SpinLite Car Wash Equipment | The Future of Car Washing 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gZiQ8IIOT2k
洗車のパラドックス
『世界を変えた14の密約』 ジャック・ペレッティ/著、関美和/訳 文藝春秋 2018年発行
ロボットと人間の未来 より
この人類にとっての分かれ道で、ある問題が浮かんでくる。勝利への最高の戦略はなにか? どんな人間を作ったら勝てるのか? ロボットか、それともルール破りか?
テクノロジーは昔から人間の生活をロボット化してきた。健康アプリやウェアラブルデバイスを使って、わたしたちは生産性を管理する。インタスタグラムやフェイスブックやツイッターから離れられない。会話はメールに少しずつ置き換わり、公共の場所ではスクリーンに目を落として人との接触を遮断し、データに基づく改善を要求し続ける。機械のような最高の自分を作りだそうとする。自動化された自分を。
ロボットが人間らしくなりつつある中で、人間はロボットに近づいている。職場での生き残りという点で、これはいいことか、それとも悪いことか? 人間の行動をこれからも自動化し続け、ロボットを超えたロボット人間になるべきなのか? それとも殻を破ってわたしたちのUSP(Unique Selling Proposition、独自の売りの提案)を最大限に高めるべきか? つまりもっと人間らしさを追求すべきなのか?
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ロボット革命は人間の仕事を奪うのではなく、低賃金の膨大なルーティーンまたは非ルーティーンの労働集約的な仕事を生み出し、完全雇用を実現するだろう。最初の産業革命と今回が違うのは、労働の価値がなくなるという点だ。企業は払いたい賃金を払うことができ、人間はそれをありがたく受け取るようになる。
これが、ロボットスワップだ。ロボットが上司になり、仕事の配分を管理するようになると、人間はアルゴリズムが決める効率性に従って働くロボットになる。
わたしたちはそのはじまりを目にしつつあるものの、超低所得の完全雇用というパラドックスを理解できずにいる。というのも、いまだに賃金上昇と20世紀前半の完全雇用を前提にした経済の枠組みの中にいるからだ。わたしたちはまだそれを理解できていないが、いずれ理解するだろう。
一見相反する経済トレンドが同時に起きるのが、ロボット時代の特徴だ。雇用は上がり、賃金は下がる。生活できないほどの低賃金と不安定な条件での雇用が、「完全雇用」として報告される。これがロボット時代の決定的に皮肉な点だ。ロボットは人間の完全雇用を実現するが、賃金は10分の1になる。
この矛盾した制度が社会不安につながらないためには、もうひとつの条件が必要になる。食事や光熱費などの生活必需品の物価が歴史的な低水準に留まることだ。
しかしそうはいかない。物価は上がりはじめているロボットスワップは、賃金の範囲内で生活できるときにだけ、うまくいく。物価が上がれば、賃金も上がらなければならないし、そうなれば労働価値はふたたび上がる。日本、デンマーク、スウェーデン、スイスでは、政府がインフレを抑え通貨価値を上げるために、マイナス金利も受け入れている。
2017年2月、国家統計局(ONS)の上級統計家、デイビッド・フリーマンは、この矛盾がどう保たれているかを説明した。「もう10年以上も失業率は歴史的な低水準だが、賃金増加も歴史的水準に抑えられたままだ」
その一方で、ロボットは完全雇用された低賃金労働者を監視するようになっている。経済学のポール・メイソンはこの矛盾を「洗車の経済」と呼んでいる。
1970年代の自動洗車機じは、人手をかけずに車をピカピカに磨いてくれた。大きくてふわふわのブラシが車を囲み、汚れひとつないよう輝かせてくれていた。
しかし2010年以降、意外なことが起きた。自動洗車機が消えて、何人ものひとが車の周りに集まってスポンジと布で必死に車を磨くようになったのだ。1970年代にガレージの真ん中にこれ見よがしにおかれていた自動洗車機は、もう人に見せたい機械ではなくなった。今では安っぽいデッドスペースにひっそりと隠されている。古い自動車廃棄場やさびれたガソリンスタンドの正面にある。時おり見かけても、数日もするとまた消えている。
機械に置き換わった人間は、機械の半分の時間で洗車ができる。彼らはいい仕事をする。失業を死ぬほど恐れているからだ。そして、ここが重要なところだ。人間の方が安い。
自動洗車機はよく故障していたし、メンテナンスや人の注意が必要だった。約束したような輝かしい未来ではなく、頭痛の種になり、元も取れなくなった。自動洗車機は、すべての仕事がどうなるかを示すものだ。自分で自分の面倒を見られる人間が、タダ同然の機械に置き換わる。失業をほのめかすだけで、人はもっと必死に働くようになる。
これが仕事の未来だ。ワトソンは制御室に居座って、その青い目で、あなたやわたしが1時間に何台の車を洗車できるかを、まばたきもせず監視している。