じじぃの「科学・地球_537_なぜ宇宙は存在するのか・宇宙誕生後の38万年の光」

宇宙の晴れ上がり

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=HyaUCvFN3Pg

A cosmic history, illustrated above, shows the first light of the universe-the afterglow of the big bang, which the WMAP observed. This light emerged 380,000 years after the big bang.


   

今見ているのは、宇宙誕生後38万年「宇宙の晴れ上がり」の時点から伝搬してきた光

胆江日日 サイエンスニュース より
http://ilc.tankonews.jp/modules/d3blog/details.php?bid=638&date=201710

Probe captures early image of universe - as it looked 380,000 years after big bang

Feb. 20, 2003 University of Chicago RSS Feed
Last week, scientists unveiled the best “baby picture” of the universe ever taken, and it lent further support to the big bang theory and its extension, cosmic inflation. But it also contained a surprise.
It was as if the scientists had taken a photograph of what they thought was a blond child and the picture showed a redhead instead.
“I find that really quite amazing,” said Stephan Meyer, Professor in Astronomy & Astrophysics and the College. “I sense in that something fundamental.”

The cosmic portrait-taken by NASA’s Wilkinson Microwave Anistropy Probe-shows the universe as it looked 380,000 years after the big bang, some 200 million years before any stars or galaxies had formed.
http://chronicle.uchicago.edu/030220/probe.shtml

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」 より

初期宇宙からの電波~宇宙背景放射

ここまで見てきた宇宙の歴史、つまり初期の宇宙は高温高密のビッグバン状態にあり、それが膨脹によって冷やされて現在の姿になった、という描像は、どの程度観測的に確かめられているのでしょうか?

現在では様々な実験、観測により、少なくとも宇宙誕生後約0.1秒後以降はこの描像で(細部が見直される可能性はあるものの)基本的に正しいことがわかっています。これらの実験、観測は非常に多岐にわたりますが、ここでは年齢がまだ約38万年歳、温度が3000度程度だった頃の初期の宇宙は「直接見えている」ということを説明したいと思います。

ちなみに現在の宇宙の年齢は約138億歳、温度は絶対温度にして2.7度、摂氏マイナス270度程度です。絶対温度とは、全ての分子や原子の運動が停止する摂氏マイナス273.15度をゼロ度とし、そこから摂氏と同じ目盛りを用いて測る温度で、単位はK(ケルビン)を使います。つまり摂氏との換算は、xK =(x-273.15)℃の式で与えられます。

初期の宇宙が直接見えていることを理解する上で重要になるのは、光の速さが秒速約30万kmと有限であるという事実です。例として、1000光年の彼方にある星Aを考えてみましょう。前述のように光が1年かかって進む距離が1光年です。1000光年とは約1京=1016kmのことであり、これは私たちにとってはとてつもない距離ですが、広大な宇宙のなかでは大したことはありません。たとえば、私たちの銀河系内にあるオリオン座の星ペテルギウスまでの距離は約650光年です。

いずれにしても、今私たちがこの星Aを見たとすると、その光はこの星を1000年前に出発したということになります。すなわち、私たちはその星Aの1000年前の姿を見ているのです。もしさらに遠くの天体、たとえば1億光年の彼方にある銀河を観測すれば、それは私たちが宇宙の1億年前の姿を見ていることになるのです。

さらにより遠くを見ていったとすれば、何が見えてくると思いますか? ビッグバンの描像によれば、初期の宇宙は高温高密で光輝く世界であったわけですから、星々や銀河よりさらに遠くの背景はピカピカに光り輝いているはずです。ところが、夜空は暗く、輝いてはいません。それはなぜなのでしょう。

実は暗くて輝いていない夜空は、本当は輝いているのです!

なぜ輝きが見えないのでしょうか。それは宇宙が膨脹しているからです。宇宙が膨脹しているために、私たちに届く光はドップラー効果によりその波長が間延びして、可視光の範囲を外れてしまっているのです。

38万歳の宇宙に何が起こったのか

ここで、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによって発見された宇宙背景放射が、実際には何を見ていることになるのかをより詳しく見ていきましょう。結論から言うと、これは年齢が約38万歳、温度が約3000度であった頃の宇宙の「スナップ写真」であると考えることができます。38万歳といえば非常に年老いて聞こえるかもしれませんが、これは現在の宇宙年齢の約3万6000分の1です、つまり現在の宇宙を40歳の人に例えれば、宇宙背景放射は生後約10時間のときの写真に対応しているのです。

では、なぜ宇宙背景放射が宇宙誕生約38万年後の姿を映しているのでしょうか? 言い換えると、38万歳の宇宙に何が起こったのでしょうか?

鍵となるのは、38万歳以前の宇宙の温度はあまりにも高すぎて、通常原子を構成する原子核と電子がバラバラに飛びまわっていたという事実です。温度というのは運動エネルギーの尺度です。高温による激しい運動が、原子核と電子が束縛状態になるのを防いでいたのです。この状態では、光は電荷を持った電子に散乱され、まっすぐ進むことができません。

しかし、誕生から38万年経って宇宙の温度が3000度以下になると、もはや原子核と電子はそれぞれが持つ電荷による引力に逆らってバラバラに飛びまわることはできません。
より具体的には、原子核は電子を補足し、現在私たちの周りにあるような、電荷を持たない中性の原子のようになります(図1-3、水素原子、炭素原子、酸素原子の構造)。そしてこうなると、中性である原子は光を散乱しないので、光は直進できることになります。

この宇宙誕生から38万年後に起こった、宇宙が光に対して不透明から透明な状態に変わったでき事を「宇宙の晴れ上がり」といいます。

現在私たちが宇宙背景放射として見ているのは、この誕生後38万年の時点の宇宙から伝搬してきた光(電波)なのです(図2-3、画像参照)。

現在では、宇宙背景放射は地上からおよび人工衛星による観測によって詳細に調べられており、私たちに初期の宇宙の貴重な情報をもたらしてくれています。

それによると、この放射のスペクトルは光を全く反射しない仮想的な物体(黒体という)が絶対温度2.73Kのときに発する放射に精密に一致しています。

この放射はどの方向からもほぼ一様にきており、その温度も10万分の1程度の揺らぎがある他は完全に一様です。このことは、38万歳の時点での宇宙の原子核(主に水素の原子核である陽子)、電子、光の密度、温度が10万分の1の精度で一様であったことを意味します。

これは驚くべきことです。たとえばポタージュスープをイメージしてみましょう。いくらかきまぜてもその密度を10万分の1の精度で一様にすることなどできないでしょう。同じように、風呂の水や部屋の空気でさえも、その上部と下部での温度差は10万分の1どころではないでしょう。宇宙はそれほど完全に一様だったのです。

これは現在の宇宙の姿とは全く異なります。現在の宇宙には銀河団、銀河、惑星系などの構造があり、物質の密度は一様とはほど遠いものです。たとえば銀河内部の平均密度は銀河外より何桁も高く、また恒星内部の物質の密度はほぼからっぽの空間である星間の物質密度よりはるかに大きいです。つまり、これらの構造は宇宙がほぼ完全に一様であった38万歳の頃から現在までの間に、何らかのメカニズムで形成されたと考えざるを得ません。
では、何がどのようにして現在の宇宙の構造を作ったのでしょうか? また、それを調べることにより宇宙について何がわかることはあるのでしょうか? 次節で迫っていきたいと思います。