じじぃの「カオス・地球_09_人間がいなくなった後の自然・啓示・火山大爆発」

Yellowstone Super-Eruptions | Curiosity: Volcano Time Bomb

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=SulM31nqaKw

Yellowstone Volcano Is FINALLY Exploding and Cracking Up The Earth


『人間がいなくなった後の自然』

カル・フリン/著、木高恵子/訳 草思社 2023年発行

第4部:エンドゲーム より

第11章 啓示:モンセラトの首都 プリマス

いつもと変わらない1日だった。1995年7月18日。カリブ海に浮かぶイギリス領の島「エメラルド島」は晴天に恵まれ、蒸し暑い夏の朝を迎えていた。しかし、その後、奇妙なことが起こった。島の首都プリマスで、白い粉が静かに舞い降り始めた。それはまるで花粉のように、あらゆるものに降り注いだ。

うっそうとした森におおわれた火成岩の風化した山、キャッスルピークが噴火したようだ。麓の割れ目から蒸気が出て、空高く舞い上がり、灰となって町の上に散った。好奇心旺盛な町の人たちは、山道を歩いて、シダが生い茂る熱帯雨林をかき分けて見に行った。ジェットエンジンのような轟音が聞えたという。

もちろん、心配はしていた。しかし、恐ろしいというほど激しいものではなかった。むしろ好奇心の対象と言えるくらいの程度だった。

噴火がすべてをのみ込む

それからさらに1年後、つまり地鳴りと暗闇、高まる恐怖が続いた1年後、ついに火山は約束された破壊をもたらした。1997年6月25日、大規模な噴火が発生し、スーフリエール・ヒルズ火山から400万~500万立方メートルのマグマが噴出した。高熱の岩石、水蒸気、灰、噴煙の火砕流は、液体と気体の中間のような状態で山肌を流れ落ちた。

溶岩が、高温発光で命を奪う液体であるとすれば、火砕流は別物である。火砕流は、疾走する車より速く移動する破壊的な力である。下へ横へと移動し、水面でも、時には坂道でさえも上って移動する。逃げ切ることは不可能だ。もし火砕流に襲われたら、血管の血は沸騰し、頭蓋骨は割れ、骨から肉が蒸発する。

モンセラトでは、四平方キロメートル土地をのみ込み、公式通知に反して戻ってきた住民19人が死亡した。死亡した人たちは、最高摂氏400度の火砕流で焼かれるか、息が詰まる灰によって窒息して、即座に死亡した。

外から見ると、その流れは静かだった。火砕流の流れは前触れもなく斜面を流れ落ち、無防備な犠牲者をのみ込んでいく。すべてをのみ込む巨大な黒い雲の内部では、騒音と混乱が渦巻いていた。風は台風のように吹き荒れ、黒い流れは嵐の海のように揺れ、火は渦を巻き、らせん状に回転し、爆発が、見えないところで起きていた。
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火山が静寂に包まれたとき、火山学者はそれを「安息」と呼び、まるで穏やかな眠りの中にいるようだという。ディヴィッドと息子のサニーは、噴火の影響で空っぽになったゴーストタウンや村に足を運び、新たな種類の目を見張るような光景を発見するのである。極端な高温には錬金術のような不思議な作用がある。ディヴィッドとサニーが見つけたのは、木や茂みが猛烈な熱にさらされ、タール状に溶けている風景だった。家屋は、土台から跡形もなく吹き飛ばされ、タイル張りの床だけが残っていた。
破壊をまぬがれた建物の中に入ってみると、夕食のためのテーブルがていねいに用意されていた。そのすべてが、灰でできた白っぽい防塵シートにおおわれ、窓という窓は溶けて、枠からしたたり落ちていた。

また、もっと清らかで、恐ろしくはない。思いがけない喜びもあった。あるとき、ラジオ受信機で爆発が近いという警告を受けた彼は、道路脇に車を停め、火山のほうを見た。雨が降っている。視界は悪い。雲間からきれいな虹がかかっている。そして、爆発が起こった。その威力は、灰と蒸気の柱を8キロメートルまで噴き上げ、雨雲と虹を吸い込んだ。かれは立ち尽くした。突然、晴れ渡った夏の日が戻った。圧倒された、と彼は後日語った。通常、あのような噴火の後では、灰が雪のように振り、何トンもの灰が一度に15センチメートルも積もる。柔らかいこの雪は溶けることがない。ひとたび噴き上げが大気圏の上層まで達すると、灰は海まで運ばれ、まるで噴火がなかったかのように塵1つ残らない。

モンセラトの火山が印象的だったとしたら、それより大きな噴火は全世界を魅了するだろう。1888年、王立学会は『The Eruption of Krakatoa and Subsequent Phenomena(クラカタウ噴火とその後の現象)』を出版した。1883年の噴火を追った幻想的なレポート集である。そのフンかはあまりに巨大だったため、5300キロメートル離れたモーリシャスでも聞えたという。出版から数週間、王立協会は世界中から「おびただしい数の手紙」を受け取った。いずれの手紙も、光り輝く空についての説明や、宇宙の現象についてなど、3万6000人の命を奪ったこの噴火と関連させずにはいられない事象について書かれていた。

ホノルルでは、大気圏上空に「完全に透明」だが、波打つ薄い膜が見え、太陽の周りに「かすかな深紅色」の光環が出現した。イギリスでは、虹色の波紋、オパールのような空が見られた。ノルウェーでは、エドヴァルド・ムングの『叫び』の背景となっている薄気味悪い空を彷彿とさせるような空が見えた。インドでは、空が緑色になり、まだらな煙おような様相を呈した。太陽そのものが緑色になることもあった。サンサンバドルでは、月が「巨大な深紅の幕の中空に浮かぶ新緑の三日月」のように見えた。ペンシルベニアでは、ある新聞が「国を体現する色でできた巨大なアメリカ国旗が、天高く浮き彫りにされている」とまで言っている。愛国心は別として、すべての報告は、ある1つのことを伝えていた。空が異常を示していた。すべてはクラカタウの噴火が原因だった。

その理由は現在ではわかっている。硫酸の微小粒子である硫酸塩エアロゾルが、爆発的な噴火によって高く舞い上がり、大気の上層に閉じ込められるからだ。同じような天体現象は、1815年にインドネシアのタンボラ山噴火の直後に起きた。観測史上最も強力な火山噴火で、クラカタウの10倍の規模だった。当時、タンボラ山周辺に住んでいた1万2000人のうち、生き残ったのはわずか26人だった。

J・M・W・ターナーの絵画に描かれた発光する空は、世界中に目撃者がいる。大気圏上層部を旋回する硫酸の粒子は、その後3~4年間、世界の気象体系に大きな影響を与えた。
1816年、異常低温と多雨のため、北半球全体が壊滅的な不作に見舞われた。中国雲南省では、来る年も来る年も穀物が不作となり、飢饉で白土を食べるまでになった。アイルランドではジャガイモが不作となり、推定10万人が死亡した。中央ヨーロッパでは食料暴動が発生した。偽預言者が大量殺戮を預言し、パニックを引き起こした。アメリカでは、独立記念日に雪が降り、大西洋の南部のバージニア州でも降雪があった。
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これらの巨大噴火が示すのは、地球の気候のダイナミズムであり、環境の正常なバランスを比較的容易に崩すことができるということである。このように、大噴火は、2つの尾を引く災害を引き起こす可能性がある。1つは即座の危機であり、もう1つは気候的カオスという長い尾を引く災害である。

タンボラ山の噴火の規模は、専門的には火山爆発指数7に分類される。1(小規模)、3(やや大規模)、5(どうしようもないほど大規模)から最高8(非常に巨大)まであり、レベル7の噴火は、1000年に2回程度起こると予測されている。レベル8の噴火は、「破局噴火」と呼ばれ、イエローストーン国立公園の地面の下にあるような「超巨大火山」で、10万年に一度くらい、世界のどこかで起こると考えられている。しかし、3万年に1回という可能性もある。超巨大火山は、人類存亡の危機を突きつける。7万4000年前に、インドネシアのトバ火山が噴火したとき、人類は厳しい火山の冬を迎えたと考える者もいる。このために人類のほとんどが死滅し、地球上の全人口はわずか3000~1万人まで減少したとも言われている。

そして、この破局的噴火こそが、世界がこれまでに見たこともないような大規模の絶滅現象、ペルム紀絶滅の引き金になったと考えられている。約2億5200万年前、現在のシベリアで起こった大規模な噴火によって、300万立方キロメートルもの火山灰と、大量の温室効果ガス(推定1兆2000億トンのメタンと推定4兆トンの二酸化炭素)が放出され、その結果、地球の気温は摂氏10度くらい上昇した。その後、森林の木々は倒れた倒れた場所で腐敗し、海は淀み、酸性雨が地表を洗い流した。この間、地球のほぼすべての生命が死滅した。海洋生物の95パーセント以上、陸上生物の4分の3が根絶された。その中には、当時地球を支配していた空想の世界の生物のような単弓類も含まれていた。その空白地帯に、のちに恐竜が登場することになる。

言われているようにイエローストーンのような超巨大火山が、噴火するようなことがあれば、それは文明がこれまでに経験したことのない大参事となるだろう。

最初の爆発で数百万人が死亡するだろう。大陸全体が火山灰でおおわれ、昼は夜たなり、水質は汚染され、世界の農業は何年にもわたって壊滅的な打撃を受けるだろう。気温は10年以上にわたって、摂氏18度も降下するかもしれない。

ペルム紀を終わらせたような気候の変動が再び起きたとしたら、どんなに遠くで起こったとしても、それはもう最後を意味する。ほぼ間違いなく、人類の時代は終わりを告げ、哺乳類の時代も終わりを告げるだろう。