じじぃの「科学・地球_473_量子的世界像・どうやって粒子を光速近くまで加速するのか」

CERN: Upgrading the Large Hadron Collider (LHC)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Xtt-6kH2aSI

Cyclotron

   

Cyclotron

The cyclotron was one of the earliest types of particle accelerators, and is still used as the first stage of some large multi-stage particle accelerators.
It makes use of the magnetic force on a moving charge to bend moving charges into a semicircular path between accelerations by an applied electric field. The applied electric field accelerates electrons between the "dees" of the magnetic field region. The field is reversed at the cyclotron frequency to accelerate the electrons back across the gap.
http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/magnetic/cyclot.html

『量子的世界像 101の新知識』

ケネス・フォード/著、青木薫塩原通緒/訳 ブルーバックス 2014年発行

XⅢ 量子物理学とテクノロジー より

どうやって粒子を光速近くまで加速するのですか

端的に答えるなら「電気で」だ。電荷を持った粒子は電気力で高速にすることができる。そして磁気力が、その粒子の速さを変えることなく、粒子の進む向きを変える。この原理を利用しているのが陰極線管(ブラウン管)だ。管のなかで電子が電気力によって高速に加速され、それから磁気力によってスクリーン上の各点に導かれる。
粒子加速器も、この両方の力を利用している。いわゆる環状マシン(正確には環状でないが)のなかで、粒子――最も多いのは陽子――が磁気力によって円を描くように誘導され、電気力のパルスによってエネルギーをどんどん高くされる。線形加速器では、電気力が粒子――おもに電子――に直線流路を走らせ、磁気力がそれらの粒子を集団にして緊密なビームをつくる。
中性子のように電荷を持っていない粒子は電気力や磁気力を感じないので(内在する磁気が関係してくる微小な力は感じるが)、荷電粒子と同じようなやり方では加速できない。あまりエネルギーの高くない――最高でも数百万eV程度の――中性子は核反応の結果として確保できるので、入射粒子として利用されてきた。しかしそれよりも、物理学者にとっては、きわめて遅い中性子のほうが実験に使いやすい。わざわざ苦労して中性子を減速し、「熱中性子化」することもあるくらいだ。熱中性子化とは、中性子を低温物質の原子にぶつけて跳ね返らせるということを繰り返し、中性子のエネルギーを1eVの何分の1かまで下げてしまうことである(これによって長い波長が得られる)。

20世紀初めの核物理学の夜明け以来、物理学者は粒子をますます高エネルギーにして、物質のさらに奥深くを探らせることをめざしてきた。初めのうちは、天然の放射性物質から得られる入射粒子しか手に入らなかった。最初は放射性崩壊で放出されるアルファ粒子で、のちには宇宙線だ。アルファ粒子は数百万eVのエネルギーを持っていた。宇宙線は、1020eVの超高エネルギーのものが見つかっている。物理学者がこれまでに加速器で出すことのできた最高値より、はるかに高いエネルギーだ。しかし、豊富に得られるわけではなく、やってくる方向も時間もランダムで、多くの異なるエネルギーが混在してもいる。したがって莫大な費用をかけてでも、制御された高強度のエネルギービームを得たいと思うのは当然のことなのだ。
1920年代の最初期の加速器は、高電圧を使って必要なだけの電気力を確保し、直径経路を走る陽子を数十万eVのエネルギーにまで上げていた。1932年、カリフォルニア大学のアーネスト・ローレンスが最初の環状マシンを発明した。これがのちにサイクロトロンと呼ばれるもので、巨大な「たらい」を思い描いてもらうといいだろう。直径のほうが高さよりも長い平たい円筒で、直径で分断され、2つのD字形をした空洞をつくっている(図.画像参照)。陽子(または重陽子かアルファ粒子)は磁場で誘導されてこの空洞の内部を半周したあと、2つの空洞のあいだのギャップ(切れ目)を渡るときに、電気力によって少しばかり速さを上げられる。その速さでもう一方の空洞に入ると、前よりも大きな半径の半円をまわる。それからふたたびギャップを渡り、また速さを上げて、さらに大きな半径軌道を半周する。こうしてぐるぐると回りながら、最後には空洞の外縁に接しそうになるぐらいまで円軌道を広げる。その後、空洞から「引き出され」て(やはり磁気力により)、入射ビームとして利用される。
サイクロトロンの最大の特徴は、粒子が半円をまわるのに要する時間が、粒子の速さにかかわらず(ただし光速よりずっと遅ければ、だが)つねに同じであることで、そのため、毎秒数百万回で送らなくてはならない電気パルスを等しい時間間隔で(つまり一定の振動数で)送ることができる。これは加速器を簡素化する重要な特徴だ。
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現代の円形加速器は「シンクロトロン」と呼ばれる。これは中心部を取り去ったサイクロトロンと同じようなものだ。サイクロトロンでは粒子を中心部から外側に向かって周回させるが、シンクロトロンでは一定半径の軌道を保った粒子を磁石の誘導によって周回させながら、電気力を周期的にパルス状にかけることによって加速する。粒子のエネルギーが上がり、速さが増して光速に近づくごとに、粒子を偏向させるのはますます難しくなる。したがって粒子のエネルギー増加に応じて磁気力も着実に上がっていかなくてはならない。
スイスのジュネーブにある大型ハドロン衝突型加速器LHC)では、このシンクロナイズされた電気と磁気のダンスがきわめて精密に調整されている。スイスとフランスの国境をまたぐ、深さ平均100メートル、円周27キロメートルの環状地下トンネルのなかを、直径5センチほどの管に入った粒子が、猛スピードで毎秒2万回も周回する。LHCでは最終的に、7TeVのエネルギーを持った2個の粒子が衝突して、合計14TeVのエネルギーを実現する予定だ。これは加速器界の世界記録である。2位の加速器はシカゴ近郊のフェルミラボの持つテバトロンだが、LHCはそのエネルギーの7倍にもなり、一般的あサイクロトロンのエネルギーに比べれば10万倍も高い。
いまや円形加速器が主流だとはいえ、線形加速器も消えてはいない。線形加速器でおもに使われる粒子は電子である。電子は円形加速器のなかでだと、放射(光子の放出)でエネルギーを失ってしまうのだが、線形ならその問題はない。線形型加速器の現時点での記録保持者はカリフォルニアのSLAC国立加速器研究所にある、全長3キロメートルのスタンフォード線形加速器で、ここでは電子が50GeVまで加速されている。電子は基本粒子なので、一種の「純粋性」を持っている(つまり、お荷物がない)ために、明確な大きさがあって構成要素のクォークを含んでいる複合粒子の陽子より、場合によっては素粒子実験に適している。