じじぃの「カオス・地球_03_人間がいなくなった後の自然・核の冬・チョルノービリ」

Chernobyl Created the World's Rarest Dogs

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=bmVGwOP_zi8

史上最悪の原発事故が犬に与えた影響を調査


チョルノービリ(チェルノブイリ)の野良犬のDNAが示すこと【研究結果】

2023/3/22 Yahoo! JAPAN
●史上最悪の原発事故が犬に与えた影響を調査
1986年4月、旧ソビエト連邦/現ウクライナのチョルノービリ原子力発電所で史上最大の事故が起こり、膨大な放射線が放出されるという事態が発生しました。
日本ではロシア語由来のチェルノブイリという呼称が長く使われていましたが、2022年にウクライナ語由来のチョルノービリに変更されました。
チョルノービリに生息している犬たちは何世代にも渡ってこのような環境毒性物質にさらされながら生き延びて来ました。研究チームは、犬の集団がこのような過酷な環境にどのように影響を受け、どのように適応して来たのかを遺伝学的アプローチによって調査しました。
https://article.yahoo.co.jp/detail/d5eec685f62457c3620575f29967f3235a916284

『人間がいなくなった後の自然』

カル・フリン/著、木高恵子/訳 草思社 2023年発行

第1部:人間のいない間に より

第4章 核の冬:ウクライナ、チョルノービリ

炉心が溶けた日

チョルノービリ原発メルトダウン炉心溶融)事故の2ヵ月前、ソ連邦ウクライナの電力相(minister for power)は、報道陣に対し、「原発は極めて安全だ」と断言していた。試算は出されている。メルトダウンが起こる確率は1万年に一度であると彼は言う。だれもがこれは良い取引であると認めた。比較的小さなリスクで、クリーンで効率的なエネルギーを手に入れることができるのだ。

鉄のカーテンの向こう側では、アメリカも同じような計算をしていた。彼らはもう少し慎重で、最新の試算では、原発で深刻な炉心損傷が起こる確率は1万年に三度であるとしていた。それでも低い。しかし、数年前にペンシルベニア州スリーマイル島で起きた部分的な溶融事故が示すように、現実には原発事故は起き得たし、これからも起き得るだろう。実際、複数の原発のリスクを何年にもわたって積み重ねると、そのリスクはかなり高まる。100基の原子炉を20年間使用した場合、メルトダウンの可能性は45パーセントにまで高くなる。

世界では、1954年に最初の原子炉が建設されて以来、国際原子力事象評価尺度(INES)の最も深刻なランクである7と評価された原子力災害が2件ある。2011年の福島第一原子力発電所の事故が最も新しい。この時は地震とそれに続く津波によって冷却装置が故障し、爆発と3つの部分的なメルトダウンが発生した。この事故は、一時は東京全域の住民の避難が検討されるほど深刻なものであり、現在も337平方キロメートルの帰宅困難区域が設定されている。

また、原子炉以外にも、放射能汚染により強制的に隔離された場所が数多くある。例えば、ロシアのウラル地方にあるマヤークでは、1957年に核廃棄物処理施設の爆発により、放射性物質の粉塵が約2万3000平方キロメートルにわたって拡散した。その爆発現場付近の約99平方キロメートルは、現在も「放射線管理区域」としてフェンスで囲まれおり、一般人の立ち入りは禁じられている。プルトニウム生産工場があったワシントン州のハンフォードでは、第二次世界大戦中、核兵器の燃料を生産するために、大量の放射性ヨウ素(68万5000キュリー)が地域の環境中に放出された。この工場と、その周辺にある約1500平方キロメートルの立ち入り禁止区域は、今も封鎖されたままである。ここには約1万9000リットル以上の高レベル放射性廃棄物があり、そのうちのいくつかのタンクは、少なくとも15年前から漏れていることが知られている。

しかし中でも、チョルノービリは最も汚染された場所である。4号機の爆発の威力は、広島に投下された原爆のごく一部に相当するものにすぎなかったが、破損した原子炉の中に大量の核燃料があったため、放出された放射性降下物は400倍にものぼったと考えらられる。爆発後、数時間で2人が死亡した。さらに、放射線障害で入院した134人のうち28人が、最初の数日間に放射能中毒で死亡した。この地域の除染にあたった20万人のいわゆる「清算人(リクビダートル)」は、国際的に認められている年間最大線量の少なくとも5倍を浴びたと推定されている。

周囲の自然環境については、あらゆる生物が影響を受けた。奇妙な、あるいはぞっとするようなケースが多く見られた。妊娠していた動物は流産し、その胎仔は体内で溶けていた。原発から約6キロメートル離れた場所にいた馬は、甲状腺を破壊されて死んだ。森にあるすべてのマツの木が、焼け焦げて赤錆び色になり、針葉樹の葉を落として枯れ果てた。淡水湖のミミズが無性生殖から有性生殖に切り替わった。

プルィーピヤチの街で最初の避難が完了してから、この地域全体が封鎖された。イギリスのコーンウォール州より広い約4100平方キロメートルには、2つの主要な町と74の村が含まれる。この地にはいくつかの名前がある。正式名称は「疎外地帯」である。また「死のゾーン」とも呼ばれる。地球上で最も放射能に汚染された環境だ。

この放射能に汚染された内陸部は、人間の愚かさ、傲慢さ、悪魔と交わした取引の結果である。この地がひどく汚染されているのは明白であるが、それだけでなく、「死のゾーン」は実はまったく死んでなどいないということも次第に明らかになってきている。

汚染地域の生命たち

彼らはパリチフが故郷で幸運だった。放射線ヒョウ柄のようにまだらに広がっていたおかげで、彼らの土地はそれほど汚染されていなかった。イワンは牛や鶏を飼っていた。野菜も育てていた。ただし、イノシシが来て、よく掘り返されていた。

他にはどんな野生生物がいるの? と私は尋ねる。彼は笑って、両手を大きく開いてみせたので、通訳がなくても言いたいことがわかった。当ててごらん。オオカミですか? その通りと彼は言う。いっぱいいる。オオカミが入らないように敷地の周りに作った要塞のように高いフェンスを身振りで示した。独りぼっちの暗く長い夜、オオカミがしゃがれた声で、遠吠えをするのが聞こえてくる。数ヵ月前、家の近くの野原に、子オオカミを育てる雌オオカミが頻繁に出没したと彼は言う。毎朝、夜明けの光を浴びて子オオカミが走り回っていた。
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放射線が蓄積されるのは、地衣類、池の藻類、カタツムリやムール貝の殻、シラカバの樹液、菌類、草木灰、人間の歯などである。

放射性セシウムと放射性ストロンチウムが比較的安全なレベルまで減衰するまでには、さらに270年かかるだろう。この長期にわたる低レベルの放射線の影響については、はっきりしたことはわかっていない。そのためちょっとした科学的な争いの原因となっている。パリ第11大学のアンダース・パプ・メラーとサウスカロライナ大学のティモシー・ムソー率いる能弁な科学者の一派は、この地帯に生息する動物に見られる恐ろしい異常の多さを取り上げ、警鐘を鳴らしている。鳴禽(めいきん)類の白内障、ツバメの色素欠乏症や腫瘍の率が高い。チョウ、クモ、バッタ、ミツバチが、汚染が最もひどかった地域から姿を消している。また、倒木や落ち葉の分解速度が心配になるくらい遅いという。木を切り倒してみると、その中心部に事故が刻まれているのがわかる。木の年輪は、以前は間隔が広く、色も薄かった。事故以後は、木はオレンジ色に変色し、生育不良で年齢が密になった。総体的に、最も汚染された地域に住む動物の数は少なく、寿命が短く、絶望的な生を送っていると彼らは主張する。

他の多くの科学者は、より控えめで、慎重だが、楽観的な見方をしており、時には、前者の研究とは正反対の意見を述べている。

例えば、ジョージア大学のジェームズ・C・ビーズリーが設立したある研究チームは、この地区に生息する14種の大型哺乳類を、遠隔カメラを使って分類した。その結果、分布は極度に汚染された地域でも抑制されていないことがわかった。
また同様な研究で、イノシシやげっ歯類も減少していないことが確認されている。長期間の放射線被ばくにもかかわらず、驚くべき回復力である。言い換えると、放射能は彼らにとって無益ではあるが、人間がいないことによる恩恵は事故による害をはるかに上回るということだ。また少数派ではあるが、DNA修復や免疫反応を促すことによって損傷や病気により強い抵抗力を持つようになるという意味で、低レベルの放射線はむしろ有益でさえあるという学派もある。「ホルミシス仮説」である。

野生動物がいっせいにこの地域に戻ってきたことに議論の余地はないようだ。