じじぃの「科学・地球_536_なぜ宇宙は存在するのか・現在の宇宙の年齢」

Dark Matter and Dark Energy: The Frontier of Astronomy

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=thxknsmN9yk

Evolution of density of matter and dark energy


The Anthropic Principle and Cosmic Inflation | 3. Inflation Theory and the Multiverse

Dark energy is the energy of the vacuum; of empty space. It works in opposition to the pulling effects of gravity.
The observed expansion of our universe is occurring at an accelerating rate as a result of the action of dark energy. This accelerating expansion is a natural consequence of the fact that the density of dark energy stays constant with time while the density of matter declines as the universe expands. It is this constancy that leads modern cosmologists to identify dark energy with Einstein's cosmological constant.
The history of the universe has passed the point at which the density of matter is greater than the density of dark energy. The effects of dark energy compared with that of matter have now tipped in dark energy's favour.
https://www.rationalrealm.com/science/physics/anthropic-principle-cosmic-inflation-page3.html

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」 より

物質のエネルギー、真空のエネルギー、放射のエネルギー

宇宙が膨張していることの直接の帰結は、宇宙は動的なものだということです。具体的には、もし現在の宇宙が膨張を続けているのであれば、初期の宇宙はその内容物がもっとぎゅうぎゅうに詰まった高密度の状態であったはずです。この初期の宇宙がどのようなものであったかは、宇宙の変化を過去に向かって理論的に遡っていくことで知ることができます。

第1章で、現在の宇宙のエネルギー密度の組成が図1-9(ダークエネルギーが約69%、ダークマターが約26%、知られている質量が4.4%)のようになっていることを示しました。図では、現在の私たちの宇宙のエネルギー密度は、主に真空のエネルギーからきており、3割ほどが物質のエネルギーとなっています。しかし、この宇宙の組成も宇宙が進化していくにつれて変わっていくものです。

このことを理解するために、宇宙が膨張したときに様々なエネルギー密度がどのように変化していくかを考えてみましょう。たとえば、空間のある領域に原子が10個存在したとします。この場合、これらの原子が持つ総エネルギーは、有名なアインシュタインのE=mc2の関係式により質量とエネルギーが等価であることを考えると、原子10個分の質量で与えられることがわかります(原子の持つ運動エネルギーは質量エネルギーに比べて小さいので無視できます)。原子の質量は宇宙が膨張しても変わらないので、空間の一辺のサイズが2倍に膨張すると、エネルギー÷体積で与えられるエネルギー密度は1/23=1/8になることがわかります。つまり、物質のエネルギー密度は宇宙が膨張するにつれ、体積の増加に反比例して小さくなっていくのです。

一方で、真空は宇宙が膨張しても同じ真空ですから、そのエネルギー密度は一定です。このことは、過去の宇宙では物質のエネルギー密度が真空のエネルギー密度に比べて、現在の宇宙よりも大きな役割を果たしていたことを意味しています。

時間はどこまで遡れるのか

もっと遡って、宇宙のサイズが現在の100分の1だったときにはどうだったでしょうか?
そのときには、物質のエネルギー密度は現在の1000000 = 106倍、放射のエネルギー密度は108倍でした。一方で、真空のエネルギー密度は現在のものと変わりありません。つまりこの時代には、現在とは違って、真空のエネルギー密度は物質や放射のエネルギー密度に比べて完全に無視できる存在だったわけです。

この、宇宙のエネルギー密度の時間変化を大まかに表したのが図2-1(画像参照)です。宇宙の支配的な構成要素が、時間とともに放射、物質、そして真空と変わってきたことがわかると思います。これら構成養素の変化が起こった時期は、一般相対性理論の方程式を、時間を逆向きに解くことにより求めることができます。現在の宇宙の年齢は約138億歳ですが、放射優勢の宇宙から物質優勢の宇宙への移行への起こったのは宇宙が約5万歳の時、そして物質優勢の宇宙から真空のエネルギーが支配的な宇宙へ移ったのは比較的最近の約100億歳の時です。
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このようにして単純に時間を遡ることが、宇宙の年齢のどの時点までできるのかは、まだはっきりとはわかっていません。しかし、この章で述べるように、宇宙誕生約0.1秒後、温度が300億度程度であった時点までは正しく遡ることができることはわかっています。そして、第3章でも解説しますが、多くの科学者は様々な理由から、もっと初期の段階、たとえば宇宙誕生後10-38秒から10-26秒くらいまで、このように時間を遡っていけると考えています。いずれにしても初期の宇宙、少なくとも誕生0.1秒後以降の宇宙が、高温の放射で満ちた「火の玉」であったことは確実です。そして、この初期の宇宙の状態がビッグバンと呼ばれるものです。

現代の宇宙の年齢はどう決められるのか

ここでは少し寄り道ではありますが、宇宙の現在の年齢などがどのようにして決められるのかについて解説しておこうと思います。
これは、基本的には、観測で得られた現在の宇宙の膨張速度をインプットとして、一般相対性理論の方程式を、時間を逆向きに解いて、異なる2点間の距離が「ほぼゼロ」になるまでの時間を計算すればよいのです。ここで読者には、「宇宙の本当の最初のことはわからないのだから、このようにして求められた宇宙年齢の誤差は非常に大きいのではないか」という疑問が生じるかもしれません。しかし、これはそうではないのです。

このことを理解するためには、「対数」の考え方を身につける必要があります。

たとえば、いま東京から京都まで車で移動するのにかかる時間を見積もることを考えてみましょう。まず、アバウトに約10時間と考えたとしましょう。もちろん、この推定は非常に大雑把なものなので、実際の時間は7時間かもしれないし、15時間かもしれません。しかし、1分や10日であることは(途中わざと寄り道をしない限り)あり得ません。

同じように、もしキャッチボールをしているときに、ボールが自分の手を離れて相手にキャッチされるまでの時間を見積もりたいと思えば、最初のアバウトな評価は約1秒、でしょう。もちろん実際には2秒かかるかもしれないし、0.5秒かもしれません。しかし、この時間が0.001秒だったり1分であったりすることはあり得ません。

宇宙の歴史上で起こったでき事も、同じようなものです。たとえば、この章の後半でも述べるように、現在私たちの周りに存在する原子核(のいくつか)は宇宙誕生後約1分から10分くらいまでの間に合成されたと考えられています。もし、この見積もりが正確でなく、本当は1時間後に起こったとしたらどうでしょう(実際にはこの合成の過程は精密にわかっており、こんなに大きな誤差があることはあり得ないのですが)。この誤りによる現在の宇宙年齢の見積もりへの影響は、せいぜい1時間程度であるので完全に無視できることがわかるでしょう。

同様に、もし放射優勢から物質優勢に移行した時期が、宇宙が約5万歳の時でなく100万歳の時であったとしても(元素の合成の例と同じで、実際にはこんなに大きな誤差があることはあり得ませんが)、現在の宇宙年齢の見積もりである138億歳に与える影響は無視できます。

このように、ある時間尺度で起こることが推定される事象は、一般にその時間スケールで完結します。これが、図2-1の横軸(と縦軸もですが)の目盛りが1、2、3、4、……のようにではなく、べき乗で102、103、104、105……ととられている理由です(このようなとり方は対数目盛と呼びます)。そして、これは宇宙初期、たとえば宇宙誕生後10-10秒後に起こったでき事を正確に知らなくても、その後のでき事が起こった時の宇宙年齢の評価には影響がないことを示しています。

このことは、時間を逆向きに解いて宇宙年齢を求めるときに、異なる2点間の距離が正確にゼロになるまでの時間を求める必要はなく、十分小さくなるまでの時間を求めればよいということを意味します。つまり、宇宙年齢を導くのに宇宙の本当の最初の瞬間を知る必要はないのです。