じじぃの「歴史・思想_683_半島の地政学・マレー半島」

日本経済の生命線「マラッカ海峡」への国際協力

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=sBSSX5DZyqE

海を支配するには『チョーク・ポイント』と『シーレーン』をおさえろ

2021年2月27日 note
ランドパワーとシーパワーのお話覚えてますか?
大陸国家は、陸続きの隣国と海から渡ってくる海洋国の双方を常に警戒しないといけないので、陸と海にコストを分散するのは非効率。
地理の特性上、海にまでは中々手が回らず陸上輸送能力や陸軍に注力するランドパワーに属しやすい。
島国などの海洋国家は、海を介してからでないと相手から攻め込まれないため、海上輸送能力や海軍力に集中したシーパワーに属しやすい。
https://note.com/newbie0106/n/nf5dfad2b5afe

「半島」の地政学――クリミア半島朝鮮半島バルカン半島…なぜ世界の火薬庫なのか?

内藤博文(著)
【目次】
序章 半島はなぜ、いつも衝突の舞台となるのか?
1章 バルカン半島に見る大国衰亡の地政学
2章 朝鮮半島に見る内部分裂の地政学
3章 クリミア半島に見る国家威信の地政学
4章 国際社会を揺らす火薬庫と化した4つの半島
5章 世界を激震させる起爆点となった4つの半島

6章 見えない火種がくすぶる4つの半島

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『「半島」の地政学

内藤博文/著 KAWADE夢新書 2023年発行

6章 見えない火種がくすぶる4つの半島 より

太平洋とインド洋を隔てる半島の「歴史的役割」とは マレー半島

東南アジアのマレー半島は、南北に細長く延びた半島である。インドシナ半島から枝分かれし、その付け根にはタイ、ミャンマーがあり、半島の南部にはマレーシアがある。半島の突端には、シンガポールが位置している。

マレー半島は、太平洋とインド洋を分かつ細長い壁でもある。マレー半島が南北に延びているために、太平洋とインド洋に隔てられてしまっている。マレー半島の先にあるスマトラ島、ジャワ島なども、太平洋とインド洋を隔てる壁になっている。太平洋とインド洋を最短で結ぶのは、マレー半島スマトラ島のあいだにあるマラッカ海峡となる。

マレー半島という「壁」が存在するため、東アジア圏、インド圏はそれぞれ異なる文化を築いてきた。マレー半島に隔てられているがゆえに、東アジア圏、インド圏は相互に大きく影響し合うことがなかったといっていい。

現在、マレー半島地政学的な地位は圧倒的に高い。太平洋とインド洋を結ぶマラッカ海峡に面しているからだ。とくに日本や中国、韓国をはじめ東アジアの国々にとって、マラッカ海峡マレー半島の安全は死活問題になっている。中東の石油が、マラッカ海峡を通じて東アジアにもたらされるからだ。

仮にマレー半島が紛争地帯になり、マラッカ海峡の航行に支障が出てくると、東アジア諸国を襲うのは原油高というパニックである。
中東からのタンカーはモルッカ海峡やマカッサル海峡に迂回せねばならず、輸送コストが上昇してしまうからだ。

ただ、近代においては、マレーシア半島の先端部はそう不安定な地域になったことはない。南北には山脈がはしっていて、平野は多くない。半島自体が南北に細長いこともあって、ひとつにまとまるはずもないのだ。

マレー半島も全体としては「統治不能」であり、半島内で勢力争いが繰り返されてきた。それでも、近代になってマレー半島の先端部は比較的安定し、紛争が起こりにくくなっている。

ひとつにはアメリカが目に光らせているからだが、シンガポールの存在が大きいだろう。シンガポールが安定して強固であるから、マラッカ海峡の安全は守られているのだ。

なぜ、中国とシンガポールは「互いに脅威と感じる」のか? マレー半島

マラッカ海峡マレー半島の安定に欠かせないシンガポールにとって、現在、最大の不安定要因は中国だろう。シンガポールには華僑が多く、彼らの意見は強い。しかしながら、シンガポールは中国を脅威とも見なしている。

一方、中国にとってもシンガポールは脅威である。中国が東アジアで危険な戦争でも仕掛けようものなら、マラッカ海峡から中国のタンカーが締め出される可能性があるからだ。

シンガポールと密接な関係にあるのは、アメリカだ。アメリカの要請があれば、シンガポールマラッカ海峡の封鎖を試みる可能性は否定できない。マラッカ海峡が封鎖されたら、中国は原油を思うように入手できず、戦争どこるではなくなるのだ。
をとっている。

中国は、このシンガポールの危険性を認めていて、インド洋で新たな戦略をとっている。すでに述べたように、中国は友好国であるパキスタンのグワーダルに巨大な港を建設している。グワーダルからパキスタン国内、カシミールを抜け、新疆ウイグル自治区までつながる原油パイプラインを設置したら、マラッカ海峡封鎖に対抗できる。

近未来、中国が狙っているのは、シンガポールにおける親中政権の誕生だろう。シンガポールでは、中国系住人が8割近くを占めており、彼らを誘導するなら、選挙によって親中派の首相が登場することもありうるだろう。

ただ、現状ではシンガポールでの政権交代はむずかしい。1965年の建国以来、与党である人民行動党が圧倒的多数を得ていて、現在の首相リー・シェンロンは、先代首相のリー・クアンユーの息子である。

つまり、シンガポールは「明るい北朝鮮」と揶揄(やゆ)されるくらい、リー一族による独裁国家の側面がある。シンガポールがリー一族の独裁状態にあるかぎり、中国が望むような政権交代はそうはありえないのだ。

アメリカが、シンガポールの独裁のような体制を容認しているのも、そのあたりにあるのではないか。アメリカは独裁型国家を嫌い、やたらと民主化を求めたがるが、シンガポールには何もいわない。アメリカが、シンガポールに親中政権が登場することを望んでいないからだ。

シンガポールでリー一族の政権が崩壊し、より民主化されるならどうだろう。シンガポールで政治的な議論が活発化するにつれて、親中派が対等する可能性がある。それは、シンガポールに親中政権を誕生させかねない。だから、アメリカはシンガポールのリー一族のあり方には口を挟まない。

仮にシンガポール親中派が登場するなら、マラッカ海峡の航行は中国に支配されかねないということである。日本や韓国のタンカーがマラッカ海峡を通れなくなれば、日本経済、韓国経済は悲鳴をあげる。悲鳴をあげたくないなら、中国に屈従することにもなるのだ。