じじぃの「歴史・思想_621_宮本弘曉・日本の未来・シン①・教育の未来」

Yukichi Fukuzawa & Harvard University

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=wL9cdXDnY-E


【留学生の動向データ】海外留学する日本人は増えているのか・減っているのか?

2020年12月24日
下記が2017年までの「留学者数の推移」について発表されたデータです。
黒い折れ線グラフの推移を見てください。これを見ると80年代半ば以降、右肩上がりに順調に増えていた留学生数が、2004年をピークに毎年減少に転じていることがわかります。
https://cebu3.com/data-study-abroad/

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第5章 日本経済再生への提言 より

労働市場改革」のために、いま何が必要か?

ここまで、日本経済の現在、未来を考える際に重要なメガトレンドの変化、そしてそれが日本経済に及ぼす影響について見てきました。日本は現在、多くの課題を抱えており、また、今後もメガトレンドの変化により大きな影響を受けることが予想されます。
では、今後、日本経済を再浮上させるためには何が必要なのでしょうか? 最終章では、この問いについて考えていきたいと思います。まずは、私たちの生活と直結する労働について考え、その後、第2章、第3章で取り上げたいくつかの分野について論じることにしましょう。

シン・未来① 教育の未来

メガトレンドが変化する中、教育の重要性がこれまで以上に増しています。長寿化により職業人生が長くなる中、人々はテクノロジーの進歩やグリーン化により経済・社会の変化に直面する機会が増えると予想されます。人生100年時代に、若いころに勉強した内容、知識、スキルだけで長い職業人生を渡り歩くことはほぼ不可能です。
労働者は知識やスキルをアップデートし続けることが求められます。そこで重要となるのがリカレント教育やリスキリングですが、より大きな視点で考えると、教育改革が不可欠です。
以上は第4章でも見てきた内容ですが、では、結局、何を学べばいいのでしょうか。私見では大きく分けて2つ重要なことがあります。
ひとつめは、問題意識、深い思考力、解決能力です。先進国が直面するのはこれまでに経験したことがない課題です。例えば、日本は世界において高齢化のフロントランナーであり、日本が直面する高齢化に関する問題には事前に答えは用意されていません。
こうした課題を解決するには、まず問題を認識し、次にそれを深く考え、そして解決策を導く能力が必要となります。こうした能力は知識注入型の従来の教育では身に付きません。
もうひとつ重要なのは、「リベラル・アーツ」です。グローバル化が深化した社会では、ビジネス・パートナーとなる人物が同じ日本人とは限りません。むしろ、これからは、さまざまな国々や地域で仕事をする、あるいはそうした人々と一緒に仕事をすることが増えると考えられます。そこで必要となるのが、多様な文化、歴史、宗教、価値観などについての知識と理解です。リベラル・アーツはそれらを学ぶためのものです。
グローバルな視点を身につけるために有益なのは海外留学です。世界の多様さを肌で感じて知っているのと、日本の均質的な世界のみしか知らないのでは、ライフコースの過ごし方が大きく違ってきます。留学は多様なバッググランドを持つ異質な人々とぶつかり合う中で、世界観を養う絶好の機会です。

図(画像参照)はOECD等のデータに基づいて文部科学省が取りまとめた日本人の海外留学生の推移を示したものです。日本人の海外留学生は1990年代から2000年代前半にかけては増加傾向にあり、2004年にはピークの8万2945人に達しましたが、その後は減少傾向にあり、2018年は5万8720人となっています。
このデータは、受け入れ国の特定の日または特定の期間の在学者情報から収集されたものであり、留学が1年に満たない学生や在学を必要としない交換留学プログラムに参加する学生がカウントされていない可能性があります。短期留学も含む日本人留学生数のデータは日本学生支援機構が提供しています。それによると、留学生数は2009年の3万6302人から2019年には10万7346人と大きく増加しています。これらの統計から、近年、短期留学は増加しているものの、長期留学は減少しているのがわかります。
長期留学が減少した理由としては、まず少子化があげられますが、それだけではありません。若者の内向き志向や留学費用の上昇、さらには就職活動と留学の両立の難しさなどもその理由となっています。

グローバル社会において、国を支える最も重要な資源は、国際的な仕事のできる人材です。日本政府は、官民共同で、意欲と能力のある日本の若者の海外留学を促進するキャンペーン「トビタテ! 留学JAPAN」を実施しています。こうした取り組みは一層強化し、国際人材の育成に国家的な支援体制を整えることが重要です。
国際人材の話がでたので、国際機関で働く日本人職員についても少しだけ述べたいと思います。日本は、国連をはじめとした国際機関に対して、分担金や拠出金といった資金提供や政策的貢献だけでなく、日本人職員たちの活躍を通じた広い意味での人的貢献を行っています。
図からもわかるように、国連関係機関の日本人職員数は増加傾向にあります。2020年末に国連関係機関の日本人職員(専門職以上)の総数は918人と、2001年の485人の約1.9倍にまで増加しています。
しかしながら、これは十分な数ではありません。例えば、日本以外のG7諸国では専門職以上の職員数は1000人を超えています。また、国連事務局は各国の人口や分担率に応じて「国籍別の望ましい職員数」を算出していますが、日本人職員数はそれを大きく下回っています。筆者も国際機関のひとつであるIMFに勤めていたことがありますが、日本人スタッフ不足は常に大きな課題となっていました。
国際機関で働く日本人職員の方々は、グローバルな課題を解決し、国際社会に貢献するだけでなく、日本と国際機関、さらには国際社会とも「架け橋」として重要な役割を果たしています。これは、国際機関で日本人職員のプレゼンスは高まれば、国益にもプラスになるということです。日本は国際立国として、国際機関で働く日本の人材のプレゼンスを高める支援を強化すべきです。