じじぃの「歴史・思想_617_宮本弘曉・日本の未来・7つの分野・地方・住宅問題」

なぜ日本の住宅は資産になりにくい!?空き家問題はなぜ起こる? (ショート動画総集編)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2dyq1BUxiU0

国が公表している既存住宅流通シェアの国際比較


既存住宅市場の現状-(1) その市場規模:データトピックス

不動産ジャパン
●欧米と日本の市場比較
わが国の既存住宅市場を説明する場合、頻繁に紹介されるデータとして既存住宅流通シェアの国際比較という数字があります(図表1)。
それによると、日本の新築着工戸数は2013年時点で98万戸ですが、既存住宅流通量は17万戸弱で、全体に占める既存住宅取引の割合は14.7%にとどまります。
https://www.fudousan.or.jp/market/1504/04_01.html

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第2章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(前編)――メガトレンドの変化が影響を与える「7つの分野」 より

ここまで、日本・世界経済を取り巻く3つのメガトレンドの変化――「人口構造の変化」「グリーン化」「テクノロジーの進歩」について見てきました。これらのメガトレンドの変化は社会に様々な影響を与え、私たちの生活や働き方すら一変させます。
本章及び次章では、これら3つのメガトレンドが影響を与える「7つの分野」に注目して、それぞれの分野の現状と課題、そしてその未来図について考えます。その7つの分野とは次の通りです。
 1.経済成長
 2.財政
 3.医療・健康
 4.農業・食料
 5.教育
 6.エネルギー
 7.地方・住宅問題
もっとも、これらの分野はそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響しあうものです。例えば、人は年をとると病気になりやすくなったり、怪我をしやすくなったりします。つまり、高齢化が人々の健康に影響を与えた結果、医療や介護にかかる費用が増加します。これは社会保障費の増加を通じて、国の財政悪化につながります。

第3章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(後編)――メガトレンドが影響を及ぼす分野⑦ 地方・住宅問題 より

私たちが日常生活を送るために必要な各種サービスは、一定の人口規模の上に成り立っています。つまり、人口が減少すると、地域の存在基盤である生活必需サービスの維持が困難になり、日々の生活が不便になるおそれがあります。
国土交通省は、全市区町村の約3割が2050年までにその人口が2015年の半分未満になると予想しています。特に、地方での人口減少は深刻で、地域経済の疲弊につながっています。
こうした中、地方創生の鍵として注目されているのが、テクノロジーの活用やグリーン化です。人口構造の変化、テクノロジーの進歩、グリーン化というメガトレンドは、地方が抱える問題を考える際にも重要なのです。
また、少子高齢化や人口減少などの理由により、社会問題となっているのが空き家の増加です。
ここでは、地方経済とメガトレンドの関係、そして空き家問題について考えることにしましょう。

東京圏への一極集中の現状

地方における人口減少の理由は少子化だけではありません。若年層を中心に地方から都市圏へ大量の人口移動が生じていることもその要因です。
現在、東京圏には約3700万人、日本の総人口の約3割の人が住んでいますが、欧米の比較的人口の多い国では、首都圏の人口比率は5~15%であり、日本の東京圏への一極集中の度合いは相当高いものになっています。
東京圏への転出入の状況をみると、2020年の転入超過数はやく9万8000人となっています。新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、2019年の約14万6000人から大きく減少したものの、依然として東京圏への人口集中は改善されていません。
2020年の東京圏への転入超過の内訳をみると、15~29歳の若年層が転入ちゅかの大部分を占めています。また、転入超過数を男女別でみると、2020年は男性の約4万2000人に対し、女性の転入超過数が男性を大幅に上回っています。
このように地方から大都市圏へ移動した人の中心が若年層であり、しかも女性が多いことは地方の人口減少のスピードを速める要因となっています。というのは、将来子供をもつ可能性が高い若年層の移動は、単に地方の人口を減少させるのにとどまらず、人口の再生産能力を大都市圏に流出させることになるからです。
人口が減少すればするほど、地方では日常の買い物や医療、公共交通など生活に不可欠なサービスの維持が難しくなっていきます。それだけではありません。若者や子供がその地域から都市圏に流出してしまうと、学校は生徒が確保できないため廃校になり、また、労働力不足により地域の企業活動が停滞する可能性があります。実際に、経営者の後継者不足により地域経済を支える企業が消滅する懸念が生じています。
魅力的な働く場所がなくなると、ますます若者が流出、その地域でさらに少子高齢化が進むという悪循環につながります。また、働き手が減れば税収も減少します。その一方、高齢化が進むと社会保障費などの行政コストがかかるため、地方自治体の財政を圧迫します。さらに、人口の流入があり、人口がそれほど減らない大都市部と人口減少が進む地方で格差が拡大することも考えられます。

なぜ、空き家が増えたのか?

なぜ、日本では空き家が増えたのでしょうか?
まず、世帯数の増加をはるかに上回る住宅の新規供給が続いたことがあげられます。2014年度から2018年度の5年間における住宅新設着工戸数は約467万戸、住宅の滅失戸数は約56万戸で、総住宅数は約411万戸増加しました。
この間、世帯数の増加は約211万世帯であり、結果として約200万戸の住宅余剰が発生しています。このように、日本の住宅市場では超過供給が継続して発生しており、空き家増加の一因となっています。
また、相続も空き家が増加した要因のひとつです。国土交通省の「平成26年空家実態調査」では、空き家となった住宅の取得経緯を調査していますが、空き家の56.4%が相続みよって取得したものとなっています。
コストの問題も空き家が増加した理由としてあげられます。相続等により家を取得した者が、家屋解体等の費用の問題から、空き家のままにしているケースが少なくありません。実際、前述の国土交通省の調査では、空き家にしておく理由として、「物置として必要だから」に次いで、「解体費用をかけたくないから」が2番目に挙げられています。
税制も空き家の増加を促したと考えられています。土地に建物が建っている場合、固定資産税が最大6分の1、都市計画税が3分の1になる住宅用地の特例措置について、2014年度までは空き家を含むすべての住宅に適用されていました。そのため、土地にかかる税金を安くするために空き家を放置する人が大量に発生し、問題となっていました。
しかし、この制度については、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置歩」によって、空き家に関しては住宅用地の特例が適用されなくなりました。
根本的な問題は日本の中古住宅市場にあります。中古住宅市場が活発活発であれば、相続した一戸建てや分譲マンションを中古住宅として売買できるので、相続等で家を取得した人は空き家のオーナーになる必要はありません。しかしながら、日本では既存住宅を買う人が多くないため、流通も少ない状況です。
図(画像参照)は既存住宅の流通を国際比較したものです。全住宅流通量(既存流通+新築着工)に占める既存住宅の流通シェアは、日本では2018年に約14.5%となっていますが、これは欧米主要国に比べると6分の1から5分の1程度の低い水準です。既存住宅の流通シェアはアメリカでは81%、イギリスでは85.9%とともに8割を超えています。フランスは69.8%と少し低くなりますが、それでも日本の5倍近い水準となっています。
日本で既存住宅の流通が乏しい理由としては、住宅に関する情報の非対称性があげられます。消費者は中古住宅を購入する際に、その品質や隠れた不具合などについて不安を抱えているものの、住宅の性能が明らかにされておらず、買い手と売り手の間に情報の非対称性が生じています。特に、木造戸建ての住宅については、築後20年程度で一律に価値をゼロと評価する慣行が存在するなど、中古住宅の価値付けにマーケットメカニズムが働いていない現状があります。
また、新築購入を重視する政策が長期間にわたり進められてきた影響で、「家の購入=新築購入」という「新築信仰」が消費者間に広く浸透したことも、中古住宅市場が成熟しなかった理由として指摘されています。
住宅に関しては、マンションの老朽化も問題になっています。日本では地方から都市への人口流入が続き、都市での居住場所としてマンションが大量に供給されてきました。今後はこれらのマンションの老朽化が進むことが見込まれています。
国土交通省によると、2019年末時点で、築30年以上のマンションは全国で約213万戸存在していますが、2029年には1.8倍の384万戸、2039年には2.7倍の570万戸に増加すると予想されています。
マンションの老朽化に伴うのが大規模修繕工事の問題です。分譲マンションでは定期的に外壁や屋上、共有部部などを修復する大規模修繕工事を実地するのが一般的です。マンション建設後、適切な維持管理や修繕がなされていない場合、安全性の低下や居住環境の悪化のみならず、周辺の住環境の悪化や地価の押し下げなどの問題が発生する可能性もあります。
今後は、築後長い年月が経過した多くのマンションで大規模な修繕が必要となりますが、そのための資金不足が懸念されています。国土交通省の調べでは、修繕積立金が計画よりも不足しているマンションは全体の約35%となっています。築後長年を経過したマンションでは、居住者が高齢化していることもあり、修繕積立金の不足を解消することが困難になりつつあるという厳しい現状があります。