じじぃの「歴史・思想_615_宮本弘曉・日本の未来・7つの分野・教育」

TOP 20 UNIVERSITIES IN THE WORLD | TOP UNIVERSITIES

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=4HXTkL75nGY


   

OECD、2020年版「図表でみる教育」を発行

2020.09.14 教育とICT Online
初等教育から高等教育までの公財政支出OECD平均の4.9%に対して、日本は4.0%
日本は家計からの教育支出が3409ドルと多く、米国(5814ドル)、英国(4665ドル)、オーストラリア(4505ドル)に次いで4番目になり、教育に対する家計負担が重いことが分かる。
ただし、日本は2020年4月から私立高校授業料実質無償化(高等学校等就学支援金制度)と、大学など高等教育の無償化(授業料等減免制度)が始まっており、対象となる家計の負担は大幅に下がっている。
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/091400129/

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

                  • -

『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第2章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(前編)――メガトレンドの変化が影響を与える「7つの分野」 より

ここまで、日本・世界経済を取り巻く3つのメガトレンドの変化――「人口構造の変化」「グリーン化」「テクノロジーの進歩」について見てきました。これらのメガトレンドの変化は社会に様々な影響を与え、私たちの生活や働き方すら一変させます。
本章及び次章では、これら3つのメガトレンドが影響を与える「7つの分野」に注目して、それぞれの分野の現状と課題、そしてその未来図について考えます。その7つの分野とは次の通りです。
 1.経済成長
 2.財政
 3.医療・健康
 4.農業・食料
 5.教育
 6.エネルギー
 7.地方・住宅問題
もっとも、これらの分野はそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響しあうものです。例えば、人は年をとると病気になりやすくなったり、怪我をしやすくなったりします。つまり、高齢化が人々の健康に影響を与えた結果、医療や介護にかかる費用が増加します。これは社会保障費の増加を通じて、国の財政悪化につながります。

第3章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(後編)――メガトレンドが影響を及ぼす分野⑤ 教育 より

拡大する教育市場、エドテックの広がり

世界では教育市場が急速に拡大しています。
教育市場の調査を専門とするHolon IQによると、世界の教育市場の規模は、2010年には約4.2兆ドルでしたが、2020年には約6.5兆ドルと、10年間で1.5倍になっています。世界の自動車産業の市場規模は約3.6兆ドルなので、教育市場はそれよりもはるかに大きなものとなっています。Holon IQは、世界の教育市場の規模は、2030年には約10兆ドルに達すると予想しています。
こうした拡大の背景にあるのは技術進歩です。こうした拡大の背景にあるのは技術進歩です。世界では今、教育にデジタルテクノロジーを導入する動き「エドテック(Edtech)」が進んでいます。エドテックとはEducation(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、今から10年ほど前にアメリカで生まれた言葉です。エドテックの定義は定まっていませんが、「教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取り組み」のことをいいます。
世界におけるエドテックの市場規模は2020年に2270億ドルとなっており、教育市場に占める割合は約3.6%となっています。

日本は教育への公的投資が低い

日本は学生・生徒1人の教育にどれくらいお金をかけているのでしょうか?
図(画像参照)は初等教育から高等教育における学生・生徒1人当たりの教育機関向けの年間支出を見たものです。2017年に日本の支出額は1万1896ドルとなっており、これはOECD平均の1万1231ドルをわずかですが上回っています。なお、日本の教育支出額はG7の中ではイタリアに次いで引く、G7で1番支出額が多いアメリカの1万7993ドルの約66%となっています。
ここで見ている学生・生徒1人あたりの教育機関むけの年間支出額は、国や地方自治体からの教育のための公的な支出(公的負担)と、学習者やその家庭から支出される授業料等の教育支出(私費負担)の合計です。教育支出に占める私費負担の割合をみると、日本は28.7%となっており、調査対象国の中ではアメリカに続く、第6位となっています。これはつまり、日本では公的な教育支出の割合が諸外国に比べて低いことを意味します。
    ・
日本の政府支出に占める公財務教育支出の割合は、2000年には9.4%、2010年には8.4%、そして、2017年の7.8%と減少傾向にあります。この間、社会保障費が政府支出に占める割合は約1.7倍に拡大しています。つまり、公的な教育投資は対GDP比でも低く、政府の財政に占める教育費の割合も減少傾向にあります。
もっとも、より多くのお金を使えば教育成果が上がるかというと必ずしもそうではありません。OECDが実施している「学習到達度調査(PISA)」のテスト結果からは、1人当たりの5万ドル未満を投資する国々では、教育投資額とPISAテストの点寸に強いプラスの相関関係がみられますが、そのレベルを超える大半のOECD加盟国では、生徒1人当たりの投資額と学習成果には相関関係がみられません。
ここから教育が成功するかどうかはどれだけの予算が投じられたかではなく、その予算がどのように使用されたかが重要であるかがわかります。
ただし、教育への支出額が学習成果とは必ずしも関係がないからといって、日本の低い公的教育支出が問題がないというわけではありません。
公的な教育支出額が少なければ、学習者もしくはその家庭が負担する教育費が増加します。実際、先述の通り、日本の教育に関する私費負担は諸外国よりも高くなっています。学習者ないし家庭がに思い教育負担がのしかかれば、本人あるいは家庭の所得水準によって進学の機会が左右されることになり、教育の機会均等が達成できなくなります。収入格差が教育機会の格差に直結することは既存の研究でも指摘されています。

時代遅れの教育、教育の質劣化

ここで日本の教育の現状を確認しておきましょう。データからは、日本では、義務教育は決して悪くはありませんが、高等教育は低評価となっていることがわかります。
先ほど、OECDが世界の15歳児を対象に行っているPISA調査についてふれました。最新の2018年の調査では、79ヵ国・地域の15歳、約60万人が参加し、その中心分野である「読解力」では、日本は15位と、前回調査の2015年の8位から大きく後退しました。他方、数学リテラシーは5位と、世界のトップレベルを維持しています。もっとも、PISA調査がはじまった2000年の結果と比べてと、どの分野でもその順位を下げており、長期的に日本の教育が「劣化」していることがわかります。
大学に目をむけると、世界における日本の位置づけは低いことがわかります。イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション2022』によると、世界のトップ200に入っている日本の大学は東京大学(35位)と京都大学(61位)のみです。世界のトップ200に入っている大学数を比較すると、アメリカが57校で1位。次いでイギリスの28校、ドイツの22校となっています。同じアジア圏でも中国は10校、香港も5校となっており、日本の大学の評価が低いことがわかります。
また、2011年のランキングでは、世界のトップ200に日本の大学は5つランクインしていたので、この約10年で日本の大学の評価が下がったことがわかります。
なぜ、日本の教育レベルは低下したのでしょうか?
大学の評価が下った理由のひとつとして、少子化があげられます。18歳人口は、1992年度度に団塊ジュニア世代が約205万人とピークに達しましたが、その後は減少傾向にあり、2020年度には約117万人まで減っています。
その一方で、大学や学部の新増設などで大学の定員総数は増加しています。2020年4月入学の国公私立大学の定員総数は約61万9000人ですが、これは20年前と比べて10万人以上増加しています。2020年の大学志願者数は約66万5000人と定員よりは多いものの、実質的な「大学全人」状態となっています。18歳人口は今後も減ることが予想されているため、統計上も大学全入時代となる日が近づいています。
こうした中、難易度が高い有名大学や、カリキュラムや学習環境などの改革を通じて学生を集められる大学は競争力を保っているものの、日本私立学校新興・共済事業団の2020年度調査によると4年生の私立大学の31%が定員割れを起しており、経営が厳しくなっています。大学経営のため、学生の獲得競争が進む、本来、大学生になる準備のない高校生を競って入学させるため、全体として学生の質が低下しています。
    ・

にもかかわらず、学校で行われている授業は、親世代、そのまた親の世代と比べてあまり変わっていません。メガトレンドの変化により、経済社会が大きく変わり、新しいビジネスやルール、価値観が生まれている中で、教育システムが変わっていないことが、日本の教育が世界レベルからかけ離れてしまった大きな要因となっています。