Ukraine’s history and its centuries-long road to independence
動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=CVezH6uj77I
図説:ウクライナ独立から30年、ロシアによる圧力の歴史
2022.03.01 ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
1991年12月、ソビエト連邦崩壊後のウクライナ独立から30年。
2021年からロシア軍の不穏な兵力増強が続き、2022年2月24日未明、ついにロシア軍がウクライナに侵攻を開始した。ロシア軍は、ウクライナの北のベラルーシ、東のロシア、南のロシアが実効支配するクリミア半島から、ウクライナに侵攻している。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/030100094/
ゼレンスキーの真実
レジス・ジャンテ、ステファヌ・シオアン(著)
【目次】
第1章 演じたことのない場面
第2章 ドラマの大統領から現実の大統領へ
第3章 95地区の芸人
『ゼレンスキーの真実』
レジス・ジャンテ、ステファヌ・シオアン/著、岩澤雅利/訳 河出書房 2022年発行
第4章 オリガルヒ(ロシアの新興財閥)との緊張関係 より
厄介者になる富豪
2020年5月13日、国民のしもべ党を中心とする与党はウクライナ議会で、反オリガルヒ法を賛成多数で通貨させる。それはイーホル・コロモイスキー(富豪。ゼレンスキーはこの男の支援を受けたから大統領になれたとも言われる)のひそかな考えを封じる目的で作成された法案で、経営困難に陥って国有化された銀行を元の所有者に返すことを禁じていた。こうして問題は一件落着し、プリヴァト銀行はひきつづき国が運営することになった。IMFはウクライナに対する50億ドルの融資を見合わせていたが、法案通過から数時間後、それを実行した。
ヴォロディミル・ゼレンスキーは、就任後初めての大きな決断を下したのだった。辛口の評論家は、操り人形が自分と人形使いを結んでいる糸を切ってみせた、と評した。ゼレンスキーとコロモイスキーは訣別したらしかった。新しい大統領はついに解放された。コロモイスキーは少しずつ、ウクライナの経済界への影響力を失っていき、ツェントロエネルゴ(ロシアの電力会社)の人脈からも締め出された。行政機関の重要ポストに配置されていた彼の配下の者は次々に解任された。コロモイスキーへの訴訟手続きを進める米国の司法当局は、コロモイスキーと結びつきのある有害な人物たちを排除するようゼレンスキーに助言した。1+1テレビは、ゼレンスキーがいなくなった<95地区>の番組をいまでも放送しているが、ウクライナ第3のオリガルヒは、大統領になったかつての秘蔵っ子を不愉快に思うようになっている。
脱オリガルヒ化はうまくいくか
2019年9月10日にコロモイスキーのため気まずい思いをしたゼレンスキーは、2021年11月5日、当時の舞台と同じ大統領事務所で待望の反オリガルヒ法に署名する。このときの写真はプロのカメラマンと広報のチームが手がけたもので、隠し撮りではない。新しい法律は「公的生活に経済面・政治面で大きな力を持つ人物の過剰な影響によって国家安全保障が脅威にさらされることを防止する法律」と題されている。オリガルヒを指すためにずいぶんまわりくどい表現をしたものだ。ゼレンスキーは法律に署名している写真をツイッターに投稿し、ウクライナ語で言葉を添えた。
「民主主義とは法律と平等である。ここに署名する反オリガルヒ法は、大企業と政治家の関係を根本的に変えるものだ。これからは経済活動をする者すべてがこの法の前に平等であり、政治的な特別扱いを受けることはできない。この法は厳格に守られるだろう」
反オリガルヒ法は「オリガルヒ名簿」の作成も定めている。この名簿では財産がどのくらいか、どんな資産(たとえばテレビ局)を持っているかの記載とともにオリガルヒがリストアップされる。この名簿の理念は何か。ウクライナの著名な富裕層のなかには、この名簿に載ること、オリガルヒという不名誉な名称で呼ばれることを望まず、載った場合は外してほしいと考える者がいる。事実、法律が成立してまもなく、ポロシェンコ前大統領は所有していたふたつのテレビ局を売却した。
しかし、この法律は言ってみれば人気取り政策で、実行に移すのはかなり難しい。かえってオリガルヒたちの勢力を強めるおそれもあり、さらに、政権に従順なオリガルヒを生む危険もある。
ゼレンスキーは選挙の公約を果たすため、また米国政府、欧州委員会、IMFの評価を得るためにこの法律の条文を作成させた。オリガルヒの名前をリストアップして「政治的な特別扱い」を受けられなくさせるというやり方は、国民には魅力的に見えるかもしれない。この観点からすると、反オリガルヒ法はソ連崩壊後の社会で問題視されている階級を世間の批判にさらし、社会的制裁にかけることを狙っているといえる。
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いずれにせよ法案は、リアルなシチュエーションコメディを思わせる議会の審議を経て成立した。ウクライナの政治と議会のあり方は風変わりで細かいことにこだわる面があり、誇張にあふれ、テレビドラマじみて見えることがよくある。まさに大騒ぎなのだ。国民の多くは、議会の審議を額面どおりに受け取らない。国民は日常の仕事を優先し、大統領選の公約が果たされて満足しているふりをする。調査報道のジャーナリスト、ミハイロ・トカチが制作した映像は反響を呼びつづけ、再生回数が数万回に達した。このジャーナリストはポロシェンコを酷評したあと、新たな標的を見いだした。ゼレンスキーと<95地区>のメンバー、<95地区>の仕事仲間で大統領補佐官になったセルヒー・シェフィル、<95地区>の会計と法律業務を担当し、ウクライナの情報機関である保安庁の長官になったイワン・バカノフ、そして、ゼレンスキーと友人関係にある元映画プロデューサーで、大統領事務所の長官となり、第2の大統領ともみなされているアンドリー・イェルマーク……。
やがてミハイロ・トカチは、ゼレンスキーの旧友であるセルヒー・シェフィルがオリガルヒとの交渉を担当していることを突きとめ、報道する。トカチは夜のキーウ市内を走るシェフィルの黒い大型車を尾行し、車がリナト・アフメトフの邸宅のひとつに入っていくのを見届けた。つまり、シェフィルは大統領とオリガルヒの橋渡しをする人物だった。そんなわけで、ウクライナの政治はステージと舞台裏で別のことが行なわれている劇場に近い。オリガルヒは、反オリガルヒ法が事態を何も変えないこと、この法律によって一部のオリガルヒは批判の声を封じることができ、これまでどおりビジネスを続けられることを知りながら、表向きは憤慨してみせるのだ。
就任してからの2年間、小魚ゼレンスキーはサメが生息する海の泳ぎ方を学んできた。彼の非凡なコミュニケーション能力は、頼もしい武器になっている。彼は何を売るかよりも、どのように売るかを重視している。いまではFacebookやYouTubeの動画を添えるかたちで、大統領事務所のサイトから情報を発信している。ヨーロッパの首脳で、ここまで映像メディアの技術を使いこなした人物はめずらしい。要するに、ゼレンスキーを補佐する6人ほどの側近たちは全員、映像制作の専門家なのである。強い権限を持つアンドリー・イェルマークの下ではゼレンスキー軍団とも呼ぶべき若い人材が働いている。たとえば『国民のしもべ』の脚本家のひとりユリー・コスチェクは、大統領のあのみごとな談話の草案を担当している。大統領事務所で「大規模な計画」を担うキリロ・ティモシェンコもまた、動画コンテンツを作成する通信社グッドメディアの幹部である。2019年の大統領選から数ヵ月後、<95地区>のスタッフの30人以上が、大統領事務所や議会など、政権の勢力に加わったと考えられる。その数があまりに多いので、政権に身びいきや利益誘導があるとして非難する声が聞かれる。
しかしゼレンスキーは、攻撃をうまくかわしている。彼は自分の感情、公の場での対応、ジャーナリストとの難しい関係をコントロールできるようになった。創意豊かな彼の広報チームは、イベントと呼びたくなるような意表をつく記者会見を、予想できない場所で企画する。たとえば2019年10月、ゼレンスキーはキーウのアーセナル地区にある人気レストランで「マラソン記者会見」を開いた。何百人もの記者が店内のテーブルにつき、へとへとになるまで大統領から話を聞いたのである。これは世界最長の記者会見となった。経験に乏しい候補者はまたたく間にしたたかな政治家となり、ライバルや批評家に応戦できるまでになっていた。