じじぃの「科学・地球_139_がんとは何か・肥満と大腸がん」

肥満と脂肪細胞 | 健康ポータル

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_v0yQ1huUZY

脂肪細胞の働き

脂肪細胞の働き

●アディポサイトカイン
脂肪細胞から分泌される生理活性物質をアディポサイトカインと呼びます。代表的なものにアディポネクチン、レプチン、FFA、TNF-α、PAI-1などがあります。はっきり生体に有利に働くと判明しているのはアディポネクチンだけです。
これらの作用はまだはっきりと解明されておりませんが、アディポネクチン以外の大半のアディポサイトカインは生体に対して悪い方に働くと考えられています。つまり、インスリン抵抗性を増大させたり、動脈硬化促進作用、凝固能促進作用をもたらすと考えられています。
http://www.netwave.or.jp/~nii-h/metabolic2.html

「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで

編:国立がん研究センター研究所
いまや日本人の2人に1人が一生に一度はがんにかかり、年間100万人以上が新たにがんを発症する時代。
高齢化に伴い、今後も患者は増加すると予測されるが、現時点ではがんを根治する治療法は見つかっていない。しかし、ゲノム医療の急速な進展で、「がん根治」の手がかりが見えてきた。世界トップレベルの研究者たちが語ったがん研究の最前線
第1章 がんとは何か?
第2章 どうして生じるか?
第3章 がんがしぶとく生き残る術
第4章 がんと老化の複雑な関係
第5章 再発と転移
第6章 がんを見つける、見極める
第7章 予防できるのか?
第8章 ゲノムが拓く新しいがん医療

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『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで』

国立がん研究センター研究所/編 ブルーバックス 2018年発行

第7章 予防できるのか? より

日本では感染によるがんが多い

がん予防の方策を考えるときには、感染症を主体とするがんと、生活習慣を主体とするがんに分けるとわかりやすくなります。
先に示した日本人のがん要因のデータからもわかるように、日本ではウイルスや細菌の感染が大きな割合を占めるのが特長です。2003年に国際がん研究機構(IARC)が発表したデータでは、ウイルスや細菌の慢性感染に起因するがんの割合は、世界平均で約18%、発展途上国では23%、先進国全体では9%という結果がみられるなか、日本では20%と先進国の中では突出した高さです。
なぜ日本で感染によるがんの割合が多いのかというと、日本人は肝臓がんや胃がんが多いためです。肝臓がんは肝炎ウイルス、胃がんヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染が、発がんに大きくかかわっています。体内に侵入したウイルスや細菌は、私たちの体に備わっている免疫システムによって排除されることがほとんどですが、なかには免疫細胞などの攻撃をくぐり抜け、臓器や血液中に棲みついて増殖し続けることがあります。こうした持続感染が、がんを引き起こすことがあるのです。

どんな生活習慣がどんながんに関与するのか

では次に、生活習慣がリスク要因となるがんについてみていきましょう。生活習慣ががんの発生に関与していることは間違いありませんが、具体的にどのような生活習慣が、どのがんのリスクをどれくらい高くするのかについては、まだ十分な研究結果がそろっていません。そこで、国立がん研究センターの予防研究グループは、すでに発表されている論文に基づいて、リスク要因や予防効果の信頼性の強さを「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「データ不十分」とランク分けして評価しています。
喫煙と飲酒については多くのがんで関連が「確実」と評価され、肥満についても肝臓がんや大腸がんで「ほぼ確実」となっています。食品では、食塩・塩蔵品と胃がんの関連が「ほぼ確実」と評価されています。これらはがんのリスクを上げるものなので、これらの習慣をやめたり摂取量を減らしたりといった方法ががん予防になります。一方、がんのリスクを下げる要因としては、運動が大腸(結腸)がんで「ほぼ確実」、野菜と果物の摂取が食道がんで「ほぼ確実」となっています。これらの習慣を積極的に行うことが、がんの予防になります。

肥満と大腸がん

大腸がんの予防薬として、アスピリンのほかに、コレステロール値を下げるスタチンや糖尿病の薬であるメトホルミンも候補とされ、国内外で試験が行われています。持病があったり副作用が強く出たりした場合に、薬の選択肢をいくつか用意しておくことは重要なことです。
2016年3月、横浜市立大学の研究グループは、メトホルミンを内服すると大腸ポリープの再発が抑えられることを世界で初めて報告しました。以前から、糖尿病患者において、メトホルミンを服用している人は、服用していない人に比べて、がんのメトホルミン発生率が低いことが知られていましたが、逆にヒトの大腸がんの予防効果を示唆する報告は少なかったのです。横浜市大のグループは、大腸ポリープを内視鏡切除した患者151人を無作為に2グループに分け、片方にメトホルミン250mg、もう片方にプラセボを投与してポリープの新規発生や再発を調べたところ、メトホルミンの服用により、大腸ポリープの再発率が40%低下するという結果になりました。
メトホルミンも元をたどれば植物由来の成分で、中世ヨーロッパからガレガソウというマメ科植物に、糖尿病の症状を緩和する効果があることが知られていました。20世紀に入り、ガレガソウに含まれるグアニジンという成分に、血糖を下げる作用があることがわかり、グアニジンの誘導体としてメトホルミンが開発されました。
メトホルミンは開発当初から糖新生(血糖値が下がったときに肝臓でアミノ酸や乳酸など糖質以外からグルコースを合成すること)を抑制する作用があることが知られていましたが、その他に、中性脂肪コレステロールの合成の抑制、インスリン抵抗性の改善にも働くことがわかってきました。これらは肥満と深く関わっています。
肥満になると、脂肪細胞が肥大・増産し、アディポサイトカインという生理活性物質の分泌異常が起こります。本来、アディポサイトカインは、脂肪細胞から分泌され、脂質代謝や糖代謝を円滑にする働きをしますが、肥満になってアディポサイトカインの分泌異常が起こると、インスリン抵抗性や炎症状態、脂質異常症を引き起こし、これらの状態がまた肥満を引き起こすという悪性サイクルができてしまいます(画像参照)。そして、これが大腸がんを引き起こすと考えられます。つまり、この悪性サイクルを断ち切ることが、大腸がんを予防することにつながるということです。メトホルミンやスタチン、アスピリンは、この悪性サイクルを断ち切ることで、大腸がんの抑制に寄与していると考えることができます。