じじぃの「科学・地球_489_温度から見た宇宙・生命・有機化学・生命誕生」

生命誕生の謎に挑む~タンパク質と核酸の共進化~

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=FjZtXA-t7I8

原始生命体はどのように誕生したのか?


原始生命体はどのように誕生したのか?地球上の最初の細胞は特殊な泡を持っていた(ノルウェー研究)

2021年03月01日 カラパイア
大昔に登場した全生物の共通先祖「原始生命体」はどのように誕生しどんな特徴があったのか?
そうした特徴はどの順番で現れたのか? これはかねてから生物学者があれこれと思索を重ねてきた問題だ。
●原細胞は泡を作る材料を利用できた
そこでノルウェーオスロ大学のグループは、細胞の中で泡を形成する手助けをしている「リン脂質」に水を混ぜて、それをシリカやアルミニウムといった鉱物に垂らしてみた。すると大きな泡が自然に形成され、さらにその内側にも小さな泡が出来上がったという。
https://karapaia.com/archives/52299682.html

『温度から見た宇宙・物質・生命――ビッグバンから絶対零度の世界まで』

ジノ・セグレ/著、桜井邦朋/訳 ブルーバックス 2004年発行

第4章 極限状況下の生命 より

生命の第3分岐

1970年代後半までは、地表の水たまりの中で単純な有機分子が生成したことによって、生命が誕生したというのが、科学者の一般的な見解だった。1953年の実験で、化学者のスタンレー・ミラーとハロルド・ユーリィは、すべて初期の地球上にあったと想定される、水、メタン、水素、アンモニアを、4リットルのフラスコに満たして密閉した。そして放電と蒸発、凝縮のくり返しによって、大昔の状況を再現した。わずか数日後に、いくつもの有機分子がこの混合体中に見つかった。これらの分子は生命の前駆体だとされたのであった。
このような生命の起源の考えは単純ではあるが、多くの疑問が残った。有機分子の生成は注目すべきものだが、それが生命体の遺伝情報の担い手であるRNAやDNAに変化するしくみは知られていない。ミラーとユーリィの実験に必要なメタン、水、それにアンモニアは、生命が誕生した時には多量には存在しなかったであろうし、初期の地球の表面は、温度の点でも他の点でも、多分生命の誕生にとってかなり悪い条件下にあったようである。1970年代後半に起きたこの論争を経て、科学者たちは、熱水噴出口で生命が誕生したという可能性について考え始めたのだった。
この先鋒となったのは、ジャック・コーリスであった。彼は「クラムベイク1」地点への最初の潜水時に、アルヴィン号の船窓から外を眺めた科学者であった。自分で見た生物に肝をつぶしたコーリスは、母船ルル号上の大学院生に音波通信で「確か深海は、砂漠のようだと考えられていたのではなかったかな」と問い返したのだった。噴出口の周りに群がる豊富な生命を目のあたりにした彼は、ここが生命が始まった場所なのではないかと考えたのである。
海底が小惑星の衝突の影響を比較的受けないことに気づいた彼は、海底が地表に比べて日光や温度の急変に対し影響を受けにくいだろうと考えた。1981年に、コーリスと2人の協力者は、「海中温泉と地球上の生命の起源との関係に関する仮説」と題した論文を発表したのだった。
ちょうどその頃、生物の分類法に大きな変化が起こった。それは”海中温泉”で生命が誕生したという考え方を推進するものであった。1970年代の終わりまでは、生物は、核をもたない単細胞生物である原核生物バクテリアと、その他すべての生物の2つに分類されていた。その他すべての生物は真核生物と呼ばれ、はっきりした核をもっている。それに対して、バクテリアははっきりとした核をもっていない。おそらく遅れて進化した真核生物は、形態、機能、大きさによって4つの界に分けられる。動物、植物、菌類、藻類である。
1960年代半ばに、微生物学者のカール・ウーズはバクテリアの世界を分類する研究を始めた。この研究は当時、かなり挑戦的なものであった。その頃の細菌学の教科書には、「生物を分類するという究極の科学的目標は、バクテリアの場合には達成することができない」と書かれていたのである。この見解を受け入れなかったウーズは、バクテリアを分類するためには、バクテリアの形や機能を顕微鏡で研究するだけでは不十分だと考えたのだった。彼は、分子生物学がこの問題に対する新しい手段となると考えたのである。
新しい手法を用いるにあたって、ウーズは、細胞内でタンパク質が合成される場所にある特殊なRNAに注目した。彼は、遺伝物質の一致の度合いを見ることによって、バクテリアの系統をたどり、2つの種がいつ分岐したかを知ることに成功した。彼はバクテリア年代記録を生みだしつつあった。
1976年に、ウーズは研究仲間にすすめられて、有孔虫を間接的に死滅に導いたメタン細菌を調べてみた。そして、ウーズはすぐに魅了された。それは、メタン細菌が、球や桿(かん)状や、螺旋形など、いろいろな形をしていたからである。また、大きさもいろいろだった。だが、見かけは違うものの、メタン細菌はどれも同じ化学反応を行っていた。機能は同じなのに、形や大きさは違うのである。もしこれらのRNAがウーズの思ったいたものに近かったとしたら、それはバクテリアの分類のためのウーズの方法が正しいことの強力な証明になっていただろう。
ところが、思いもよらぬ事態が生じた。メタン細菌の遺伝子の配列は、バクテリアのものとは似ても似つかなかったのである。ウーズは、それらを古細菌命名した。大部分の生物学者は、彼の研究を無視した。ある研究者は、彼を「解答不能な問題に答えようとしてばかげた技法を使う変人」と呼んだ。しかしルーズや他の科学者たちがメタン砂金の分子生物学的詳細について研究するにつれて、彼の説を支持する証拠が集まり始めた。「変人」は英雄へとなりつつあった。
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古細菌が生命の系統樹の根元近くに位置し、それらが極限環境を好むということは、これらの生き物が地球上で最初の微生物であることを示唆している。残念ながら、進化生物学には常にあいまいさがつきまとう。古細菌は当初私たちが考えていたよりも、はるかに豊富に存在する。これらの生き物は、海洋プランクトンの中や温水の中にもいるし、ある種のものは極域の水中でも生きている。また、すべての超好熱菌が古細菌というわけでもない。アクイフェクス・エオリクスは、90度Cで生存しているが、これはバクテリアである。
最初の微生物は好熱性だったが、おそらくそれは、古細菌でもバクテリアでもなかったのであろう。生命が唯1つの源にさかのぼれると考えるのは、多分、誤りなのだろう。カール・ウーズは、次のように言っている。
  生命の祖先は、特定の生き物、つまり唯1つの生命の系統なのではあり得ない。生命の祖先は、多様な原始的細菌がゆるく手をとりあった集合体であり、それが一体となって進化し、最終的にいくつかの集団に分かれた。これらの集団は、それぞれ、3つの主要な系列の子孫を生みだした。バクテリア古細菌、それに真核生物である。

古細菌とその好熱菌との密接なつながりの発見は、生命がいかに、いつ、どこで発生したかという疑問に答えてくれるものではなかった。この疑問の解答を正しくとらえるには多くの困難があり、その困難には共通の原因がある。それは、科学者たちが、地球の起源の時期と原因については意見が一致しているのに、地球の最初の数億年にわたる温度については不確定なままだからである。