じじぃの「歴史・思想_503_日本の論点2021・ジョブ型雇用は日本の会社を変えるか」

日本の雇用は変わるのか?激化する人材獲得競争…雇用流動化の着火点は 【2月21日(月) #報道1930】

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「ジョブ型雇用」とは? 働く人へのメリット・デメリットは?(日経気になるキーワード)

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来年春闘、テレワーク拡大で「ジョブ型」が焦点に

2020.11.29 SankeiBiz
来年の春闘に向けた方針策定の議論が、経営側と労働組合側でそれぞれ佳境を迎えるなか、欧米で主流の「ジョブ型」という働き方が、大きな論点になっている。
もともと経営サイドが導入・拡大を求め、労組が反対する構図だった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、業務を明確に指示することが求められるテレワークや在宅勤務が広がり、労組側もジョブ型雇用における業務規定の明確化に言及するなど、情勢が変化している。
これまでの日本型雇用システムは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列などを基本とした「メンバーシップ型」だ。これに対し、特定の職務(ジョブ)や役割を遂行できる能力や資格のある人材を社内外から充てるのがジョブ型雇用だ。
https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/201129/ecd2011291741002-n1.htm

『これからの日本の論点2021』

日本経済新聞社/編 日経BP 2020年発行

論点12 「ジョブ型」は日本の会社を変えるか より

【執筆者】水野裕司(上級論説委員編集委員

課題が噴出するメンバーシップ型

はじめに「ジョブ型」雇用とは何かを押えておきたい。「メンバーシップ型」と呼ばれる、これまでの持本型雇用との対比で整理するとわかりやすい(画像参照)。参考になるのが、2020年1月に経団連が公表した「2020年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」だ。
「転換期を迎えている日本型雇用システム」と題した節で、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の特色について解説している。これに沿ってジョブ型の意義を見ていこう。
まず、メンバーシップ型雇用について、経労委報告は「職務を限定せず社内で様々な仕事を担当させながら成長を促す人材育成プロセス」「勤続年数や職務経験を重ねるに伴って職務遂行能力(職能)も向上するとの前提で毎年昇給する」仕組みであると言い表す。前者は新卒一括採用、長期・終身雇用に支えられている。後者は年功型賃金のことだ。
社員にとって入社時の雇用契約は、会社という組織の一員になる資格(メンバーシップ)を得る意味がある。そのメンバーシップ型雇用には次のようなメリットがあると経労委報告は指摘する。企業は中長期的な視点で自社に適した社員を育成できる。社員にとってはさまざまな職務経験を通じて多様な職能を備えることが可能となる。年功型賃金によって社員は人生設計を描きやすくなり、定着率や会社への信頼の高さにもつながる。
しかし、課題も噴出しているという。社外でも通用する力を持ったエンプロイヤビリティー(雇われる力)の高い社員は育ちにくい。意欲がある若者や高度な専門性をもった人材や、優秀な外国人材の獲得が難しくなる。「イノベーティブで付加価値の高い仕事を遂行でき、成果をあげられる人材が、画一的な人材育成施策や年功型賃金によって自分自身の生長と活躍の機会が失われていると感じ」ている可能性もあるとし、危機感は強い。

日立の人材マネジメント改革

日本的な組織を根本から変える改革になるジョブ型雇用の制度導入に、日本企業でいち早く動いたのは日立製作所だ。中西宏明会長は経団連会長として、経済界に新卒一括採用の慣行の見直しを呼びかけるなど、日本型経営の改革を牽引してきた経緯がある。ジョブ型雇用の実践には、そうしなければ企業はこれから立ちゆかなくなるという危機感が見える。
日立は2024年度までにジョブ型雇用を社内に定着させたいとしている。ジョブ型の本格導入に向け、段階的に人材マネジメントの見直しを進めてきた。それだけに日立の取り組みは、他の日本企業の参考になる点も多い。
主だった人材マネジメント改革は次のとおり。2013年度に世界の管理職5万ポジションを役割の重さなどによって格付けし、処遇に反映させた。さらに2015年度から2018年度にかけて世界共通の人材データベースを構築、2021年度からグループ全30万人の情報を載せる。評価やスキル(技能)、職務履歴などの人材情報が一元管理されるこのシステムは、「人材の見える化」にあたる。
また2020年度からは、国内の非管理職についてジョブディスクリプション(職務記述書)づくりを進めている。これは各ポジションに必要なスキルや経験を整理する作業で、「職務の見える化」にあたる。
人と職務の両面で可視化を推進してきたわけだ。何が狙いかといえば、グループ内で人材を柔軟に配置できるようにするためだ。社内の人材流動性を高める仕組みは、職務ごとに最適な人材を配置するというジョブ型雇用の根幹にあたる。

人材流動性の向上がカギ

つまり、ジョブ型雇用とは「人材の流動性の高い組織をつるため仕掛け」と言い換えることができる。そこから、ジョブ型雇用の本質も見えてくる。組織・人事コンサルタント大手マーサ―ジャパンの白井正人取締役は、「ジョブ型雇用のベースには、会社と個人の対等な関係がある」と言う。社員は自分が担う仕事や役割について、会社と合意したうえでそのポジションに就き、結果についても降格などのかたちで一定の責任を負からだ。
これまで日本企業では、会社と個人が対等などとはとても言えなかった。社員は雇用を保障されることで最初から立場が弱く、「主従関係」にあるかのような上司と部下の関係はパワーハラスメントパワハラ)の温床なってにもいる。ジョブ型雇用は、組織のこうした力関係を崩す可能性を秘めているといえるだろう。
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ジョブ型雇用は自分のキャリアに対する個人の意識を高める制度なだけに、優秀な人材が辞めていくリスクも増すという。ある日突然、退職を告げられる事態を防ぐには、日ごろから社員と意志疎通を深めておくことが肝要だ。

日立の社内では、上司が部下と個別に、かつ定期的にテーマを決めずにやり取りする「ワン・オン・ワン」と呼ぶコミュニケーション手法が広がりはじめている。社員の悩みや課題に耳を傾け、助言する。風通しのよさや信頼関係は、ジョブ型雇用になっても組織運営の基本だ。

個々人の職務を明確にするジョブ型になると、日本企業の強みであるチームワークの良さが失われるのではないかという指摘もあるが、日立製作所人材部門の中畑英信執行専務はその心配はないと言う。「ジョブディスクリプションの『ミッション・役割』の項のなかに『社内関係者・同僚と協働しながら』といった文言を入れるのは、欧米企業でも珍しくない」。
海外では、運用のしやすさと重視し、ジョブディスクリプションを精緻につくるのは主流ではないともいわれている。こうしたジョブ型雇用を成功させるための欧米企業の知恵を、日本企業は研究する必要もあるだろう。