じじぃの「カオス・地球_318_LIFESPAN・第5章・糖尿病薬・メトホルミン」

【医師のメトホルミン解説】血糖値が安定すると『目』も健康になる

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Kviig8EQNJQ

糖尿病薬 メトホルミン塩酸塩錠


「不老長寿」研究に巨額マネーが流入...糖尿病薬メトホルミンが若返り薬に?

2021年6月18日 ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
●寿命を左右する約30%は遺伝的要因
「老化が疾病を引き起こす」と、バルジライは言う。「ポイントはそこにある。老化を止められれば、老化が疾病を引き起こすこともなくなる」。スーパーエイジャー(健康な長寿者)と呼ばれる人々に共通する「長寿遺伝子」の最初の発見者であり、長寿研究の世界的な権威であるバルジライが注目するのは、遺伝子の分野だ。

糖尿病の治療薬メトホルミンに心臓病や癌、認知症など老化と関連した慢性疾患の進行を遅らせる効果があるかを調べる大規模な試験も予定されている。65~79歳の患者3000人を対象に、5000万ドルの予算をかけて6年に及ぶ追跡調査を行う計画だ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/post-96537_1.php

LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

【目次】
はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
■第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気
■第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法

第5章 老化を治療する薬

第6章 若く健康な未来への躍進
第7章 医療におけるイノベーション
■第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
おわりに――世界を変える勇気をもとう

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『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』

デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント/著、梶山あゆみ/訳 東洋経済新報社 2020年発行

第5章 老化を治療する薬 より

糖尿病治療薬として手頃な価格で処方されるメトホルミン

現代は椅子に座りっぱなしの生活習慣が増え、世界のどのスーパーマーケットにも糖や炭水化物が溢れている。
そのせいで、高血糖は年間380万人もの早すぎる死を招いている。糖尿病による死は、速やかでもなければ慈悲深くもない。失明、腎不全、脳卒中、足の潰瘍や壊疽、手足の切断といった、おそろしいものをたくさん連れてやって来る。

1950年代の半ば、薬学者のジャン・アロンと医師のジャン・ステルンはこの病気について研究した。そして、ガレガソウの主成分グア二ジンの誘導体(元の化合物の分子内の一部分が変化して生じた化合物のこと)を使うことで、インスリンの効かない2型糖尿病と闘えないかと考えた。どちらもフランス人だったので、ガレガソウは母国のいたるところで見られるおなじみの花である。

その誘導体はジメチルビグアニドと呼ばれる。それを服用すると2型糖尿病の治療に効果を発揮すると、ステルンは1957年の論文で発表した。今では一般に「メトホルミン」と呼ばれるこの薬は、以来、世界で最も広く使われ、最も効果の高い医薬品の1つとなっている。

メトホルミンがもつ健康長寿効果の発見

なるほど糖尿病薬の話はわかったが、それが健康長寿とどう関係するのか――読者はそう思っているに違いない。確かに、何の関係もないまま終わってもおかしくなかった。ところが今から数年前、研究者が不思議な現象に気づく。メトホルミンを服用している患者は、そうでない人より際だって健康状態がいいのである。しかもそれは、糖尿病が改善していることとは無関係のようだった。

それを裏づけるように、ごく少量のメトホルミンでもマウスの寿命がほぼ6%延びることが、アメリ国立衛生研究所(NIH)のラファエル・デ・カーボの研究室によって示されている。もっともそれは、体重が減ったことが大きいとの声もある。いずれにせよ、マウスで6%といえば、人間なら5年分の健康な寿命が追加されたことになる。この「健康な」という点が肝心だ。なにしろ、マウスではLDL(悪玉コレステロール)値が下がり、身体能力が改善したのである。こうした現象を支持する証拠は、時とともに増えてきている。齧歯類にメトホルミンを与える研究26件のうち、25件でがんの予防効果が確認された。

ラパマイシン(イースター島で半世紀前に採集された土の中の細菌から、得られた化学物質)と同様、メトホルミンを摂取した場合もカロリー制限に似た効果が現われる。ただし、ラパマイシンのようにTOR(タンパク質)を阻害するのではなく、ミトコンドリア代謝反応を制限する方向に働く。ミトコンドリアは「細胞の発電所」ともいわれ、ブドウ糖などをエネルギーに変換する仕事をしているが、メトホルミンにはこのプロセスを遅らせる作用があるのだ。すると、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)が活性化する。AMPKは酵素の一種で、エネルギー量が低下したときにミトコンドリアの機能を回復させる機能をもつ。メトホルミンはSIR1(私たちの研究室のお気に入りの酵素、サーチュイン、SIR1からSIR7まである)の活性も高める。ほかにも、がん細胞の代謝を抑えたり、ミトコンドリアの数を増やしたり(ミトコンドリアの機能低下を補うために細胞がミトコンドリアをより多く生成しようとするため)、折りたたみ不全のタンパク質を除去したりする効果が明らかになっている。

ある研究では、68歳から81歳までのメトホルミン服用者4万1000人あまりを対象に、9年間の追跡調査を行った。その結果、服用者のあいだで、認知症、心血管系疾患、がん、虚弱、うつ病になる確率がメトホルミンによって低減されることが確認された。しかも「若干」などとレベルではない。すでに虚弱になるリスクのあったグループでは、非服用者と比べて、認知症の確率が4%、うつ病が16%、心血管系疾患が19%、虚弱が24%、がんが4%減少している。

メトホルミンのがん予防効果については、それよりはるかに高いとした研究もある。あらゆるがんを抑えられるわけではなく、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、食道がんは難しいようだ。しかし、がんのリスクをときに40%も下げることは、25件ほどの研究で示されている。予防効果のとくに高いのが、肺がん、結腸・直腸がん、膵臓がん、乳がんだ。

これらの意味するところはじつに大きい。まずいコーヒーを1杯飲むより安い値段で、たった1つの安全な薬がそれだけ大勢の人の暮らしを著しく改善させたのである。