じじぃの「歴史・思想_618_宮本弘曉・日本の未来・日本的雇用慣行の功罪」

G7: Its purpose & history of influence | An informal club of wealthy democracies | WION

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-Y7c1mGlxu0


Social Mobility Index

Landgeist
Social mobility is the movement of individuals or families within or between social strata. It can be measured in reference to a wide range of outcomes, such as health, education or economic situation.
https://landgeist.com/2021/03/25/social-mobility-index/

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第4章 日本再生の鍵を握る「労働の未来」 より

メガトレンドの変化が労働に与える影響

労働を必要とする経済主体は企業です。企業の第1の目的は人々を雇用することではなく、財やサービスを消費者に販売し利益を得ることです。そのために、企業は労働者を雇ったり、設備投資などを通じて、財やサービスの生産を行なうのです。
つまり、企業が労働者を雇うのは生産活動を行うためです。これは、生産活動がなければ雇用も生まれないことを意味します。それゆえ、雇用は生産な派生需要と言われます。
雇用が生産の派生需要であれば、労働は企業の生産活動に左右されることになります。つまり、労働市場を取り巻く経済・社会環境が変化すれば、それに伴って雇用のあり方、そして、労働市場は変化せざるを得ないということです。
今、日本の雇用、働き方が変わりつつあります。いや、変わらなくてはいけません。それは日本経済を取り巻く環境が変わっているからです。つまり、メガトレンドが変化しているからです。
しかしながら、日本の雇用はこれまでメガトレンドの変化するように変革がなされてきませんでした。その結果、現在、労働に関わる問題が数多く発生しています。
また、今後は、高齢化を伴う人口減少、テクノロジーの進歩や経済のグリーン化がますます進みます。労働市場を取り巻く環境が大きく変わる中、日本人の労働、働き方はどうなるにでしょうか? ここでは、日本の雇用が現在、抱える課題とその未来をメガトレンドの変化に注目しながら考えていくことにしましょう。

日本的雇用慣行の功罪

日本の労働市場の特徴として、「終身雇用」や「年功賃金」といった日本的雇用慣行があげられます。日本的雇用慣行は大企業や官庁を中心に幅広く普及しているもので、個々の企業ごとに円滑な労使関係のペースとなり、戦後の経済を支え、世界からも称賛されたものです。しかし、日本経済を取り巻く環境の変化により、日本的雇用慣行は時代遅れのものとなり、その結果、うまく機能しないどころか、経済社会に様々な弊害さえ生み出しています。
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日本的雇用慣行のもとでは、夫が世帯主として外で働き、妻は専業主婦として家を守る世帯が基本となりました。つまり、日本の雇用慣行のもとでの標準的な労働者というのは「妻が専業主婦である男性正社員」でした。これは、高齢者や働く女性、非正社員が日本的雇用慣行の枠外の存在であるということです。これは現在の日本の労働市場が抱える問題を考える際の重要なポイントとなります。
ところで、日本的雇用慣行はいつ、どのようにうまれたのでしょうか? 日本的雇用慣行の起源についてはいくつかの学説がありますが、それが日本の産業界に広く普及して、定着したのは、第2次大戦後、その背景には戦後の高度経済成長と若い人口構造があったとされます。
日本経済は戦後、西欧先進国を目指してキャッチアップを続ける過程で驚異的な経済成長を実現しました。1955年から70年ごろまで、経済成長率は年平均10%と高いものでした。
経済が急速かつ持続的に成長したため、労働需要が拡大、企業は雇用を増やし続けました。当時は、人口構造が若く、若年労働者の供給が豊富であったため、企業は卒業を迎えた学生を定期的に大量に雇い入れていきました。これが今も続く新卒一括採用の始まりです。
労働力を調達、訓練し定着させることが企業にとっての市場命題となり、雇用整理や人員整理などを考える暇はありませんでした。その結果、労働者はひとたび企業に雇われると解雇されるのを心配することなく、退職年齢まで雇用が保障されると思い込むようになったのです。雇用は安泰という観念が生まれ、それがいつしか社会的通念として定着、終身雇用となりました。
また、所得水準向上に伴う賃上げと企業が提供する訓練によるスキル向上に伴う昇給により、年々、賃金は上昇しました。その結果、勤続年数とともに賃金が上昇する年功賃金が日本で普及していったのです。

硬直的な日本の労働市場

技術革新や経済のグリーン化が今後、ますます進むと、経済の構造が大きく変わり、新しい産業が生まれると同時に、既存の産業が衰退する可能性があります。
そこで、鍵となるのは、労働市場の柔軟性です。労働市場が硬直的だと、労働の再配分がスムーズに行われず、結果として、経済成長の足枷となります。今後、メガトレンドが大きく変わる中、日本経済が再生するかどうかは、労働市場のあり方に左右されるといっても過言ではありません。
ここで、日本の労働市場がどの程度、柔軟なのか、言い換えれば、どのくらい流動的なのかお確認しておきましょう。
労働市場流動性の度合いを測るものとしてよく使用されるのが転職率です。
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最近、「転職は当たり前」ということを耳にする機会が増えました。実際、転職者は過去よりも増えています。しかし、転職者比率に大きな上昇は見られず、必ずしも労働市場が流動的になっているとは言えません。
ところで、日本の転職率は他の先進国と比較して高いのでしょうか? それとも低いのでしょうか?
労働市場が流動的なアメリカと比較してみましょう。アメリカでは「ジョブ・ツー・ジョブ・トランジション(Job to job transition)」と呼ばれる、失業を経由しない転職が活発です。2000年代後半の世界金融危機後、その転職率(ジョブ・ツー・ジョブ・トランジションレート)は以前よりも低下していると指摘されているものの、それでも労働者はが月平均2%で職を変更しており、日本の転職率(年平均5%弱)よりはるかに高くなっています。
また、平均勤続年数を日米で比較すると、日本の13.3年に対してアメリカでは4.3年と、日本の勤続年数はアメリカの3倍以上の長さとなっています。
アメリカでは学卒後に労働者は数年間転職を繰り返した後、比較的長期にわたり同一の職場で働くのが一般的です。米国労働局が2017年8月に発表した調査結果によると、1957年から64年に生まれた個人は、18歳から50歳の間に平均して11.9のの仕事についており、これらの仕事のほぼ半分が18歳から24歳の時のものだとされています。
また、同調査は、勤続年数はその仕事に就いた時の年齢が低いほど長くなる傾向にあることも明らかにしています。35歳から44歳の労働者を見るとその約3分の1の勤続年数は1年以内で、勤続年数から5年以内となるものの割合は75%にもなります。
転職により賃金が大きく上昇するのもアメリカの特徴のひとつです。労働市場に参入した後、最初の10年間の労働所得上昇のうち、約4割は転職によるという研究報告もあります。
労働市場流動性は、雇用制度からも大きく影響を受けます。そこで、次に、制度的な側面から日本の労働市場流動性を見ておきましょう。
カナダのシンクタンクであるフレーザー研究所(Fraser Institute)が毎年発表するレポート「Economic Freedom of the World」の中に、労働市場の柔軟性を表す指標があります。
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ここからわかることは、日本は、賃金交渉については他国よりも柔軟であるものの、採用や解雇についてはその規制が強く、決して柔軟だとは言えないということです。こうした硬直化する労働市場の問題をどのように解決すればよいかは、次章で詳しく論じます。