じじぃの「科学・地球_557_なぜ宇宙は存在するのか・泡宇宙」

物理学者野村さんに聞くマルチバース宇宙論②宇宙がたくさんある(超弦理論と泡宇宙)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=GeEYKX-aVgU

外から見た泡宇宙の生成


泡の内部の「同時刻」


[私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか] 宇宙論の新書シリーズその4 - 『マルチバース宇宙論入門』(野村泰紀)

9/13/2021 モニオの部屋
6. 泡宇宙同士の関係
では、この泡宇宙で満たされている無限の宇宙のなかで、我々の存在している泡宇宙から別の泡宇宙を観測することは果たして可能でしょうか?
ここからの説明には、先ほどのペンローズ図がたびたび登場します。
泡宇宙が生成されて、光速で膨張する場合、以下のように泡の壁が45度方向に向かって伸びていきます。

泡宇宙の外にいる観測者(図の左下の人間)から見ると、その膨張は、t=1,2,3,4,と水平の線で表されます。
一方、この泡宇宙の膨張を、泡宇宙の内部(すなわち45度の線で囲まれた図のの真ん中上部の人間)から観察をするとどうなるでしょうか?
https://www.monionoheya.com/2021/09/multiverse-cosmology.html

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙
第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」
第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース」 より

6-4 私たちの宇宙は泡宇宙なのか

一様であることと泡宇宙の矛盾

第1章では、私たちの宇宙が観測的に極めて一様、すなわちどこまでも同じように続いていることを述べました。

一見すると、これは私たちの宇宙は泡宇宙ではないと示唆しているように思えます。もし、私たちが本当に「泡」の中に住んでいるのであれば、はるか遠くには「泡の壁」すなわち宇宙の果てが存在すると考えなければならないように思えます。そしてもしそうであれば、それは宇宙が一様にどこまでも続いているわけではないということを意味します。

また、宇宙が泡状であるならば、宇宙には(泡の)中心という特別な場所が存在するように思われます。そしてこれもまた、宇宙が一様であることと矛盾することになります。

ところが、実は、私たちの宇宙が泡宇宙の1つであるということと、宇宙が一様であるということとは、完璧に両立するのです。具体的には、泡宇宙が小さく生まれて大きくなっていくことと、宇宙が生まれた瞬間からどこまでも同じように続く無限の大きさを持っていて常に一様であるということとは、お互いに矛盾しないのです! なぜそのようなことが可能なのでしょうか。

同時刻の相対性

私たちが世界を正しく認識する上で必要な概念的な変更――それは一言で言えば、「時間」というものが誰にとっても同じものではない、という事実です。

ニュートン以降、私たちは時間というものは誰にとっても同じように流れると考えてきました(ここでいう時間は「会議が長く感じられる」などといった体感時間ではなく、原子の振動などで測られる物理的な時間のことです)。しかし実はこれは正しくないのです。

時間というものが、ニュートンが考えたよりはるかに豊かな性質を持つというのは、アインシュタイン相対性理論の最も顕著な帰結の1つですが、ここで私たちにとって特に重要になってくるのが、絶対的な「同時」という概念は存在しないという事実です。これはどういうことなのか、解説していきたいと思います。

ペンローズ図で考える泡宇宙

1970年代後半から1980年にかけて、ハーバード大学シドニー・コールマンは、泡宇宙が時空でどのように生成されるのかを解析しました。その内容そ紹介しましょう。

泡宇宙が生まれる様子を外から眺めていたという状況を想像してみましょう。すると、初めに小さな泡が生まれ、それが光速に近いスピードで広がっていくという描像になります。ここで、本書ではもうすっかりおなじみになったペンローズ図で説明すると図6-13(外から見た泡宇宙の生成、画像参照)のようになります。

この図の逆三角形の内側の領域が泡宇宙の内部を表し、外側がその中に泡宇宙を生じる、元の(背景の)宇宙を表します。ペンローズ図では、光の進む経路を45度で表す決まりになっていたことを思い出してください。「泡の壁」はほぼ光速で広がっています。そのため、泡宇宙が逆三角形状になっているのです。

ここで重要なのは、外の宇宙から見たとき自然に定義される「同時刻」は図にt=1、2、3、4と示した水平の線になるということです。泡宇宙の大きさとは、図で水平の線のうち逆三角形の内部に入る部分の長さのことなので、これは時間が経つにつれて、泡宇宙の大きさが大きくなっていくということを示しています。

では、泡宇宙の内部から同じ泡宇宙生成の過程を見ると、どのように見えるでしょうか? この場合でも生成過程のペンローズ図で、泡宇宙の「壁」が45度に広がっていくという点は変わりません。その理由は、自然界の最大速度である光速は誰から見ても一定だからです。つまり、ある観測者から見て泡の壁が光の速さで広がっていくことは、他の観測者から見ても光の速さで広がっていくということになります。この光速が誰から見ても同じというのは、アインシュタイン相対性理論の最も基本的な要素の1つであり、ペンローズ図が有用な理由でもあります。

ですから、泡の中に住んでいる人から見た場合でも、泡宇宙が逆三角形で表されること自体は変わりません。しかし、同時刻を表す線は、世の中に絶対的な同時刻という概念が存在しないことを反映して、違ってくるのです。

コールマンらの解析によれば、泡の内部の観測者は「同時刻」を図6-14(泡の内部の「同時刻」、画像参照)上のt'=0、1、2、3、4のように感知することになります。これによると、内部の人にとっての時間ゼロの宇宙(t'=0の線上)はすでに無限に大きかったことになります。というのも、線は途切れなくどこまでも続いていくからです。これは、この「時間ゼロ」の空間の(無限の)遠くが、外の観測者から見たときの(無限の)未来に対応しているために可能になったことです。