じじぃの「歴史・思想_611_宮本弘曉・日本の未来・7つの分野・経済成長」

World GDP(nominal) per Capita in 2022 - Richest Countries in Europe,Asia,Africa,Oceania,Americas

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=60tSPRS6XUc

Countries or territories by GDP (PPP) per capita in 2022.


38 maps that explain the global economy

Updated Dec 18, 2014 Vox
https://www.vox.com/2014/8/26/6063749/38-maps-that-explain-the-global-economy

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国際通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第2章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(前編)――メガトレンドの変化が影響を与える「7つの分野」 より

ここまで、日本・世界経済を取り巻く3つのメガトレンドの変化――「人口構造の変化」「グリーン化」「テクノロジーの進歩」について見てきました。これらのメガトレンドの変化は社会に様々な影響を与え、私たちの生活や働き方すら一変させます。
本章及び次章では、これら3つのメガトレンドが影響を与える「7つの分野」に注目して、それぞれの分野の現状と課題、そしてその未来図について考えます。その7つの分野とは次の通りです。
 1.経済成長
 2.財政
 3.医療・健康
 4.農業・食料
 5.教育
 6.エネルギー
 7.地方・住宅問題
もっとも、これらの分野はそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響しあうものです。例えば、人は年をとると病気になりやすくなったり、怪我をしやすくなったりします。つまり、高齢化が人々の健康に影響を与えた結果、医療や介護にかかる費用が増加します。これは社会保障費の増加を通じて、国の財政悪化につながります。
さらに、高齢化により人々の消費スタイルは変われば、それは企業の戦略やあり方にも影響し、最終的には、経済成長を左右します。それだけではありません。自宅を所有する人たちが高齢化により、老人ホームなどの高齢者住宅や子供宅に転居すれば、空き家が発生し、その地域の活力にも影響します。
このように、これらの分野は互いに密接につながっているため、メガトレンドの変化が与える影響も単純ではありません。ただし、ある程度単純化して整理することで、それぞれの分野の現状や課題をハッキリさせることができ、未来図も描きやすくなります。
それでは、早速、それぞれの分野をみることにしましょう。

メガトレンドが影響を及ぼす分野① 経済成長

日本のGDPの現状と課題

図は購買力平価で換算した名目GDPの推移を示したものです。日本は1990年代にはアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国でしたが、2000年に中国、2009年にインドに追い越され、2020年には4位となっています。また、アメリカも2017年に中国に追い越され、世界1位の座を奪われています。「世界で1番の経済大国はアメリカ、日本は第3位」と思っている方も多いと思いますが、購買力平価で換算したGDPをみると、どちらも正しくありません。
GDPは国力を測るのには適した指標ですが、人口サイズに影響をうけるため、人々の平均的な豊かさを測る際には、GDPを人口で割った「1人当たりGDP」がよく用いられます。そこで、次に、国民1人当たり名目GDP購買力平価換算)の国際比較をしてみましょう。
図(画像参照)は2020年の世界における国民1人当たり名目GDPの順位を見たものです。1位はルクセンブルクで、次いでシンガポールアイルランドとなっています。G7で1番順位の高いのはアメリカの8位です。次いでドイツの18位、カナダの25位となっています。
日本は何位かというと世界で33位です。なお一国の経済規模を表すGDPで世界1位と3位だった中国とインドは、それぞれ78位と129位となっています。
アジアにめを向けると、トップは世界2位のシンガポールです。シンガポールの1人当たり名目GDPは9万8500ドルで、日本の倍以上の値となっています。順位は、シンガポールに次いで、香港、マカオ、韓国、韓国、日本となっており、日本はアジアの中で6位に過ぎません。
日本の順位の推移をみると、1990年代には20位前後をキープしていましたが、2000年年代に入ると順位は大きく下がり、近年は30位前後となっています。多くの日本人は世界の中でもトップレベルの豊かな暮らしをしていると思っていますが、世界での順位をみると、決してそれほど豊かな生活を送っているわけではないことがわかります。
なぜ、この20~30年の間に日本の国力はこんなにも大きく落ちてしまったのでしょうか? 日本が衰退した理由のひとつは、日本経済がデフレにより長期停滞に陥っていたことです。日本経済は1990年前半のバブル崩壊後、デフレの長期停滞に陥りました。この長期停滞は2010年初頭まで続いたため、「失われた20年」と言われます。
デフレは「経済衰退の病」と言われています。デフレは消費と投資を低迷させ、その結果、経済の収縮を招くからです。長期デフレが、この30年間、日本の経済力を低下させたことは間違いありません。

メガトレンドの変化に対応できなかった日本経済

しかし、日本経済の低迷はデフレだけが理由ではありません。日本経済が衰退した最大の理由は、日本経済がメガトレンドの変化に対応しなかったことにあります。
この30年間で日本経済を取り巻く環境は大きく変わりました。日本では人口減少と高齢化が進み、世界では技術進歩、グローバル化新興国の台頭などのメガトレンドの変化が起きました。しかしながら、日本経済を支えるシステムは進化しませんでした。言い換えれば、日本は時代遅れの経済システムを使用し続けたため、メガトレンドの変化についていけなかっただけではなく、衰退の道をたどったのです。
メガトレンドのひとつである人口構成の変化は今に始まったことではありません。前章で観たように、日本は1990年代半ばにはすでに高齢社会となっていました。また、日本の人口が、実際に減少局面に入ったのは2000年代後半ですが、人口減少はそのずっと、前から予想されていました。
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特に問題なのは雇用システムです。「終身雇用」や「年功賃金」といった日本の雇用システムは、若い人口構造と高い経済成長を前提にしたもので、高齢化が進み、経済が低迷する中では、すでに機能しなくなっています。また、技術進歩やグローバル化によって産業構造が大きく変化し、スムーズな雇用調整が求められる中、日本の雇用システムは雇用の固定化を招き、うまく機能しないどころか、経済によくない影響をもたらしています。
実際、古い体質の雇用慣行の維持、雇用の硬直化は、日本の労働生産性を下げる要因にもなっています。労働生産性とは労働成果の指標であるモノやサービス(付加価値)を労働投入量で割ったものとして定義されます。
労働生産性の国際比較を毎年発表している日本生産性本部の本部の報告(2020年12月)によると、2019年の日本の時間当たりの労働生産性は47.9ドル(4866円)と、OECD加盟国37ヵ国中21位でした。これはOECD平均の59.3ドルを約2割も下がった数字です。日本の労働生産性はG7の中では最下位で、G7で最も労働生産性が高いアメリカ(77.0ドル)と比べると、6割程度の水準となっています。

メガトレンドが今後の経済成長へ与える影響

ここまで国際的な視点から日本経済のこの30年間の動き、世界での位置づけ、そして、この衰退の理由を考えてきました。ここからは*メガトレンドの変化が、今後の日本のマクロ経済、とりわけ経済成長にどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。
経済理論によると、一国の生産量は、資本、労働、技術の3つの要素に左右されます。わかりやすく言うと、人(労働)が機械(資本)と一緒に技術を利用しながら、モノを作ったり、サービスを提供したりするということです。経済成長は生産量の増加にほかならないので、労働力の増加、資本の増加、そして技術進歩によってもたらされます。
つまり、3つのメガトレンド――人口構造の変化、グリーン化、テクノロジーの進歩が、今後の経済成長に大きな影響を与えるのです。
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ここでAIが経済成長にどのくらい影響を与えるか分析した調査研究をいくつか紹介しましょう。
アクセンチェアは世界経済の総生産の半分以上を占める先進12ヵ国について、AIが経済に与える影響を分析しており、2035年には経済成長率が倍増する可能性があるとしています。この調査研究では、AI技術によって働き方が根本的に変わり、労働生産性が最大で40%高まるとも予測されます。
また、プライスウォーターハウスクーパースPwC)の調査研究は、2030年までにAIの活用によって世界のGDPは14%増加すると予想しています。AIによるGDPの押し上げ効果が1番高いのは中国で26%、金額にして7兆ドルに相当すると予想されています。次いで効果が大きいのは北米の15%で3.7兆ドルとなっています。日本を含みアジア先進国のAIによるGDP押し上げ効果は10.4%、金額にして0.9兆ドルと、北米・中国のわずか1~2割となっています。
これらを含む多くの研究はAIが経済に重要なインパクトを持つと考えていますが、その効果がどれくらいなのかを正確に知ることは難しく、限界があります。というのも、これらの技術はまだ新しく、開発・普及途上にあり、その利用実態に関する情報やデータが限られているからです。