じじぃの「歴史・思想_695_いま世界の哲学者・ウクライナ戦争・ドゥーギン」

プーチン氏の頭脳”が初めて語る「ロシア勝利か人類滅亡か」【2月10日(金) #報道1930 】|TBS NEWS DIG

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=moHAmc8RbVQ

極右地政学者 アレクサンドル・ドゥーギン


プーチンも洗脳?超保守主義学者の危険すぎる思想

2022年3月26日 Wedge ONLINE
プーチン大統領はなぜ、無謀なウクライナ侵略に踏み切ったのか――。
その思想的背景として、〝知恵袋〟で極右派学者の存在がにわかに浮かび上がり、米国でも論議と関心の対象となっている。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26182

いま世界の哲学者が考えていること

岡本裕一朗(著)
【目次】
序章 現代の哲学は何を問題にしているのか
第1章 世界の哲学者は今、何を考えているのか
第2章 IT革命は人類に何をもたらすのか
第3章 バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか
第4章 資本主義は21世紀でも通用するのか
第5章 人類が宗教を捨てることはありえないのか
第6章 人類は地球を守らなくてはいけないのか

第7章 リベラル・デモクラシーは終わるのか

 第1節 アメリカ政治の転換(2016年以後)
 第2節 新型コロナウイルス感染症パンデミック(2020年以後)
 第3節 ウクライナ戦争(2022年以降)

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『いま世界の哲学者が考えていること』

岡本裕一朗/著 朝日新聞出版 2023年発行

第7章 リベラル・デモクラシーは終わるのか――第3節 ウクライナ戦争(2022年以降) より

ウクライナ独裁政権!?

ウクライナ人学者オルガ・ベイシャによれば、ウクライナは以前から、3つのグループに分かれていました。1つはネオリベラリズムを推進したいグループで、欧米の国際機関のもとでウクライナを統治することです。これを「リベラル派」と呼んでおきます。じっさい、アメリカをはじめ多くの外国人が、ウクライナの重要な官僚に就任しています。

もう1つは、ウクライナナショナリストグループであり、こちらは過激なテロ行為や軍事的な行動を組織してきました。ロシアがしばしば「ネオナチ」と呼んだのは、このグループに該当しています。これを「ナショナリスト派」と呼びましょう。このグループは、「ミロトボレッツ」と呼ばれるウェブサイトに掲載された、いわゆる「危険人物」の個人情報をもとに攻撃を加えたりして、国民から怖れられてきました。公開処刑のようなものでしょうか。

さらに、ウクライナの東部を占めるロシア語を話す人々が第3グループになります。この人々は、2014年のマイダン革命に対して、多くが支持しなかったのです。この人々を「ロシア派」と呼んでおきます。
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そのため、ベイシャは次のように述べています。

  私の考えでは、ゼレンスキーは、彼が権力を握った直後に形成されはじめた、彼の政権内の独裁的傾向を強化するために、この[ロシアとの]戦争を利用しているにすぎません。つまり、議会を支配し、大衆の気分を無視して、ネオリベラルな改革をゴム印で押すためも党機械を作り出したときに形成された独裁傾向です。

こうした観点から、ウクライナの情勢を眺めてみれば、日本のメディアが伝えるのとはまったく違った世界が広がるのではないでしょうか。

「歴史の終わり」の終わりと「第4の政治理論」

誤解のないように言い添えておきますが、ウクライナ侵攻の思想的背景とか哲学的理由といっても、それを道徳的に正当化しようというわけではありません。
また、いまから述べることが、直接的な引き金になって、プーチンウクライナ侵攻に踏み切った、というわけでもありません。

ところが、ロシアの現代思想には、今回のウクライナ侵攻とつながるような哲学的な議論があるのです。ここで取り上げたいのは、アレクサンドル・ドゥーギンの『第4の政治理論』(2012年英語版)です。彼の思想は日本ではほとんど紹介されていませんが、クレムリンにも影響を与えていると言われています。そこで、クレムリンとの関係は別にして、現代ロシアのて哲学を知るうえでも、少し見ておきたいと思います。それを確認すれば、今回のウクライナ侵攻の意味についても、理解できるのではないでしょうか。

まず、タイトルから確認しておくと、ドゥーギンによると、政治思想として20世紀には3つのものがあったとされます。1つは欧米のリベラリズム、2つ目がソ連共産主義、3つ目が独伊のファシズムです。このうち、共産主義ファシズムは、リベラリズムと対立し、消えていきました。そして唯一残ったのが、リベラリズムだったのです。これを、フクヤマが「歴史の終わり」と呼びました。

ドゥーギンは、20世紀において唯一残った欧米のリベラル・デモクラシーの覇権に対して戦いを挑み、第4の政治思想を提唱しようとするのです。それがロシアの場合には、「ユーラシア主義」と呼ばれます。もっとも、これはロシアだけではありません。欧米以外の地域で、それぞれの民族や文化の違いに応じて、独自の文明圏を創造していくことを意図しています。ドゥーギンとしては、フクヤマが想定したような欧米の1極中心的なリベラル・デモクラシーではなく、多極的な世界を構想するのです。

こうした第4の政治理論の考えからすると、今回のウクライナ問題は、NATO(欧米)による1極覇権主義的なリベラル・デモクラシーの拡大に対して、非欧米地域の多極主義的な抵抗と見なすことができます。プーチンの思惑がどこにあるかは別にして、第4の政治理論から言えば、リベラル・デモクラシーの1極主義に対する多極主義的反応であるのは確かです。たとえば、「1極性の悪」と題して、ドゥーギンは次のように述べています。

  現代世界は1極的ある。グローバルな西欧がその中心であり、アメリカがその核となっている。この種の1極性は、地政学的にもイデオロギー的にも特徴がある。(中略)誰が正しく誰が間違いか、また誰が処罰されるべきで誰が処罰されるべきでないかを決定するのがただ1つの権力しかない時には、グローバルな独裁制の形式があるのである。これは受け入れられない。

これを見れば、欧米を中心にした1極的な世界(歴史の終わり)に対して、ユーラシア主義に基づく多極的な世界の構想が強力に主張されているのは明らかでしょう。ウクライナ情勢がどこへ向かうのかは、現時点では分かりませんが、欧米を中心にした「リベラル・デモクラシー」が挑戦を受けているのは間違いありません。

とすれば、今回のウクライナ戦争は、まさに「リベラル・デモクラシー」の終わりになるかもしれません。