じじぃの「歴史・思想_696_NATOを知るために・はじめに」

大下容子ワイド!スクランブル

2023年6月12日 テレビ朝日
【司会】大下容子佐々木亮太 【コメンテーター】増田ユリヤ(ジャーナリスト)、田中道昭(経営コンサルタント) 【スペシャル・コメンテーター】池上彰(ジャーナリスト)
大規模攻撃を南東部で開始か、ウクライナの反転攻勢…ダム爆破決壊の影響は
年金改革で揺れる仏マクロン氏の対中外交…中国配慮で欧米分断?

NATO東京連絡事務所・マクロン大統領が開設反対

増田ユリヤ池上彰の解説。
今月5日、英国「フィナンシャルタイムズ」は「マクロン大統領がNATOの東京連絡事務所開設に反対している」と報じた。

欧州での世論調査では、台湾を巡って米中で対立が起きた場合には米支持は23%、中立が40%だった。

田中道昭、「フランスの立ち位置は独自に見えるがマクロン大統領の本音は欧州の本音だ、という世論調査結果が7日欧州外交問題評議会から出された」
池上彰、「それぞれの国の国益を考えてフランスに代弁させながら、一方では他の国からしてみるとアメリカとの関係を維持しておきたいということがあると思う」
https://www.tv-asahi.co.jp/scramble/

エリア・スタディーNATO北大西洋条約機構)を知るための71章

【目次】

はじめに

第1部 NATOとはどのような組織か
第2部 冷戦期の展開
第3部 冷戦の終焉
第4部 冷戦後の危機管理
第5部 冷戦後の拡大をめぐって
第6部 ウクライナ危機とNATO主要国の対応
第7部 集団防衛への回帰――今後のNATO
第8部 日本とNATO

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NATO北大西洋条約機構)を知るための71章』

広瀬佳一/編著 明石書店 2023年発行

はじめに より

NATO北大西洋条約機構)がにわかに注目を集めたのは、2022年2月にロシア・ウクライナ戦争がはじまってからであろう。ウクライナNATO加盟国ではないのに、NATOは機構としても各加盟国としても、間接的に戦っているといえるほどの支援をウクライナに対して行っている。

詳細は第6部、第7部をお読みいただきたいが、支援のための協議や調整、情報提供、武器援助など幅広い範囲にわたって、関わりをもっている。そのために、いったいNATOとは何なのか、そもそも冷戦が終わったのになぜ軍事同盟のNATOが残っているのか、といった疑問をよく耳にするようになった。また、プーチンウクライナへの武力侵攻を開始するにあたって、NATO拡大を「諸悪の根源」と言い放ったこともあり、良くも悪しくもNATOは注目されているといえよう。

そもそもNATOは欧州大西洋(ユーロアトランティック)の国家間協力ではあるが、EU欧州連合)のような地域統合ではないし、「バルカン」や「コーカサス」のような、地理的・歴史的なつながりの深いひとまとまりの地域でもない。その意味では、「エリア・スタディーズ」シリーズのテーマとして取り上げられることに、訝しく思われる向きもあるかもしれない。

しかし、少なくとも冷戦期の欧州大西洋は、ソ連との対立において政治的。軍事的に1つのまとまった「エリア」とみなすことができた。また冷戦後、NATOは、EUと連動しつつも相互補完的な形で「自由で一体となったヨーロッパ」(ブッシュ大統領)を支える機構となっていた。ソ連とその軍事同盟であったワルシャワ条約機構が解体されたために、中・東欧は安全保障の「真空地帯」と化しており、集団防衛(北大西洋条約第5条)ばかりでなく、民主主義、自由や法の支配といった価値の擁護(同条約序文)を行う機構でもあったNATOには、冷戦後に求心力が生まれていた。その後2022年にロシア・ウクライナ戦争がはじまると、フィンランドスウェーデンのような非同盟・中立国までを引きつけるなど、NATOは欧州大西洋の安全保障を支える屋台骨となっているのである。
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こうした機能の拡大に加えて、NATOの活動は冷戦後に徐々にヨーロッパの加盟国を増やした。もともと12ヵ国ではじまぅたNATOは冷戦終了時に16ヵ国となっていたが、それが2022年までに30ヵ国となり、まもなくスウェーデンフィンランドを加えて32ヵ国となろうとしている。新たに加わった国は、それぞれどのような認識と論理でNATO加盟を目指したのかを各国の専門家に解説していただいたのが、第5部である。この部では、ロシア・ウクライナ戦争勃発後でも、NATO加盟とは一線を課すスイス。オーストリアアイルランドなど中立国の認識と論理をも扱う。

NATOの機能の拡大や構成国の拡大は、基本的に「欧州大西洋地域は安定しており通常戦力による脅威を受けていない」(2010年のNATO戦略概念)という国際環境のなかで行われた。しかし2014年のクリミア併合以降、ウクライナ危機がはじまり、やがて2022年2月にロシアによる全面侵攻にいたった。古典的と言ってもいいような通常戦力による戦争である。このロシア・ウクライナ戦争にNATOは「かつてないほどの結束」(バイデン大統領)を示しているとされているが、それでは加盟各国においては、いったいどのような議論が展開され、いかなる対応がなされているのか、おれを各国の専門家に解説していただいたのが第6部である。

またロシア・ウクライナ戦争は、NATOの戦略や戦力が変更を余儀なくされたのである。とりわけロシア、ウクライナに隣接する加盟国は、NATOによる集団防衛の一層の保証を求めた。その結果、NATOは2022年の新しい戦略概念で、ロシアを正式に脅威として認定するとともに、防衛体制の強化を誓約した。このように、戦争が及ぼしたNATOの集団防衛体制の見直しを中心に扱ったのが第7部である。

最後の第8部は日本とNATOの関係に焦点を当てた。日本とNATOの協力関係は、2001年の「9・11」同時多発テロ以降、グローバルなテロへの対処という形で本格的にはじまった。危機管理における国際協力である。しかしロシア・ウクライナ戦争は、ルールに基づく秩序を武力で破り、現状を変更しようとする国と民主主義国との戦いでもある。
中国を念頭に、自由で開かれたインド太平洋を重視する日本にとって、NATO協力の重要性の次元は、テロ対処より一段上がったことになる。岸田文雄総理が2022年6月に日本の総理として初めてマドリードでのNATO首脳会議に出席したのは、その象徴であった。この部では、NATOとの協力が、日本の安全保障のみならず、広くインド太平洋の安全保障にどのような意味を持つのかを扱う。
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本書は第1部から通読していただく必要はまったくなく、むしろ読者の興味と関心にあわせて、あちこち飛ばしながら読んでいただきたいと思っている。そのためどの章も、独立した内容を持った構成となっている。本書の執筆陣は、それぞれの分野の第一線の専門家であり、日本におけるNATO関係の研究者をほぼ網羅していると自負している。