じじぃの「歴史・思想_607_宮本弘曉・日本の未来・はじめに」

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=F289qpeZDgc


101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国際通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

はじめに――日本再生の鍵は「データとファクトを知ること」にあり! より

私は、東京都立大学で研究、教育活動を行っている経済学者です。それまでは、アメリカの首都ワシントンDCにある国際機関、国際通期基金IMF)で働いていました。
IMFではエコノミストとして、世界の経済動向と政策の分析を行っていました。とりわけ、財政問題や構造問題などのマクロ経済に関する調査研究や、政策に関する業務が私の担当でした(IMFで私が行った調査研究の成果の一部はのちほど、本書でも紹介します)。また加盟国を訪問し、経済情報を収集するとともに、その国の経済状況および政策について政府当局者と協議する「ミッション」と呼ばれる海外出張にも参加しました。
多様な社会的・文化的背景を持つ人たちと一緒に、世界経済の動向を追いかけ、世界の経済政策に携わるIMFでの日々は非常にエキサイティングで充実したものでした。また、国際機関に身を置くことで、これまでとは違った視点で日本を眺められるようにもなりました。
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現在、日本の国力は低下、世界の中で日本の存在感は急速に低下しています。国民1人当たりの所得を見ると、今から30年ほど前は、世界のトップ5に入っていましたが、その後、世界における日本の順位は凋落、2020年には24位となっています。
アジアでの位置づけも変わりました。日本はアジアで一番の先進国であると考えている日本人は少なくありませんが、残念ながら、1人当たりのGDPをみると、日本はすでにシンガポールや香港に追い抜かれています。
最近では、「日本は成熟国になったので、経済成長を追い求める必要はない」「人口が減っても1人当たりの所得が減らなければ問題はない」などという意見が聞かれるようになりました。果たして、本当にそうなのでしょうか?
グローバル化が進む中、日本が国際社会で存在感を示すためには強い経済力、国力が必要不可欠です。近年、中国が政治、外交、軍事、サイバー空間、宇宙など、あらゆる分野で存在感や発言権を増していますが、その理由は中国が世界第2位の経済大国になるほど、その経済力が増したからです。
また、そもそも日本が世界から一目置かれ、世界から羨望の眼差しを向けられる今の暮らしがあるのは日本経済が強かったからです。成長が止まり、他の国にどんどん追い抜かれるようになれば、日本のプレゼンスも低くなり、現在のような豊かな生活はできなくなる可能性は十分にあります。

では、この先、日本経済はどうなるのでしょうか? 日本経済は多くの問題を抱えていますが、このまま衰退の道を歩むしかないでしょうか? それとも、このような厳しい状況でも再び繁栄の道を築くことはできるのでしょうか?

そのための第一歩として必要なこと、それは、日本や世界で今、何が起こっているのかをしっかりと理解することです。ここでのポイントは日本でけではなく、世界にも目を向けることです。グローバル化が進んだ社会では、世界情勢が日本経済に大きな影響を与えます。グローバル化が進んだ社会では、世界情勢が日本経済に大きな影響を与えます。日本だけでなく、世界の大きな潮流(メガトレンド)を理解することが重要です。
グローバル社会でビジネス環境が大きく変わる中では、個々の国の課題だけを考えていると全体像がつかめません。世界の経済社会の変化をしっかりと理解したうえで、日本経済の現在、未来を考えることが重要です。

日本と世界を激変させる「3つのメガトレンド」とは?

そのうえで、抑えておくべき「3つのメガトレンド」が存在します。それは、①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、そして③テクノロジーの進歩の3つです。
まず、人口構造の変化について。日本では人口減少が進む一方、世界では人口が爆発的に増加しています。また、人口構成も大きく変化しています。地域ごとに差はあるものの世界では高齢化が進んでおり、日本はそのフロントランナーとなっています。
次に、グリーン化について。地球温暖化は、私たちが直面している最大の問題で、私たちの将来に大きな影響を与えることは間違いありません。世界は今、地球温暖化の原因である温室効果ガスを削減すべく、脱炭素化に向けて大きく舵を切りました。脱炭素を実現するためには、エネルギーや自動車などの産業構造をはじめ、既存の経済構造を大きく変える必要がありますが、これらの変革は人々の行動、生活様式、働き方、企業の経営戦略、政府の在り方や政策に大きな影響を与えると考えられます。
最後、テクノロジーの進歩も私たちの暮らしや社会を大きく変えます。AI(人工知能)、ロボット、ビッグデータ、IOT(Internet of Things)などという言葉を毎日のように耳にします。現在、世界では第4次産業革命とよばれる技術革新が起こっています。
これらのメガトレンドはそれぞれが独立に経済・社会に影響を与えるだけにとどまりません。相互に関係しあいながら、私たちの現在そして将来に影響するのです。
例えば、日本では長寿化が進んでいますが、それにより今後、人々の働き方は大きく変わることになるでしょう。
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本書では各種データやアカデミックの世界、政策の現場で広く知られている研究成果を豊富に取り込んでいます。タイトルにもある通り、101データ(図・図表・写真)を基に日本、世界経済に関するファクトを知ることで、日本が抱える課題が全体像の中で把握できるようになるはずです。また、正確な未来図を描くことは難しいものの、経済・社会のメガトレンドをしっかり把握することで、将来の見通しはずっと明るくなると思います。