーク/著、谷本真幸/訳 講談社 2016年発行

数値で見た私たちの宇宙 より

前章で見たように、私たちの宇宙の究極の起源はまだ分かっていない。特に、ビッグバン元素合成の時代――私たちの宇宙が巨大な核融合で、サイズが1秒足らずの間に倍になるほど爆発的に膨張した時代――より以前に、何が起きていたかは明らかになっていない。しかし逆に、その時代以降の140億年間については、多くのことが分かっている。「膨張」と「クラスタリング(物質が寄り集まって構造ができること)」だ。これら2つの基本過程はいずれも重力によってコントロールされる。そしてこれらの基本過程を通して、熱いなめらかなクォークのスープが今日見るような星のきらめく宇宙に変化した。前章で説明した早送りの宇宙史では、宇宙が膨張することで素粒子の密度と温度が低下し、そのおかげで素粒子がだんだん大きな構造に寄り集まること、すなわち、原子核、原子、分子、星、銀河といった構造ができることを見た。
自然界には4つの基本的な力があることが分かっているが、そのうち3つが、このクラスタリング過程で順番に役割を果たした。最初に登場するのは強い核力で、これが原子核をまとめた。次に電磁気力によって原子と分子が作られ、最後に重力によって、私たちの夜空を彩る大規模構造ができた。
では、重力によって大規模構造がつくられる仕組みは、正確にはどのようなものだろう? 自転車に乗っていて赤信号で止まると、重力のために状態がすぐ不安定になることに気づくだろう。実際、自転車は左右のどちらかに傾き始め、転倒を防ぐために足を着かなければならないはずだ。実は、重力による「不安定化」の本質は、小さなゆらぎが増幅されることにある。実際、停止させた自転車の例では、平衡からのずれが大きいほど重力によって強く側方に引っ張られる。宇宙の例では、完全に均一な状態から大きくずれるほど、密度の濃淡が重力によって強く増幅される。つまり、周囲より少しでも高密度な領域があると、その重力が周囲の物質を引き寄せ、さらに高密度になり、するとその領域の重力はもっと強くなり、その領域の質量はいっそう速く増加するのである。たくさん金を持っている者のほうが容易に金を増やせるように、大きな質量ほど容易に質量を増やせるのだ。こうして小さな密度ゆらぎが増幅され、銀河などの巨大な高密度の塊になるまでには、つまり、構造のない退屈な宇宙が豊かな構造を持つ興味深い宇宙へと変化するためには、140億年という時間は十分だったのである。
私が初めて宇宙論に触れたのは大学院へ入学した1990年のことだった。その頃すでに、膨脹宇宙と構造形成に関するこの基礎的描像は完成してから数十年がたっていたが、詳細はできていなかった。当時、宇宙の現在の膨張速度さえ長年の論争テーマで、それに連動して、宇宙年齢は100億年か200億年か、ということが議論されていた。もっと難しい問題である過去の膨張速度については、まったく分かっていなかった。構造形式については、土台がさらに脆弱だった。というのも、理論と観測をもっと高精度で一致させようとした結果、なんと、私たちの宇宙はその95パーセントが何からできてきるのかまったく分からない、ということが分かってきたのだ。そのうえ、ビッグバンから40万年後の自転で宇宙にわずか0.002パーセントの密度ゆらぎしかなかったことがCOBE(コービー 観測衛星)実験から分かると、そんな小さなゆらぎから重力によって今日の大規模構造が作り出されるには、何らかの見えない物質が存在し、それが重力を強めたのでないかぎり、時間不足だった、ということさえ明確になってきたのだ。
この謎の見えない物質は「暗黒物質」として知られている。この名称は単に、私たちがそれについて何も知らない、ということを言っているだけで、それ以上の意味はない。実際、「見えない物質」のほうが、まだ適切だ。この物質は黒いのではなく透明で、気づかれることなく、あなたの手をスッと通り抜けることができるような物質だからだ。手だけでなく、地球さえ、ほとんどの場合、何事もなかったかのようにすり抜けていく。