じじぃの「カオス・地球_11_壊れゆく世界の標・人新世と感染症」

総合地球環境学研究所 創立20周年記念シンポジウム第2部

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=OAQ3zjhU70o


世界各地で昆虫が消えつつある


NHKスペシャル「ヒューマンエイジ 第1集 人新世 ~地球を飲み込む欲望~」

2023年6月11日
【ナビゲーター】鈴木亮平
繁栄を極める一方で、地球環境に危機をもたらしている「人間」。それでも「もっと豊かに」という欲望を止められない。人間とは一体何者か?この先どこへ向かうのか?
「ヒューマンエイジ」は、そんな人間の謎にあらゆる分野の英知を結集して迫り、未来を希望に変えるカギを探す大型シリーズ。
第1集は「人間の際限ない欲望」の正体。最新科学で人間ならではの欲望の仕組みが見えてきた。それを乗り越え、破滅を回避する手だてとは?

約6600万年前、巨大隕石が地球に激突。
地球上の75%もの生命が死に絶える大量絶滅が引き起こされた。
今、その時を超える勢いで新たな大量絶滅が起こりつつある。
調査が行われているのはカナダの湖、ポーランドの泥炭地、オーストラリアのサンゴ礁、氷に覆われた南極大陸まで地球の全域にわたる12ヵ所。

6600万年前の恐竜絶滅の際は、地球に落下した小惑星に由来するイリジウムが地層から検出された。
これと同じようなことが我々人間が200年間に排出された二酸化炭素が地球の堆積物に化学的痕跡を残しているのだ。

我々人類が地球から姿を消した後、はるか未来に現れた知的生物が地球を調べていったとき、プラスチックゴミ、コンクリート瓦礫など、他とは明らかに異質な物質で構成された地層を発見することしょう。それが「人新世」と呼ばれる地質年代なのです。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/26X685NG38/

NHK出版新書 壊れゆく世界の標(しるべ)

【目次】

第1章  命を守らない国家

第2章  アメリカを覆う「被害妄想」
第3章  スローガンを叫ぶだけでは何も変わらない
第4章 変革は足元で始まっている
第5章  可能なる平和を求めて
第6章 持続可能な社会への道標
第7章 知性の悲観主義、意志の楽観主義

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『壊れゆく世界の標』

ノーム・チョムスキー/著、デイヴィッド・バーサミアン/聞き手、富永晶子/訳 NHK出版新書 2022年発行

第1章  命を守らない国家 より

人新世と感染症

――先日アースディ(地球の日)が15周年を迎えました。地球の生態系はいま、かつてない危機に瀕しています。スティーブン・ベズルーチカ博士は、野生動物の生息地の消失と森林伐採によって野生動物と人間の生息地が急速に近づいたためにコロナウイルスが増加している、と指摘しています。

今回、中国で起こったのがまさにそれだ。しかし、(中国だけでなく)地球全体で同じことが起こっている。生息環境の破壊が進むにつれ、これまで人間が接触する機会のなかった野生動物が森林から出てくるようになり、人間も森の奥へ入るようになった。そのために両者が接触する機会が増えている。なかでもとくに深刻なケースがコウモリだ。コウモリはとてつもない量のコロナウイルス保有している。だから非常に勇敢な中国の科学者たちが洞窟の奥などの危険な場所に踏みこみ、多くの犠牲を出しながらもコロナウイルスの情報収集に努めてきたわけだ。彼らは大量の情報を手に入れた。アメリカの科学者たちはしばらくのあいだ彼らと協力して研究を進めてきたが、例の人殺しがホワイトハウス入りしたために、その共同プロジェクトは廃止されてしまった。

また、それ自体では持続不可能なハイテク農業が広がるにつれ、表層上の破壊が進んでいる。このまま持続不可能な工業型アグリビジネス(注:農業資材供給から生産、流通、加工に至るまでの食糧生産システム)が継続され、野生動物の生息環境の破壊が進めば、数世紀後には表層土は失われてしまうだろう。国立公園を化石燃料企業に明け渡すなど――これもまたトランプが犯した罪のひとつだが――、ダブルパンチを食らうようなものだ。
化石燃料の使用が増えれば、環境汚染がさらに進む。トランプは短期間で人類存続の可能性を潰そうと全力を尽くしている。これは誇張ではない。自分の行動が何を招くか、本人は百も承知だよ。ただ、どうなろうと知ったこっちゃないだけだ。

では、この先どうなるのか? 様々な感染症が蔓延するだろう。その原因はコロナウイルスかもしれないし、異なる病原体かもしれない。

多くの意味で、われわれは人類のみならず、地球に生息するあらゆる生物を滅ぼそうとしている。「人新世(ひとしんせい)」と呼ばれるようになった、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与えている第二次世界大戦以降の地質時代では、悪化の一途をたどる地球温暖化により恐ろしい被害が出ているだけでなく、棲息環境の著しい破壊が起こっていることも忘れてはならない。プラスチックが海洋環境を破壊して生態系を滅ぼし、大量の廃棄物や整備されていない下水道が環境を破壊し、持続不可能な農業と工業型畜産が盛んに行なわれている。それだけではない。抗生物質の乱用によって細菌が通常よりもはるかに速いスピードで変異するため、現在は薬剤耐性菌が存在するという深刻な問題も生じている。

さらなる利益と権力を獲得するためのこうした行動のすべてが、大規模な種(しゅ)の破壊を引き起こしているのだ。われわれは現在、「第6の絶滅期」と呼ばれる時代の真っただ中にいる。第5の絶滅期は、6500万年前に巨大な隕石が地球に衝突し、ほぼすべての生命体が滅びた時期を指すが、いまわれわれは、その隕石と同じことをしている。

第6の絶滅期はいままさに進行中なのだ。人類だけではない。世界各地で昆虫が消えつつある。実際の数を測定するのは難しいが、データによると、昆虫種の大半が急速に減少し、なかには完全に絶滅している種もある。

いいかね、われわれ人間やほかの多くの種にとって、昆虫は欠かせない生存基盤だ。いま起こっている種の絶滅が続けば、大変なことになる。種の破壊は野蛮で残酷なだけではない。さらなるパンデミックを招くことにもなる。

しかし幸運にも、まだ逃れる方法はある。いま話している問題も話題に上らなかった問題も、すべて手に届く範囲内に解決策がある。だが、そのためには行動しなくてはならない。今回のパンデミックと同じで、対処法がわかっていても誰かがその知識を使って行動しなければ、なんの役にも立たないのだ。

ほかのあらゆる危機に関しても同じことが言える。知識はある。理解もある――完全なる理解ではなくとも、基盤となる理解はある。だが、誰かが行動を起こさなければ、知識も理解もなんの役にも立たない。

しかし、この国でリバタリアニズムなどと呼ばれているネオリベラル資本主義のような、とりわけ残忍な国家資本主義に縛られて身動きがとれない状態では、打つ手はない。企業が自分たちの得にならない行動を起こすわけがないのだから。