じじぃの「科学・地球_193_宇宙の終わりとは・ビッグバウンス・特異点」

Cyclic/Ekpyrotic Universe

What If the Big Bang Was Actually a Big Bounce?

wired.com
New computer simulations model an alternate way of thinking about the cosmos: as a cyclic universe that has no beginning or end.
https://www.wired.com/story/what-if-the-big-bang-was-actually-a-big-bounce/

特異点定理

天文学辞典 より
一般相対性理論では重力崩壊や宇宙初期における超高密度の極限状態で、時空の曲率が無限に大きくなる状況が出現する。この状況を特異点、あるいは空間的に点とは限らずリング状の場合もあるので特異領域とも呼ばれる。
どのような状況で特異点が出現するかを証明したのが特異点定理である。1965年ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)によって、重力崩壊がある程度以上進行し、また物質のエネルギー密度と圧力が適当な条件を満たせば、ブラックホールの内部で必ず特異点が存在することが証明された。その後、スティーブン・ホーキング(Stephen Hawking)とペンローズがやはり物質が適当なエネルギー条件を満たす限りビッグバン宇宙論で初期特異点が存在することを証明した。
特異点定理において、特異点は時空の中に存在するのではなく、時空の果てとして表現される。また特異点の形状やそれがどこにできるかを指定するものでもない。
現在の物理学では特異点を扱える理論がないため物理法則が破綻する。

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宇宙の終わりに何が起こるのか

ケイティ・マック (著)
この宇宙は必ず終わる。―いつ、どうやって!?「万物が究極的に破壊される」瞬間を描く5つのシナリオ。19ヵ国で翻訳!話題の最新宇宙論に待望の邦訳登場!
第1章 宇宙について大まかに
第2章 ビッグバンから現在まで
第3章 ビッグクランチ―終末シナリオその1 急激な収縮を起こし、つぶれて終わる
第4章 熱的死―終末シナリオその2 膨張の末に、あらゆる活動が停止する
第5章 ビッグリップ―終末シナリオその3 ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる
第6章 真空崩壊―終末シナリオその4 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死
第7章 ビッグバウンス―終末シナリオその5 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す
第8 未来の未来
第9章 エピローグ

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『宇宙の終わりに何が起こるのか』

ケイティ・マック/著、吉田三知世/訳 講談社 2021年発行

第7章 ビッグバウンス―終末シナリオその5 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す より

「創造と破壊」を繰り返す宇宙

「エキピロティック」という言葉は、「大火」を意味するギリシャ語に由来し、「宇宙の誕生も最終的な死も火に包まれている」という、このシナリオの特徴を反映している。標準的な、エキピロティックでないシナリオでは、「宇宙のインフレーション」の時代があるが、これについては第2章で論じたとおりだ。
ちなみに、先の「最初期形の理論から大きく修正されたが、それでも有用なもの」というのは、インフレーションもその一例になっている。インフレーションの初期形は結局、完全な間違いだったものの、やはり天才的発想だったと広く考えられている。それはまったく機能せず、1年も経たないうちに、他の物理学者たちによって徹底的に修正された。創始者たちは、のちに最終的にビッグバン理論を成功させるために必要だったさまざまな独創的な方法が、火災時の大旋風のように湧き上がる状況をもたらす一連の解を提案したという点において、まさに正しいことをおこなったのだ。
修正版は、「新しいインフレーション」とよばれることもあり、今日論じられるインフレーションの基盤となった。
そのインフレーションは宇宙誕生後、最初の一瞬のうちに、宇宙を劇的に膨張させるが、その後、この膨張を起こしたもの(粒子やそれに付随する場には「トン」で終わる名前をつけるのが好まれているため、「インフラトン場」とよぶ)が崩壊することによって、大量のエネルギーが宇宙の中に放出され、ホットビッグバンの「高温(ホット)」相が出現した。
一方、エキピロティック宇宙モデルの最初期形では、初期宇宙が高温状態になったのは、隣り合う2つの3次元プレーンが華々しく衝突した結果だとする。この2つのブレーンの一方が、のちに私たちの宇宙全体になるものを含んでいたと主張するのだ。
衝突後、2つのブレーンはふたたび離れて別々の方向へ進み、膨張しながら、バルクの中をゆっくりと遠ざかっていく。だが、両者はまた戻ってくる。エキピロティック宇宙モデルは、宇宙の創造と破壊が何度も繰り返されるサイクリックな宇宙論なのだ。

新しいモデル

私たちが余剰次元を発見するしないにもかかわらず、サイクリック宇宙という考え方は、インフレーションに取って代わりうるものとして、魅力的でありつづけるだろう。
その理由の1つは、宇宙の無秩序が上昇の一途をたどり、やがて熱的死にいたるというエントロピーの問題だ。観測可能な宇宙可能な宇宙の中のエントロピーの量を計算し、宇宙の歴史を振り返って、エントロピーがこれまで一定のペースで上昇していたなら、初期宇宙においてはどのような値だったかを特定することができる。
その結果、この宇宙の歴史が始まったときには、宇宙はショッキングなほど低エントロピーの──高度に秩序ある──状態だったに違いないことが明らかになった。これは、多くの宇宙論研究者にとって、ひどく嫌な描像だ。

宇宙の初めに、いったいどうすれば、エントロピーがそんなに低くなれたのだ? まだ誰も入ったことがないと確実にわかっているはずの部屋に入ったら、底に何列ものドミノが、たったいま倒されたかのように、折り重なって横たわっているのが見つかったようなものだ。そもそもどうやって、そこまで注意深く並べられたのだろう?

ある種のサイクリックおよびバウンス理論には、大きなおまけがついてくる。それらのモデルは、宇宙の最初のエントロピーをバウンスの前に起こった何かのせいにする機会を提供してくれるのだ。ポール・スタインハートとアナ・アイジャスが共同で構築した、エキピロティック宇宙モデルの最新版では、ごく大雑把に紹介すると、現在の観測可能な宇宙の元となったのはバウンスする前の宇宙の、ほんの小さな部分であり、その小さな部分に含まれていたエントロピーのすべてが今日の観測可能な宇宙全体の初期エントロピーとなったために、私たちの初期宇宙は低エントロピーだったのだろうと示唆している。
この新しいモデル(まさに本書執筆のあいだに登場したので、ほんとうに新しい)は、それ以前のエキピロティック宇宙モデルよりも、いくつかの点で有利だ。とりわけ、バウンスの際に空間の余剰次元または特異点を必要としない点が素晴らしい。実際、収縮はかなりおだやかに起こるようで、宇宙の大きさはふた桁ほどしか縮まらないらしい。
詳細は「もちろん」複雑だが、ほんとうに循環しているのは、宇宙の中身の混合物と、観測者がその進化をいかに知覚するかである、というのが基本的な考え方だ。先に触れたとおり、収縮とバウンスを引き起こしているのはブレーンの衝突ではなく、宇宙を満たすスカラー場である。
この新しいサイクリック宇宙モデルが私たちの宇宙を記述するのなら、いつか遠い未来の時代には、遠方の銀河たちが遠ざかるのをやめて、ゆっくり方向を転換し、こちらへ戻ってくるのが見えるようになるだろう。それは最初、ビッグクランチの初期段階と区別がつかず、宇宙がほんの少し混み合ってくると、宇宙マイクロ波背景放射は「冷たい」状態から「これ、あんまり冷たくないね」の状態へと加熱しはじめるだろう。
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この新しいバージョンでは、バウンス期に宇宙がとことん小さくなることは決してないので、重力波は1つのサイクルから次のサイクルへと通過していく可能性がある。このシグナルを検出するのは途方もなく困難だろうが、もしも存在するなら、私たちの宇宙が誕生する前にあった宇宙について、なんらかの手がかりを提供してくれるかもしれない。
このモデルの今後の展開から、目を離さないように。

ペンローズの斬新な宇宙論

もちろん、宇宙論における私たちの歩みに弾み(バウンス)をつけてくれるは、エキピロティック宇宙モデルだけではない。
現代宇宙論の初期の開拓者で、「宇宙における重力をどうとらえるか」という観点をがらりと変貌させたロジャー・ペンローズも、サイクリック宇宙論について独自の提案をしている。ビッグバンは、直前のサイクルの熱的死から生まれたという説がそれだ。
1つの宇宙の遠い未来の時空と、別の宇宙の始まりにおける特異点とをつなぎ合わせる考え方である。数十年間にわたり、標準的な初期宇宙のシナリオにおけるエントロピー問題の重大さを指摘しつづけてきたペンローズは、宇宙論コミュニティーにおいて最も注目を集める人物の一人である。彼は、インフレーションが何かの芸当をやってのけたとはまったく考えていない。つい先ごろ、彼は私にこういった。
「初めてそれについて聞いたとき、思ったよ。そんな理論、1週間ももたないさ、とね」
ペンローズが提唱する代替モデルは、「共形サイクリック宇宙論」とよばれ、特異点の近傍では、エントロピーは通常とは異なるふるまいをすると推測する。この推測が正しければ、2つのサイクルの境界ではエントロピーが非常に低くなる──私たちの宇宙も、このような境界で始まる。また、インフレーションは必要なくなる。
ペンローズのモデルはさらに、過去のいくつものサイクルで起こった事象のなんらかの痕跡が、天文学的観測で現れ、特に、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の中に特徴として出現するという、非常に興味深い可能性を含んでいる。実際ペンローズと彼の同僚たちは、そのような特徴の証拠がすでにデータの中に確認されていると主張している。
しかし、この説への反応は、いまのところ懐疑的だ。このようなヒントがいつの日かCMBに現れて、ビッグバン以前に存在した宇宙の説得力ある証拠と認められるようになるかどうかは、まだわからない。

すべてはいかにして終わるのか?

私たちはここから、どこへ向かうのだろう?

ビッグバンは一度限りの出来事だったのだろうか? それとも、1つの激しい転換点にすぎないのだろうか?

別の宇宙が、まるで高次元のハエ叩きのように私たちの上に降りてきて、宇宙における私たちの存在をドラマチックに中断してしまうのだろうか? 宇宙論素粒子物理学からのデータが、時空の真の性質を明らかにすることがあるのだろうか?
宇宙論でいう私たちの遠い未来がどのようなものになるのか、その発見にいま、どれくらい近づいているのだろう? また、この問いに決定的に答えるためには、どんな新しい情報が必要なのだろう?

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